姉さんに言われて底辺Web小説家救済の為のデスゲームを考えてみたんだけど、野球の方がやっぱりいいなぁ

富升針清

第1話

「忘れたわけではないでしょ!? この力ワ彐厶コンテストのルールをっ!」


 勿論だ。

 全て承知の上で俺らここに居る。

 生き残れば、書籍化検討。

 負ければ、人生一斉清算。割りの合わない底辺者の為のコンテストっ。

 この会場に集められたのは、誰もが作品閲覧数三桁未満の底辺Web作家のみ。

 その底辺Web作家に唯一与えられたチャンスがこの力ワ彐厶コン。

 参加者に与えられたのは自分が選んだ作品を模したカード。

 ジャンル毎に色分けされており、閲覧数×フォローの数字が書かれている。

 カードの数字を競ってカードを一対一で出し合う。競ったカードの数字の多い方が勝ち。単純明快なルールの元、カードを無くした者だけがこの読者選考を通過出来る。

 しかし俺の持っているカードは、最弱のゼロ。

 絶望のカードしかない。

 それでも。

 それでもっ!

 この割りの合わないカードゲームに勝てば俺の作品は読んでもらえるっ!

 読んでさえ貰えれば、絶対に面白い!

 自信があるんだっ!

 負けるわけには、いかないっ!


「貴方がどんなカードを持っていようが、私には勝てない」


 目の前の彼女はカードをテーブルの上に置く。


「私は、最高のカードを持っているの」


 この女を、俺は知っている。

 よく、タイムラインで見かける女だ。

 ツイッターのフォロワー数は、十六人の俺に対して、彼女は八千人。

 桁が違う。

 その為か、彼女の作品には沢山の星が入っていることを知っている。

 しかし、ここにいるという事は、彼女の閲覧数は九十九未満。

 

「俺だって、負けないカードを持っているさ」


 誰と当たっても、負けるしかないカードを俺はテーブルに置いた。


「私が誰だか分かってる? 皆、私に戦いを挑まなかったのは、私に負ける事を知ってたからよ! 貴方は本当に愚かな人っ!」


 彼女の言っている事は間違えではない。


「俺は弱い」


 俺は先にカードを表にする。


「閲覧数×作品のフォロー人数はゼロだ」


 周りの観衆は息を呑んだ。なんて酷い数字なのかと、まるで感嘆すらを飲み込む様に。

 そうだ。酷い数字なんだ。


「あはははっ! 気でも狂った? そんなカードで私を倒せるとでも思ったの!? 私のカードの攻撃力は、八百っ! 貴方が勝てるわけないじゃないっ!」


 そう言って、彼女は自分のカードを捲る。

 そうだ。

 それでいい。

 馬鹿にしろ。

 心底、馬鹿にしろ。

 罵れ、哀れめ。

 俺をとことん蔑めっ!

 慢心しろっ!!

 何も考えず頭を都合のいい解釈で酔わせて馬鹿になれっ!

 カードをお互い捲った瞬間に、このゲームは始まるんだっ!


「八百のカードとゼロのカード、誰が見ても結果は明らかでしょ!?」


 ああ。まったくだ。


「そうだな」


 俺は頷き、女を指差す。


「アンタの負けだよ。カタカタカク子」


 アンタは俺を知らないだろうけど、俺はアンタを知っている。


「はぁ? 何を言ってるの? どう見ても……」

「アンタの負けさ」

「数字は私の方が大きいわっ! それにカードの色を見なさいよっ! アンタはラブコメっ! 私は推理っ! ラブコメは推理が弱点でしょ!? カード相性デメリットで、推理の攻撃力が上がるわっ!」

「アンタ、説明を聞いていたか? 相性デメリットは、攻撃力が上がるわけじゃない。相性メリットじゃないんだ。言葉通り、相性デメリット。つまり、俺側へのデメリットになる」


 そう。各ジャンルには相性と言うものが設定されており、ラブコメ属性を持つカードは推理属性を持つカードニ弱いのだ。

 ただ弱いだけじゃない。

 そこにはデメリットが存在する。

 それは、自分の閲覧数か、或いはフォローされた人数分をマイナスにしても良いと言うデメリット効果。


「一緒よ! マイナスになるんだから! 貴方は、閲覧数ニ、フォローが四百の私の数値分、マイナスされるのっ!」


 そうだ。

 おれのゼロは、更に数値が低くなる。

 しかし、忘れてはいないか?

 もう一つのルールを。


「おいおい、今時の小学生でもしっているぞ? ゼロ引く二は、マイナスニ、ゼロ引く四百は、マイナス四百。マイナス二とマイナス四百をかけると、どうなるかって」

「……え?」


 算数はお嫌いか?

 マイナスとマイナスを掛ければ、プラスになると言う事を。


「そう、俺の攻撃力は、八百に跳ね上がるっ!」

「あっ!」


 俺のカードが、一でも、二でも点数があれば叶えられない技だ。

 しかし、これには同点になるだけ。

 勝つ条件は数字が多い方だ。


「でも、引き分けは無効試合って……っ!」

「勝敗は分からない? おいおい、掲示板に書かれた注意事項は二枚ある事を知らなかったのか?」


 俺はこの絶望のカードを手に入れた時、注意深く掲示板を一人隅々まで確認した。

 そこで気付いたのだ。

 このルールを書いた紙が、実は二枚であることを。

 皆、表に貼られた一枚しかみていなかった。

 しかし、縁の枠は不自然に下のみ途切れている。

 俺はすぐにわかったね。二枚目が何処かに隠れてるって。

 おれは注意深く周りを見渡した。誰とも戦わず、二枚目に記載されたルールに希望を託して。

 二枚目は、すぐに見つかったよ。

 俺たちがここに入る為の招待状の裏。

 その裏に小さく、但し弱点持ちカードを優先するって、ね。

 一枚目のルールを記載した紙の最後には引き分けの場合は無効試合で終わっていた。

 つまりだ。

 この注意分にかかるルールは、同点場合無効試合となる。その文にかかることになるっ!


「うそ、でしょ……?」

「そう、つまり、弱点を持っているカード。ラブコメカードを持っている俺の、勝ちだっ!」

「そんなっ!」

「アンタが負けたのは、その傲慢さ。自分が有名人である事を分かっていたのに、それを隠さなかった頭の悪さだ」


 俺が勝つには、推理のカードを持っている奴と当たらなければならない。

 また、警戒心がなく、慢心しきった相手ではないと意味がなかった。

 でなければ、カードを捲る事さえ躊躇われる。

 弱いカードを持っている奴が、勝てそな相手に声を掛けるのだ。断られてナンボ。

 だからこそ、これほど強いカードを持っていた彼女は残り時間が十分を切れる迄ここに残っていた事になる。

 だが、強いカードを持っていると確信してる人間はそうではない。

 

「そして……、俺が勝ったのは読者のお陰でもなく、自分の力でもない。仲間の、お前をタイムラインで流してくれていた数少ない仲間達のお陰なんだ」


 そうだ。

 きっと、俺一人ではなし得なかった。

 誰とも交流せずストイックに話だけを書いてればいつかは売れる。人の目に止まる。そう信じて走り続けていた。

 そんな愛想の悪い俺をフォローして話しかけてきた仲間たちが、今回の勝ちを運んでくれたのだ。


「悪いな。俺は、仲間達の為にここで止まるわけには行かないんだ……」


 俺は彼女に背を向けて歩き出した。

 読者選考、突破。

 次が、最終っ!!




「どうだい? 磯野。面白い事はあったかい?」

「中島か。駄目だね。用意した蜘蛛の糸に気付いたのは一人だけだったよ。まったく。姉さんも無茶を言うよ」

「でも、一人でもいたなら最終選考は面白くなりそうじゃないか」

「まあね。でも、やっぱり小説よりも野球の方が僕は好きだな」

「はは。磯野らしいや!」


終わり

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姉さんに言われて底辺Web小説家救済の為のデスゲームを考えてみたんだけど、野球の方がやっぱりいいなぁ 富升針清 @crlss

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