13 こちら、銀座スカイランドマンション上空②


 そして、そのまま私がスタジオに入ると


 彰「それでは、本日の感想コーナーですが…。その前に、視聴者の皆さん見てください。左衛門さんが口から心臓吐きそうになってます! 娘さんと同い年のお母さんが心配過ぎて自分の仕事忘れてますよ!」


 左衛門「はっ! 母さん無事だったんですか!」


 玲奈「娘さんおるの?」


 感無量という感じの左衛門。目には涙を浮かべ、顔も真っ赤だった。


《おめでとう! 玲奈ちゃん》


《ほんと、おめでとう。俺も泣いた》


 玲奈「あ、はい。ありがとうございます」


 意味が分からない。なんでこんなお祝いムードなの?


《無事?! 私だったらたぶん死んでた。玲奈ちゃんって運動神経いいんだね》


《一発成功ですか? と言うか、本当に一人目の玲奈ちゃん?》


《たぶん三人目の玲奈よ…》


 玲奈「いや! ちゃんと生きとるやん。E5415いいこよいこの玲奈やねん!」


 タイムリープではよくあるよね、そういうの。でも、私の世界線やり直しきかないの。とんでもなく不吉なこと言う視聴者たちである。


 彰「さて、無事に危機を乗り切った玲奈さん」


 玲奈「はい」


 彰「なんと、あの有名なヨミチューバーからボイスメッセージが届いております」


(え、誰やろう…)


 聞くところによると、ヨミチューブで一番のお馬鹿さんなヨミチューバーで偉人に怒られてもめげないをコンセプトに、アホすぎて数多くの大先生からお説教される動画でおなじみのさいふうさん。時々左衛門とコラボしていたりするらしい。


 もちろん、私は未来人のヨミチューバーなんて初めて知ります。




 ご無沙汰しております。左衛門さん、あきらさん、そして、今の玲奈さんは初めましてですね。今日も投稿お疲れさまです。いつもこっそり動画拝見させていただいておりました。今回の玲奈さんはなんと私と同じ大学生。しかも、今までずっと負けていたのに、遂に初勝利です! 感動いたしましたのでお祝いのコメントをお届けさせていただきます!


 ですが、その前に。大切なことを玲奈さんにお伝えします。


「実は、左衛門さんはお母さんのこと嫌いだったんですよ」


 左衛門さんは自分のことあんまりお話ししないので今の玲奈さんは知らないでしょうけど、玲奈さんは左衛門さんを産んだ後すぐに失踪します。左衛門さんはずっとお母さんの顔を知らずに育ったんです。そんな状態でこの企画が左衛門さんの所に持ち込まれたそうで、当初、左衛門さんは親孝行の企画に反対したんだとか。


 だから、最初のころの親孝行動画なんて左衛門さんも魂が全然入ってなくって、同じヨミチューバーとして心配になりました。実際、再生数も少ないし。


「ですが、間違いなく玲奈さんが左衛門さんを本気にさせたんです」


 最初にコンタクトした玲奈さんは30才くらい。既に赤ちゃんを身籠っていました。今の玲奈さんと違って世界を達観した暗い印象の女の人でしたね。既に未亡人のオーラがありました。


「でも、左衛門さんを出産したときの玲奈さんの慈愛に満ちた笑顔を見てから、このおじさん急にマザコンになったんです! 感動してこっちももらい泣きしましたよ」


 だって、左衛門さんは今まで愛されていたなんて微塵も感じてなかったんです。左衛門さんを抱きしめる玲奈さんの笑顔。それを見て、コメントもなく顔を真っ赤にしてひたすら男泣きしていた左衛門さんがとてもとても印象深かったです。


「ちゃんと愛されて左衛門さんが生まれてきたんだってヨミチューブが証明したんです!」


 そして、玲奈さんは今日、このシリーズでは初めて奇跡的大敗北を逃れました。これは、貴方にとって些細ささいなことかもしれません。でも私たちにとっては大戦果と言って過言ではありません。なにせ、これまで何十人という玲奈さんに会ってきて、何千回もコンタクトした結果として、あなたの未来が切り開かれているのです。残念ながら既に闇に落ちてしまった玲奈さんの先輩たちは救えませんが、今のE5415(いいこよいこ)の玲奈さんだけは何とか幸せになってほしいです。そうすれば、左衛門さんもきっと幸せになるから!


 ちょっと何言ってるか、わからないかもしれないけど、これだけは玲奈さんに伝えないといけないと思ってコメントさせていただきました。


「玲奈さん。必ず幸せになってくださいね。そしたら、私も左衛門さんもスタジオのみんなも、ヨミチューブの視聴者も、全員幸せになるんです。絶対ですからね!」




 彰「はい、ヨミチューバーアイドルの風古さん、ありがとうございます」


《あれ、急に画面がぼやけてきたんだけど…》


《珍しくいい話!》


 私の頬に一筋のしずくが流れた。全く、涙もろいのは親子一緒やね。


「左衛門。こんな母だけど、もう少し左衛門に頼ってもいいかな」


「はい、もちろんですとも」


 いや、めでたしめでたしやね。それなら母さんはこれから大学生活を満喫して…


「あの、ところで…ハッピーエンド・インジケーターはどうなっていますか」


「もちろん、反転してV字回復やんね!」


 とはなっていなかった。


「あれ?」


《ですよねーw》


《今までの流れからして、こんな程度で済むわけないよねwww》


《そもそも、お家取り戻さないと…》


 私の試練はまだ続きそうなのである。

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