第02話 エネミー・フレンズ
05 謎の同居人
夢を通じた未来との交信から目覚める。
「う、うぅ…」
なんだか悪夢でも見たようなそういう気分。一生懸命お願いしたのに、そもそも論として過去に戻れないなんて聞いていない。私の息子はほんまに何しに過去に来たんやろう。
やっぱ、動画のネタ探しなんか?
私は布団をめくってから、ぐーっと伸びをしてベッドから起き上がる。朝食には家政婦さんが用意してくれた残り物のシチューがあったのでパンと一緒に食べよう。
ポットをコンロにかけて、ふつふつと煮え始めるポットのお湯。
(確か、コーヒーは沸騰しないくらいのお湯が良かったはず)
今はもう、過去のことは忘れて、一人暮らしの楽しさを満喫しよう。大学生活は始まったばかりだし、多少の嫌なことについてはいつも通り忘れよう。役に立たない未来人が来たところで、結局は後悔よりも次に同じチュエーションでよりよく立ち回ることが重要である。
「あ、玲奈ちゃんおはよう」
「おはようございます」
こちらは昨夜知り合ったばかりの自由人フランソワ・メイコ(本名:鈴木幸子)さん。カエルの着ぐるみのような緑色の薄汚れたパジャマ姿である。彼女は私がコーヒーを淹れる傍らで、新たに同じ食器を用意している。
そして、メイコ先輩は目線でパンをくれと言った。
「あ、どうぞ…」
自然に私の部屋に溶け込む彼女。まるで、この部屋にずっといたかのようであった。私が温めたシチューの鍋。それを、丸いテーブルの真ん中に置いて。そして、私から奪ったパンを浸しておいしそうに食べ始めるのだ。
「ほら、玲奈ちゃんもはよ食べなはれ」
「はっ!」
私は、メイコ先輩のえせ関西弁を聞いてようやく彼女が敵だと思い出した。
(なぜ、メイコ先輩はうちにいるのか?)
他人が急にルームメイトになるという、大阪ではあり得ないような超常現象も東京では起こるらしい。
「あの、メイコさんは何時からここに?」
「ちっす。私、家がないんでお邪魔させてもろてます。よろしくっす」
私の聞きたいことに対して何も答えないメイコ(先輩)であった。もともと好きではない人だし、当然、ルームシェアは断る流れにしたい。そういう雰囲気というかオーラというか、目配せを彼女に向かってする私。こういう時に言葉が出ないのはやっぱり悲しいものである。
ただし、メイコさんは私の
彼女は残像が残るほど素早く地面にひれ伏し、
「ダメっすか? 一日だけでも! ねっ?」
そう言って私の太ももをすりすりと
「いや…」
断ろうと思ったけれど、メイコ(先輩)は話を続ける。
「これまでは私、彼氏の家に泊まっていたんだけどさ。最近、彼氏が二股かけてるみたいでそれを問い詰めたら、今度は急に暴力を振るうようになったの。見てくださいよこのあざ!」
メイコさんは腕をまくって二の腕のあざを見せる。小さなあざ。普通にぶつけただけのようにも見えるが…。彼女は私の足にがっちり組み付いて、顔を
「そんで、昨夜、急に追い出されて
(飲み会楽しんでたやん)
今、メイコさんは話題を次々と変え、この部屋にいた理由を
「お願い、家事、掃除、洗濯なんでもお手伝いしますから!」
「それ全部、家政婦さんやってくれはるよ?」
「え? じゃぁ、その。肩たたきとか、マッサージとか…」
私は深呼吸をする。冷静にならねばならない。
(断らなきゃ)
しかし、メイコさんはついに、大粒の涙をぼたぼたと床に垂らしながら、今度は土下座を始める。
「どうか、何もできないかもしれないけどお願いします」
みじめったらしい彼女を見ていて私は結局断ることはできなかった。
「わかった、次の家が見つかるまでは居ていいよ」
ぱぁっとした明るい顔に変わるメイコ先輩。なんだかこの表情だけでも助けた
「メイコ先輩、せっかくなのでお買い物に付き合っていただけます?」
「もちろん。
メイコさんはつらつらとお勧めスポットを調べてはメッセージに書き連ねる。選択科目で必要なスポーツウェアを買うなら神保町辺りがおすすめ。可愛い文房具のお店が御徒町にある。荷物がたくさん入ってお洒落なカレッジライフ用のバッグは原宿で買おう!
「さぁ、東京見学へレッツゴー!」
そして、勝手にメイコ(先輩)が私を引き連れて、あちらこちらへ私を連れまわすのである。都内をぐるりと一周するようなコースが瞬時に計画され。地下鉄を乗りこなして最短ルートで目的地が結ばれる。
ちなみに、大阪なら、
文房具だけでショッピングモール一つ分、ハンズなんて何号館もビルがあり、ほしいものを見つけるだけでも苦労するほどに品ぞろえが素晴らしい。まわり切れないほど大きな町に秘密の隠れ家が隠されているのだ。なるほど、東京のショッピングは思っているより楽しいぞ!
メイコさんって最初はちょっと微妙だったけれど、一日しゃべっていたら、悪い人ではなさそうだとも思うようになっていた。せっかくだし、楽しい共同生活になればいいな。
そして、そのまま時間が過ぎ、日が傾く。
二人でご飯を作って、お腹いっぱいになって、一緒にドラマを見て、お風呂も入ってさっぱりしたころである。
そして、そろそろ寝る時間である。こんな時にメイコさんは着替えはじめた。昼間に買ってきた洋服に着替えて外へ行くらしい。
「それじゃ、出かけてくるね」
「こんな時間に?」
「ライブハウスのアルバイトがあって。帰ってくるのは明け方になるよ」
「大変ですね。気を付けてください」
「行ってきます」
そうして、メイコさんは夜の東京に消えてしまった。都内を歩き回ってくたびれた私は特に深く考えることもなくまた、すぐに眠りにつく。
(今日はなかなか良い一日だったな…)
夢に落ちて行く私。ぐっすりと眠りにつき、やがて左衛門の声が聞こえてきた。
「母さん、貴方はバカですか?」
「あん? なんやて?」
どうやら、私は何か失敗をしたらしい。
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