12話「さて、とりあえず町に入りますかね」
何日か一緒に旅をしていると、次第に二人のことが分かってきた。
アルは基本的に明るく前向きで、いつも笑顔を絶やさない。
残念な部分が衝撃的過ぎて分かりにくいけど、案外俺たちの事もしっかり見てる部分がある。
何より、努力家だ。
振る度にすっ転んでた両手剣も、いまでは転ぶこと無く振り回せている。
まだまだ危なっかしいところはあるが、サポートしてやれば実戦でも使えるレベルだ。
俺が足止めした魔物を一撃で刈り取る姿は見ていて心強い。
これで物騒な発言さえなければなー。マイナスポイントでかすぎるんだよなぁ。
一方で、サウレはあまり表情が変わらず、口数も少ない。喋っても一言で終わってしまうことが多い。
何を考えているか分かりにくいところはあるが、俺とアルを仲間だと認識しているようで、休憩中なんかはそれとない気遣いを見ることができる。
なんて言うか、不器用な奴だ。
故郷の人見知りのチビ達を思い出して、少し和む。
しかし、サウレは一度戦闘が始まると凄い活躍を見せてくれた。
雷を生み出す魔法と短剣を使った戦い方は洗練されていて、まったく苦戦せずに魔物を倒していた。
さすが熟練冒険者。『魔物を
ただ、ことある事に俺に触れようとしてくるのはやめてほしい。
昨日とか起きたら目の前に半裸に見える普段着で座ってて、思わず悲鳴をあげたからな。
ルミィの呪いが解けるまで、そっとしてくんねぇかなー。
そんな二人と数日間旅を続け、朝方、ようやく中継点の町に着いた。
町と言っても規模はそれ程大きくない。
オアシスを中心に人が暮らしているだけの、村に近い物だ。
低めな外壁でぐるりと周りを囲まれていて、エッセルで見かけた背の高い細い木がまばらに植えられている。
門の奥に見えるのはレンガで作られた簡素な建物。
その奥にある、小さな湖のようなオアシスが特徴的だ。
そしてここには、屋根と水がある。
それだけでもマジでありがたい。
「あー……やっと着いたか。遠かったなー」
「そうですねー。魔物と全然遭遇しなかったのは残念でしたけど」
「いやまぁ、避けてたからな。あと残念がるな」
「えぇー。せっかくぶっ殺せる機会だったのにー」
「だからその発想やめろって……サウレ、大丈夫か?」
「……平気」
「よし。あ、すみませーん。町に入りたいんですけどー」
町の門の前にいる武装したおっさんに声をかけると、なんかすげぇ目で睨みつけられた。
うん? なんだ?
「お前ら、どこから来た?」
革鎧と構えた槍のせいで威圧感が凄い。
あと、髭の生えた顔もかなり怖い。
いやなんでそんなに不機嫌そうなんだ、この人。
「え、どこって……エッセルだけど」
「やっぱりか。て事は、まだ話が回って無いんだな……」
「は? なんの事だ?」
「この町の近くに盗賊団がアジトを作っててな。
エッセルの冒険者ギルドに討伐依頼を出しに行かせたんだが……それがもう半月も前の話でな」
半月前か。そりゃだいぶ時間かかってんな。
徒歩ならともかく、町なら騎乗用の魔物とか魔導ソリなんかもあるはずだし、普通なら半月もありゃ往復できるはずだ。
道中で何かトラブルでもあったか。
「昨日、ついに町人にも被害が出てな。皆で町を捨てるかって話をしてたところだ」
「ふぅん……なぁおっさん。盗賊団の規模は分かるか?」
「十人くらいだな。全員武装してやがる。この町の連中じゃどうしようもねぇよ」
「……なぁるほど?」
ふむ……
武装した盗賊が十人。
町は土壁に囲まれていて、地面は砂地。
ついでに、水がある。
んで、こっちは約立たずの俺、攻撃力だけは高いアル、そんで熟練冒険者のサウレ。
そして数々の小道具、と。
思い出すのは師匠の言葉。
戦うための力があり、守りたいものがある。
しかし、戦う義務は一切無い。
そんな時、俺ならどうするか。
「なぁおっさん。ちょっと相談があんだけどよ」
いや、まぁ。見ちまったもんは仕方ねぇわな。
サウレが居るし。大丈夫だろ。
真昼間。太陽が高く昇っている時に、盗賊団はやった来た。
なるほど、大きなソリを砂漠トカゲに引かせて移動してんのか。
人数は確かに十人ほど。正確には十一人。
全員剣と革鎧で武装してる所をみると、傭兵崩れかね。
て事は、戦いにも慣れてるんだろうなー。
うっわぁ。帰りてぇ。いや、今更だけどさ。
だって俺、町の外で仁王立ちしてるしなぁ。
「あぁ!? なんだぁテメェ!?」
「見ねぇ顔だな……冒険者か!?」
「たった一人で何ができんだよ、あぁ!?」
うっへぇ。ガラ悪っ。顔こっわ。あと声でけぇ。
「いやぁ、俺はただの通りすがりなんで。見逃してくれるんなら町は好きにしてくれていいですよ」
「……はぁ? おい聞いたかお前ら。こいつ、町を売りやがったぞ?」
「ははっ! 冒険者のクセに腰抜けだなぁ?」
「俺は戦いとかそういうの、マジで勘弁なんで……もう行ってもいいですかね?」
「行け行け! お前なんかに興味ねぇよ!」
俺を指さしてゲラゲラ笑いながら真っ直ぐ町の門に向かう盗賊達。
だよなぁ。高い壁があるし、町に入るなら門を通るよなぁ。
かんっぺきに予想通りだ。ばーか。
「はーい。前方にご注意くださいよっと」
凄い勢いで走っていく砂漠トカゲ。
そんな速度で走っていたら急に止まれるはずも無く。
俺が掘っておいたデカい落とし穴に、そのままの勢いで滑り落ちて行った。
「うわぁ!? なんだぁ!?」
「なんでこんな所に穴が空いてんだ!?」
慌てふためく盗賊団。だが、もう遅い。
「アル! 飛ばせ!」
土壁の裏に隠れていたアル達に合図を出す。
すぐに壁の上に姿を現し、男連中が水の入った大樽を設置した。
両手剣を振りかぶり。
「りょぉ! かい! でーすっ!」
ぱかーん、と両手剣の腹で大樽を打ち上げる。
空高く舞った大樽。その中身が落とし穴にぶちまけられた。
おっけ。狙い通り。
穴の縁まで歩いていき、中を覗き込む。
おーおー。ギュウギュウ詰めの上に水までかかって、まぁ酷いことになってるな。
「さてお前ら。二度と町に来ないってんなら見逃すけど、どうする?」
「ふざけんなテメェ! 早く出しやがれ! ぶっ殺すぞ!?」
「はーい元気なお返事頂きましたー。サウレ、やっちまえ!」
門から静かに出てきたらサウレに合図をだす。
さて。盗賊たちは水浸しです。しかも穴の中から逃げ出せず、密集しています。
ここで問題。
「……魔術式起動。展開領域確保。対象指定。其は速き者、閃く者、神の力。我が身に宿れ、裁きの
轟雷。サウレの周りに稲妻が舞う。その小さな身にパチパチと纏わせた雷が、蛇のように地を這い回り、空へと
「……醜い悲鳴を上げろ、豚ども」
サウレが短剣を落とし穴に向ける。刹那、紫電が閃いた。
「ぎゃああああ!?」
はい、正解は雷の魔法ですよっと。見事に感電してんなぁ。バチバチ鳴ってて少し焦げ臭い。
本当なら生き埋めにした方が良いのかもしれないが……こんな奴らでも、出来るだけ殺したくは無いしな。
「……ライの敵は皆殺しにする。情け容赦はない」
無表情に淡々と雷を放出し続けるサウレ。
どことなく、少し楽しそうにも見えるのは気のせいだろう。
……あーうん。サウレは怒らせないようにしよう。
アルより怖ぇわ、アレ。
しばらくビリビリさせた後、ピクリとも動かない盗賊団を穴から引き上げ、縄でぐるぐる巻きにしておいた。
あとは町の人達に任せておこう。
「いぇーい。二人ともおつかれ」
「あーあ。直接かち割りたかったです」
「……ライの敵は一人も逃がさない」
うわぁ。なんだコイツら。マジでやべぇな、おい。
「うん、まぁ、なんだ。とりあえず、ありがとなー」
深くは突っ込まないでおこう、うん。
さて、とりあえず町に入りますかね。
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