47 過去と未来の連携作戦!


「あの、母さんあと30秒稼いでくれませんか?」


 私が今年で一番、未来人が嫌いになった瞬間だった。龍志という悪党を足止めするために、私は手順通りやったのに。未来人に対して最も好感度の低い30秒になりそうやで!


「で、何がチェックメイトや?」


 龍志という大男が、ぜーはーと整わない息でそれでも私に近づいてくる。今は、ちょっととびかかってくれば私に触れられる距離である。力押しになったら負ける状況。やばいのである。


「いや、私にそれ以上近づかんほうがええと思うな」


「はっはっは…」


 わざとらしい笑い方。完全に私のことを舐めている様子。ただ、うれしいこともある。優位に立ったと思ったのか、単純に疲れているのかわからないけれど、それ以上私に近づこうとしない。私が案外冷静なので警戒している可能性もある。スタンガンか何かで武装していている可能性くらい考えているはずである。


 それなら、もう少しプレッシャーをかけて近づきにくくしてやろう。私は様々な脅し文句を考えるが、私の武器はやはりお金によるバックパワー。


「あなた、ダークファルコンって知ってる?」


 私の背後には闇の組織がついていて、酷い目にあいたくなければ自分のシマに早く戻るのだ! そういう、意味を込めて謎の組織を今作り上げた。構成員はたぶんきっと、セキュリティーの3人と、木下さんだろうけど…。


(さぁ、恐れおののくがいい!)


「ぷっ」


 しかし、目の前の大男は私の想像とは異なるリアクションを始めた。どう見ても笑っているようだけど、もしかしたら怖すぎて壊れてしまったのかもしれない。


「ダーク…。それ真面目に言ってる? ははははははは…」


 龍志という男は、人差し指を私に向けながら「プークスクス」っていうニマりとした表情。ちょっと古臭いながらも他人を煽るには十分ムカつくその表情。


「…え、いや、ほんまにあるんやで?」


「いやいや、何をおっしゃいますかぁ。そういうのは中学校で卒業せな」


 龍志という男は私のネーミングセンスを小ばかにする。やめて、欲しい。そこは唯一私のオリジナルなのだから。


 しかも、しかもである。バタバタと足音が聞こえてくる。どうやら足止めしていた三兄弟が追い付いてしまったらしい。


「龍志さん! 弟者がちんまい女にやられました」


 しかし、三兄弟は二人に減っていた。小さな女にやられたということは、倒したのはメイコさんだろうか?


「で、今はどうなってるんですか?」


「あぁ、この女がダークなんちゃらとか言うとって、ちょっとからかっとった!」


「ダークなんちゃら?」


 と、今までの経緯を説明する龍志という男。説明において、ダークがかっこいいとか思っていいのは中学生までとか、そんなはったり通用すると思ってる時点で察し、とかさんざん私のダメなところを指摘してくる。だから、私はだんだん恥ずかしくなってくる。


「いや、強そうやない!」


「あんな、嬢ちゃんはみんなに優しくされて育ったからわからんのや。ええか、世間一般ではな、そういうのは恥ずかしいんやで。さっきの『チェックメイト~』もそうやけどな、妄想で世界は動かへんのや。ちゃんと現実見て行動せなあかんで」


「うう~ん…」


 と、悪党に正論ぶつけられて複雑な気分になってくる。普段から悪いことしているやつなんだから、もう少し劣等感抱いて生きていてほしいものなのに、私がちょっとくらい変な組織名つけたからってそこまで言わんでもええやん。こっちはかっこいいと思って名づけてんねん!


「やめて、傷つくやん!」


「嬢ちゃんも一度くらいチャカの弾食ろうてみればわかるかもな! ははは」


 龍志という男は腹の傷を見せびらかす。薄暗いのでよくわからないけれど、確かに縫った跡があるようだった。


(一度大丈夫なら追加で二~三発は誤差やね)


 まもなく天井からドローンが突撃してくるというのにこの男たちは実に楽しそうだった。げらげらと人を馬鹿にして笑っている。しかも、三兄弟(今は二人だけど)は「マジすか、ウケますね」くらいしか言ってないのに、無性に腹が立つのである。


 でも、良いの。


 キーン…。空から音が響き始める。


「発射まで5秒、4、3…」


 左衛門のアナウンスに合わせて私は体を翻し柱の陰にしゃがみこんで身を隠す。そんな様子を見て龍志という男はさらにはしゃぐのだ。


「あれれぇ? 恥ずかしすぎて泣いちゃった?」


(知らないって哀れね…)


 どんなに設定がアホらしかろうとも…。お喜びとあれば、私はウソ泣きだってしてやろう。ただし、お前の断末魔と引き換えにな!


「しくしく!」


「2、1、発射!」


 調子づいていた龍志。しかし、ダダダダダという連続の銃撃音が響き、弾丸が床のタイルをばらばらと砕いていく。細かい破片が飛び散って服に何個かぶつかったのがわかる。これが、実弾! こんなドローン日本に忍び込ませているとかあかん国もあるもんやな。


「はうっ」


「龍志さん!」


 私が感心していると、一人の大男が変な声を上げて気絶してしまった。龍志という男である。どうやら撃たれたと思ってショック状態になったらしい。


 ≪アナフィラキシーショック!! 一発目よりも二回目がやばいやつ?≫


 ≪それ、蜂に刺された時のやつじゃない?≫


 正直、どういう事情かはどうでもよかった。私は地面にひれ伏し、白目を剥いた男の写真をパシャリと撮影する。


「左衛門、いい絵が取れたから送るね!」


 白目を剥いてあおむけに倒れる大男。しかも、股のところから湯気が立っている。


 ≪うわ、漏らしてるwww≫


 こいつ、さんざん未来の私をいたぶったらしいので、これくらいのお礼参りは許されるだろう。未来の罪にせめてもの手向けである。


「もしもし、セキュリティー。今どこ?」


「あと3分で到着です」

 

「左衛門、警察は?」


「さっきの銃撃を聞きつけてようやく動き出したようです。ドローンでおびき寄せますね。到着まで4分」


 私は、また北館のほうを向いた。


「助けに行きましょう。彼はすぐそこです」


 連絡橋のすぐ向こう側に駆けていく私。


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