短編53話 数ある僕と読者と仲間たち
帝王Tsuyamasama
短編53話 数ある僕と読者と仲間たち
「
「あはは、お父さんが昔使っていたやつをもらっただけだから。ほらフロッピーディスクもあるよ」
今、
幼稚園のときからよくしゃべる間柄ではあったけど、中学校に入ってからうちに来ることがちょこちょこ増えてきた。
いつもは一階のリビングでカードやボードゲームとかで遊んだり宿題を一緒にしたりすることばっかりだったけど、部屋の話になったときに阿理佳が僕の部屋を見てみたいって言い出したから、今こうして僕の部屋に阿理佳が立っている。
僕が男子の中では身長低め、阿理佳が女子の中では身長少し高めなこともあって、並んで立つと僕の方が少し低い。
阿理佳は髪が肩を少し越すくらいの長さ。今日みたいな休みの日だと髪型は三つ編みをひとつ作って、頭にカチューシャを付けていることがほとんど。学校のときはハーフアップっていう結び方だって名前を教えてもらった。う~ん女子のおしゃれっていうやつなのかな?
今日は水色でちょっとフリフリ付いてる服を着ている。僕は紺色の服。
「あらっ、ふふっ、この写真を壁紙にしているの?」
「あ、う、うん。なんか、こういうたくさんの人がいる写真って、いいなって思って」
起動が完了したと同時に画面へ映し出されたそれは、この前の夏休みに阿理佳の家でたくさん友達が集まったときの写真。阿理佳の家は大きいからなぁ。
僕たちは三年生だから、中学生活最後の夏休みだった。みんな笑ってる。
(……阿理佳と腕組んだあれ、よく覚えてる……)
写真を撮るときに阿理佳から僕の右腕を抱えてきた。ちっちゃいときからよくしゃべってるからなのか、それとも~……
(で、でも僕別にかっこいいところとか、ないしなぁ……)
勉強は平均点よりちょこっと上かな~、スポーツも別にそんなぱっとしないし~な僕。んまぁ友達は少なくないとは思うけど……。
「あら、これはなにかしら。文章?」
「わ! それはっ!」
しまった! 阿理佳がぽちぽちマウスを操作して開いたそのファイルはっ!!
「……これ、小説? 雪真は小説を書いているの?」
「あ~……うん、まぁ、ね。辞典とか横に置いてあるのもそのためで……」
そう。僕は小説を書いている。別に隠しているっていうわけじゃないけど、クラスでそんな話は出てこないから特に言う機会がないままっていうだけ……。
「恋愛物なのかしら。おもしろそうじゃない。読んでもいいかしら」
「ぅえぇ~っと……いいといえばいいけど、好きなように書いているだけだよ?」
「では読ませてもらうわ」
「う、うん」
阿理佳は僕がいつも使っている背もたれ付きのくるくる回れるイスに座った。紺色のやつ。
(てかそれ座ったら次パソコン使うとき思い出しちゃうじゃん……)
「…………ねぇ雪真」
「はい」
ぽつりと阿理佳。
「さっき、好きなように書いているって言っていたけれど、だれかに見せたことはあるの?」
「ううん、阿理佳が初めてだよ。小説の話なんてクラスで出ないし」
「コンテストには出しているの?」
「コンテストなんてそんな、考えたこともないよ」
あ、ここで阿理佳がこっち向いた。
「……わたくしがコンテストに出しなさいって言ったら、出してくれるかしら」
「ええっ!?」
すっごくこっち見てそんなこと言っちゃってますけど?!
「今まで出そうなんて思ったことなかったけど、あ、阿理佳がそう言うんだったら……」
何十・何百・何千人が戦うのか知らないけれど、僕なんかよりよっぽど努力している人なんてめちゃくちゃいっぱいいるわけで……。
「雪真」
「な、なに?」
阿理佳は立ち上がった。やっぱり身長高いなぁ。
(ってうわっ!)
「三年四組の総力を挙げて雪真を応援するわよ! いいわね!?」
ちょちょ阿理佳が僕の両手を握っ……
「そ、総力? えっ、クラス中に広めるの?」
「雪真がクラス中に広まるのが嫌だって言うのならやめておくけど……でも、わたくしは……」
ううっ、なんかおめめきらきらしてる……?
「……こんなに人知れず頑張っている雪真を、応援したいの。だめかしら」
(ズキュゥーン)
「あ、阿理佳の言うことを断るわけないよ。えと、応援、よろしくお願い……します」
あっ、阿理佳の目に炎が宿った……?
「ふふふ……わたくしによる三年四組室長の本領発揮する場面が、ようやく巡ってきたわけね……ふふふっ……」
そうだった。阿理佳は室長、つまり三年四組の学級委員長だ。
(そ、総力を挙げてって……一体…………)
しかも明日の月曜日って、四限目に学活あるじゃん……。
次の日
三限目の社会が終わって、休み時間に入った。
「雪真」
「う。は、はい」
窓際の僕の席にセーラー服の阿理佳がやってきた。やっぱり髪型はハーフアップ。僕はただの学生服。
「次の時間……いいわね?」
「お、お任せします」
ああっ……なんだその笑みはっ。
「班長は決定したわ。次に班員の編成ね。
「任せて。みんな! 誤字脱字修正班は忍耐力がいるかもしれないけれど、コンテストに出すためには必要不可欠な役割よ! あたしもサポートするから、希望する人は手を挙げてちょうだい!」
「あ、あたしやってみようかなー」「オレもそれくらいならできっかもな」「僕の単語暗記力を披露するときが来たようだね」「ねー一緒にやるー?」「うんやるやるー」
(あはは……)
教卓の前に立つ阿理佳。その横には僕が自分のイスを持ってきて座らされているんだけど、僕たちの周りにはさらに三人が立っている。
ボブカットでおなじみの
阿理佳よりもうちょこっと長い髪をひとつでくくってる
僕よりも身長が低い男子、
あーあ黒板には『田江村雪真応援隊!!』なんてででーんと書かれちゃっている……。
担任の
黒板に手を挙げた班員たちの名前……ぁ下の名前書くんだ。が並べられていく。
「えっと、イメージ絵班長になりました、伏水玖美です。あの、今回のコンテストには表紙の絵や挿絵は関係ないみたいだけど、でも、絵を描いて田江村くんに見せてあげたら、もっと田江村くんのイメージがふくらんでくれるんじゃないかなぁ、って思います。だ、だよね……?」
「あ、うん、そ、そんなうれしいことされたことないから、まだよくわからないけど……」
伏水さんにこっと笑った。
「このお話を読んでもらうきっかけにもなるかもしれません。一緒に絵を描いてくれる人、いませんか? よかったらお願いします」
「なーそれって美術部とかのうまいやつらじゃないとだめな感じかー?」
「ううん、そんなことありません。上手下手なんて関係なく、絵を描きたい・想いを届けたい、そんな人ならだれでもうれしいです。お願いします」
「ならオレやってみっかなー?」「あんた絵得意じゃん、いきなよ!」「へあっ、あ、あたしの底力を見せるときがきたようね!」「私も~」「うちもやりたーい」「オレやるわ」「おし僕もやるぜ!」
あぁ~、ほんとにクラス中を巻き込んじゃってるよ……。
「このたび、シナリオ確認班長を仰せつかった津山幸介とは、私だっ!! いいか! シナリオ確認班とは、ようは話のつじつま合わせの確認をする班だ。前後の話の流れはちゃんと合っているのかどうか。女子なら女子らしいか、男子なら男子らしいか、身に付けている物にブレがないか、設定と食い違っていることはないか。そのような間違いを探し当てるのが我らの目的だ。様々な視点で物語を読む必要がある。それだけ多種多様で幅広い人材が必要だ。どうだ、我らとともに田江村の物語を支援する者はいるか!」
「うし、オレ様の出番だな!」「お前アニメ好きだもんなー。オレもやるぜ」「おもしろそう~、あたしもそれやるー」「私の荒れ狂う知識……ついに封印を解くときが来たわ」「ね、一緒にやろ!」「いいね! やろやろ!」
先生なんでそんなにっこにこしてんの……?
阿理佳の声かけによって、班員がすべて編成されたらしい。黒板にはずらーっと並んだ班員たちの名前。ちなみに阿理佳は総合統括長らしい。補佐二人も付けた。
「それでは雪真より一言ちょうだいしようかしら」
「あ、はい」
阿理佳からそんなことを言われたので、僕は立った。うわーみんな僕のこと見てるよ……。
「あー、えっとー……ぼ、僕なんかのために協力してくれて、ありがとう。次の真・
「みんな! 雪真を優勝させるわよ! えいっ! えいっ!」
「おぉーーーーーっ!!」
ほ、ほんとに阿理佳の言うとおり、総力挙げちゃってるよぉ……。
「残りの時間は各班に分かれて改めて役割の確認をしましょう」
班長たちがこっちーと手を挙げながら班員たちを集めていた。教室内がやがや。
「せ、先生、こんなことに学活の時間使ってよかったんですか……?」
僕はずっと気になっていたことを浅浜先生に聞いてみた。
「いいのいいの。もう好きなだけ青春を
「はぁ……」
やっぱりにこにこしてる。
「あ、田江村くん」
「はい、なんですか?」
「印刷は先生がしてあげるから、原稿出来上がったらもってきてちょうだいね」
「…………はい」
先生もノリノリだった。
(なんか、今日はどっと疲れたなぁ)
全然嫌な疲れじゃないけど、こんなに目立つのが初めてのことすぎて……。
(……ちゃんと書かなきゃなっ)
頑張ろう。みんなが応援してくれてるんだ。そして……
「待たせたかしら」
「ううん」
「では帰りましょう。今日から毎日一緒に帰るわよ」
「ええっ?!」
なんか決まっちゃった!?
「応援しているわ、雪真」
短編53話 数ある僕と読者と仲間たち 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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