第06話 ママの幸せ=番組のピンチ

22 番組がピンチ 緊急企画会議を招集します!

 

 彰「視聴者の皆様。本日はお詫び申し上げねばなりません。この度、当チャンネルは重大な岐路に差し掛かっているのです」


《玲奈さんが艱難辛苦を乗り越えた結果、こんなことになるなんて…知ってたw》


 左衛門「私たちとしましても、なんとか企画を継続したく考えておりまして…」


《あぁ、この動画を楽しみにしてたから生きてこれたのになぁ。これからどうしようかな。路頭に迷っちゃうなぁ》


 彰「そこで、より良い動画を作るため、本日は緊急企画会議を開催しております。皆様の忌憚のないご意見を随時募集しておりますので思いつく限りのコメントお待ちしております」


 今、左衛門スタジオで企画会議をしていた。私が知らないだけかもしれないけど、視聴者参加型の企画ってなんか未来っぽいと思う。議論の内容は別にしてであるが。


 瀬川「玲奈ちゃんへのきわどい質問コーナーを復活ってのは?」


 彰「もう、同じネタで炎上狙うのも難しいと思いますよ」


 瀬川「あぁ…。散々燃やしましたからね」


《サラリーマンの平均年収5000万円事件》


《結婚するなら国を売れ事件》


《懐かしい、どれもこれもみな懐かしい事件だったね》


(どうやら、私の知らない私の炎上事件があったらしい)


 とにかく、会議は暗礁に乗り上げていた。そして、一つのコメントが目につく。


《これも、ママが幸せになっちゃうからやで》


 玲奈「ええやんか! 幸せになったってええやんか!」


 なにせ、これまでは私の生活の様子を未来のネットに晒しておけば視聴者が稼げたのである。しかし、そういうトラブルの要因を排除してしまった今の平和な私の日常は、視聴者からすれば退屈そのものなのである。


 会議の重たい雰囲気がまるでお通夜みたいであった。私が平穏になったのだからそれでええやん。なぜ、この人たちは私の平穏を心から祝ってくれないのだろうか?


 左衛門「えー、我が母玲奈の残した負債。裁判中とはいえ、万が一全額の支払い命令が出ますと当チャネルは債務超過に陥ります」


 玲奈「あ…、忘れとった…」


 私に何か面白いことしろと言う周囲の圧力を感じる。


 左衛門「何か、コメントから良い意見ありませんかね…」


《左衛門さん。玲奈ちゃんのハッピーエンド値を見てください! ゴールデンクロスを描いてるんです!》


 ゴールデンクロス。お父さんはよくそんな言葉を使った。株をやっている人は知っていると思うけど、要するに何か良い兆候がゴールデンクロスである!


 玲奈「なんや、まだ値はマイナスやん」


 彰「あ、でも変化率プラスになってない?」


 瀬川「そうそう、指数関数的に悪化していた人がこんな平穏な値になることあるんだね」


 左衛門「これは、もしやホワイトホール効果ではないでしょうか?」


 バタフライエフェクトは台風で、運命はブラックホール。左衛門はブラックホールの圧倒的な力について説明してくれたことがあった。大きな力がある台風だったとして、星も呑み込むブラックホールには負ける。しかし、ホワイトホールはブラックホールと対を成す存在…これはもしや。


 彰「ホワイトホール…。予言されているに過ぎない存在ですよね?」


 左衛門「そうです。予言ですが、しかし、実在すれば母さんの人生は超報われることになります」


 玲奈「超報われるの? なんか、すごいやん」


 左衛門「しかし、ハッピーエンド値の微妙な推移を見るに、何か起爆剤的なイベントがやはり必要ですね」


 玲奈「ええよ、超報われるなら一肌脱ぐで!」


 左衛門「こういう時の鉄板ネタと言えば…」


 こうして、私に対する新たな未来人による新企画…ではなく、新たな指示が決まる。


 左衛門「運命の相手を探しましょう!」


 玲奈「さっき、運命から逃れたのに、また運命に縛られに行くん?」


《左衛門さんの表現がおっさんwww》


《↑えっ、今の子、運命とか言わないの?》


《昭和の少女漫画かな?》


《今の少女漫画も純愛多いやん。昭和臭引きずってるやん。おっさん知ってるんやで》


《↑おっさんが少女マンガ読むなよwww》


 一斉にコメントが賑わう。


 彰「左衛門。なんか、ベタ過ぎるけど大丈夫?」


 瀬川「ちょっと退屈そう…。親孝行企画は数少ない人気コンテンツだったのに…」


(私のせいで息子がフルボッコにされている!)


 左衛門「じゃぁ、どうするんですか?」


 一同「…」


 スタジオには再び暗雲が立ち込めるのであった。


 左衛門「えー、もっと賛同が得られると思っていましたが、他に案がないのでこのまま行きます」


 彰「それで、どうするの? 玲奈ちゃんに男選びさせるのはやめた方が良いわ」


 玲奈「えっ?」


 瀬川「そうよ、恋は盲目って言うけどそんなレベルじゃないわよね。恋は猛毒とかそんな感じ?」


《あぁ、ママが毒に溺れたこともありましたね》


 玲奈「えっと、それどういうこと? 誰か説明してくれます?」


 一同「…」


《…》


《今、その話はよそう》


 え…。私、過去(未来)になんかやらかしてるん?


 左衛門「大丈夫! 男選びのセンスがない母さんのことは織り込み済みです。だからこそ、久しぶりに未来技術の登場です!」


 左衛門が私に見せたのは、ソウル・メイター。恋愛相性診断アプリだった。どうにも、未来では一般的らしい。


 彰「あぁ、これなら夢から覚めるわね」


 瀬川「そうね、なんか味気ないけど確実な幸せ掴むならこれが良いかも…」


 彰「ただ、それ動画的にどうなの?」


 左衛門「まぁ、そんなこと言わず。一度くらい親孝行真面目にしましょうよ」


《まぁ、そうね。僕たちも玲奈ちゃんに散々迷惑かけたしね。まぁ、つまらない動画は見ないけども…》


 世界に一人だけの運命の相手を意味する「ソウルメイト」を彷彿とさせるソウル・メイター名前。ロマンチックなのだが、これがめっちゃ実用的で、非常に安定的で無難な平穏を得られる信頼されたアプリのようである。


 玲奈「これ、言うても未来の占いやね?」


 一同「違います!」


 人工知能。AIは学習する。情報を集めたAIほど賢く、60年以上も累積したデータを元に判断を繰り出すAIは私たち今の人間の想像を絶する域に達している。些細な情報を全て覚え毎日のように世界中の人間の行動を勉強し、累計1億人の人間の生体を覚えることで、このAIはホモ・サピエンスの恋愛に歴史的革命を及ぼす存在へと変貌した。


「それこそがソウル・メイターなのです!!!」


「あ、はい…」


「母さんは、結婚してすぐに離婚したいですか?」


「いや、そうやけど、でも機械に決められた関係って言うのは…」


「母さんが選ぶとですね、概ね2年に一度は結婚詐欺にあうんですよ…」


「えっ? 会う確率とかでなくて確定して何回も騙されるん?」


 このAIの特徴としては、単なる話の相性や趣味の相性だけでなく、どれだけ二人の関係に互恵関係が存在するかも重要な判定要素としている点が占いとは異なる部分である。


 特に、気持ちというものは時間と共に変化しやすく安定した人生を望む場合はあてにならない要素である。しかし、互恵関係は異なる。この互いの依存度が高ければ、多少のことがあってもお互いに一緒にいる理由が残る。


「例え生理的に受け付けない相手だったとして、生活に影響が出るなら思いとどまれるんですよ」


 そういった、幸せな生活を送るうえでどちらかが極端な不満を抱かずお互いにうまく付き合って行くための数値を計測し評価し、高性能AIが相手を診断するのがこのソウル・メイターなおである。


 彰さんに言わせれば


「ごちゃごちゃ言わずこいつに従っておけばOK」


 だと言う。


「まぁ、母さん。騙されたと思って使ってみましょう」


「左衛門、今度こそ騙さへんよな?」

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