変な掃除機の片想い

@topology

第1話 最悪の出会い

 それは、春休みの初日のことだった。私は母に頼まれて、いつものように掃除機をかけていた。ずっと買い換えていない古い掃除機なので、かけ終わるのに時間がかかる。ただ、それだけに少し愛着もわいていた。

「いつもありがとう」

 掃除機にこんなことを言っても無意味かもしれないが、なんとなく気分が良くなるので始めた。気づけば習慣になっていた。

 気持ちよく掃除を終え、掃除機の電源を切ろうとしたその時だった。

「ふっ。照れますね。ぐふふ」

 !? びっくりして、私は掃除機から手を離した。掃除機が、しゃべった? いや、気のせいだろう。掃除機がしゃべるだなんて、そんなことあるはずもない。  一瞬思考停止した頭を再起動している間に、行き場を失った掃除機の体は無防備に床に投げ出される。

 ガンッ!

「痛いっ!ひどいじゃないですか。こんなの初めてですよ」

 …………。色んな感情で頭がパンクしていたが、強烈に感じたことがある。

 しゃべるとか以前に気持ち悪い。

 



「綾香!いつまでやってるの。はやく片付けなさい!」

 しばらく呆然としていた私は、一階からの母の声で我に返った。

「お、お母さんっ! そ、そ、掃除機が」

 動揺して言葉が出ない。

「掃除機がどうかした? 故障でもしたの」

「い、いや。そうじゃないけど。しゃ、しゃべ」

「じゃあ大丈夫ね。お母さん、買い物に行ってくるから」

 そう言って、母は出て行ってしまった。


 さて、これからどうしよう。もう二度と見たくないと思うくらい、私は掃除機が嫌いになりそうだった。

「ねえ、なんで急にしゃべるようになったの?」

 いくら嫌悪感があると言っても、好奇心は抑えきれなかった。ひとりでにしゃべる掃除機など見たことがない。もしかしたら何かの役に立つかもしれない。いいところだって見つかるかもしれない。ほんのちょっと期待を抱き、返答を待った。

 ……なぜか、返事が返ってこない。よく聞くと、なにやらぶつぶつと声が聞こえる。

「ねえ!聞いてるの?」

 しびれを切らして私はもう一度呼びかけた。

「はっ。申し訳ない。あなたの名前を呼ぶ練習をしていたんですよ。しかし、綾香。綾香。呼べば呼ぶほどいい響きだなぁ」

 やっぱり気持ち悪い。電源を切ってしまおうか。

「綾香。私、あなたが好きなんです」

 ……ん?

「私と結婚してくれませんか」

 ブチッ。私はコンセントを抜いた。

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