タイムカプセル

独白世人

タイムカプセル

 ケン坊が死に、しばらくして俺は実家の庭に埋めたタイムカプセルの事を思い出した。小学校を卒業する時にケン坊と二人で埋めたのだ。

 そして俺は今、それを掘り起こしている。母は、「ちゃんと元通りしといてね。お父さんが怒るから」と言って少々嫌そうな顔をした。しかし、そんな事はお構いなしに倉庫から片手ショベルを持ってきて、庭の松の木の下に腰を下ろしたのだった。真夏の容赦のない日差しが背中を射していた。


 ケン坊とは幼なじみだった。家が百メートルと離れないところにあった為、幼稚園から中学卒業まで一緒だった。

 高校、大学は違う学校に通ったが、それでも友達の関係は変わらなかった。そして大学卒業後、俺達は小さな会社を作った。

 会社はどんどん大きくなり、従業員を少しずつ増やしていった。ケン坊が社長で俺が副社長だった。

 ケン坊は俺よりもはるかに頭が良かった。俺はその事を理解していたし、自ら彼の補佐役に回った。明らかに彼の裁量で会社は大きくなったのに、ケン坊は自分と同じだけの給料を俺にくれた。

 ただただ感謝の日々だった。俺は結婚して二人の子供にも恵まれた。

 時は流れて、俺は時代に取り残されていった。デジタル化されていく時代の変化を頑なに拒んだのだ。俺はパソコンの起動ボタンの場所ですら学ぼうとしなかった。若い社員に、「パソコンなんかに頼っていたら人間の脳は腐ってしまう」と毎日のように力説するほどだった。

 しかし、ケン坊は俺とは逆だった。ネット社会を巧みに利用し、会社をより一層大きくした。いつの間にか俺は会社のお荷物的存在になっていた。それでもケン坊は俺を見捨てようとはしなかった。会社に行き、机の前に座り、窓の外を眺めるだけの毎日が過ぎた。とうの昔に俺に出来る仕事は無くなっていた。

 何もしなくても給料はケン坊と同じだけ入ってきた。会社が大きくなるにつれ、俺の給料も莫大な金額になった。

 俺は会社に行くのが苦痛で仕方なくなっていた。

 出社してすぐカバンを置き、「営業に行く」とバレバレの嘘を言い、競輪場や競艇場に足を運ぶようになった。勝っても負けても気分は全く晴れなかった。


 汗が滴り落ちる。蝉の鳴き声が響く。昨日の雨で土が軟らかくなっていたのもあって、俺は二十分ほどで目的の物に辿り着いた。幾重にもなったビニール袋の中にビスケットの缶が入っていた。ティッシュの箱ほどの大きさの缶の蓋に沿ってガムテープが貼られている。年月を経て必要以上に粘着したそのガムテープを剥がし、中を開けようとする。なかなか綺麗に剥がれない。あの時の俺が中に入れたものを思い浮かべながら手を動かす。確かガラクタのようなおもちゃと一緒にお互いに宛てた手紙があったはずだ。俺はどんなことを書いたのだろう。嗚呼、どんなことをケン坊に宛てて書いたのだろう。「早く、早く」と逸る気持ちを抑えながら何重にもグルグル巻きにされたガムテープを剥がそうとする。剥がしながら小学生の頃のケン坊の顔を思い浮かべる。彼は最期まで素晴らしい人間だった。涙が出てきた。それを土の付いた手で拭う。嫉妬と後悔が生んだ涙だった。


 ケン坊を殺したのは他でもない。

 俺だった。

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タイムカプセル 独白世人 @dokuhaku_sejin

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