第5話 昇華

 思いたったら極端な性格が功をさしてか、気持ちの整理がつきさえすれば意外にあっさりと次へ向けての行動に移れた。

 今となってはどうとも思われていないと確信を持ってしまった以上、その特定の相手をいつまでも引きずる道理などこちらにも持ち合わせていない、そんな感覚だ。

 これまでの諸々の経緯から文香との一件に見切りをつけた僕は、何か1つに意識を集中させ過ぎるのを避けるべく、年度替わり経てこの1年の間は、進学後に取得することになるであろう国家資格の対策に向けて、バイト前に図書館へ通いながら試験対策に励むことにした。

 また、週末をほぼ終日拘束される揚げ場でのバイトも辞め、曜日を問わず比較的日中時間を作りやすくするよう、夕方から夜間にかけてのシフトで働けるバイト先へ移り、ライフサイクルそのものを見直した。

 これだけでも日中部屋でゴロゴロしながら過ごす日々とは容易におさらば出来たし、新たなバイト先には進学して大学生活を謳歌する顔馴染みが多くいるところを選んだ。

 そうして日々の会話にも張り合いが出て来ると、自然と生活を送るにも覇気が出た。


 一方で、せっかく車を乗り回せるのだからと、バイトの入っていない自由な平日の1人の時間の過ごし方も意図して変えた。

 好きなアパレルブランドの新作をチェックしたり、書店で参考書を読み漁ったりしながら車でしか行けないエリアをあえてブラついたり、帰り際には特に用がなくても近くに高校があるコンビニへ立ち寄り、下校途中の女子高生に声をかけては友達を増やした。


「あ、K高校じゃん、バスケ部?」

「いや、部活してません(笑)」

「そうなの?髪ズブ濡れじゃん、練習帰りかと思った(笑)」

「水掛けあって遊んでました!(笑)」

「マジか、楽しそう!今度オレも混ぜてよ(笑)」

「良いですけど、学校来ます?(笑)」

「って追い出されちゃうよね。あ、じゃぁ今度オレも友達呼ぶから皆でカラオケかどこか行こー(笑)」

「え、行きたーい!(笑)」

「ドライブでも良いよ!」

「ってか思い切り初心者マーク貼ってるじゃないですか、大丈夫ですか?(笑)」

「うるせー、18歳とかだとそんなもんだろうが(笑)」

「私の周り貼ってるヒト見たことなーい(笑)」

「はいはい、もう良いから電話番号教えて(笑)」

「090-xxxx…」

「鳴らしておいたから登録しておいて(笑)」

「はーい(笑)」


 そんな調子でこなれて来てからは、バイト前にも隙間時間を見つけては駅前へ繰り出し、制服姿見つけては声をかけて連絡先を量産した。

 決して制服好きなわけではないが、私服姿だと年齢層を読むのが難しい。

 歳上に足元を見られて相手にされないくらいであれば、同年代と見分けがつけやすい学校帰りの学生に声をかける方が無難だという判断だった。

 また、こうやって日増しに増えていく連絡先の女性を相手に、絶え間無くメールのやり取りが続くことで、誰かから返事が来ないといったことは全く気にならなくなり、その発見は大きかった。

 やはり特定の誰か1人に意識を集中させて、その返答に一喜一憂している状況は健康的ではない。真面目に恋愛がしたくなったとしても、これ位に余裕を持ったスタンスは維持したいものだ。


 併せて進学してから就職するまでの間に、海外インターンシップへの参加を目論見始め、めぼしいプログラムを大凡見繕ってもいたため、英会話スクールにも通い始めた。

 日々のバイトで稼いだ資金を自己投資として回すことで、気を抜くと間延びしがちな孤独なライフサイクルにおいて、メンタルの維持にも有効に働いた。

 自腹で支払う費用としては決して安くはないが、周囲の学生が日々学業に励む一方で、自分も出来ることは少しでも習慣付けながら、社会との距離をこれ以上拡げる訳にもいかない、そんな意識を強く抱くようになった。

 そして英会話スクールの生徒は女子学生や若いOLが予想以上に多かった。

 そんな中にチャラついた風貌でクラスに姿を現す僕は浮きまくりながらも 、ここでも知り合いが沢山増えた。チャラチャラと遊んでいる風で真面目な会話も出来るのだと、社交性を養うように立ち回っていると皆仲良く接してくれた。そういったギャップがある意味特殊にも映ったようだ。

 日々の生活を通して意外な発見が有り、そんな手応えを得ることは当然多少の自信にも繋がる。


 そんなある日、通信制高校にしては珍しくスクーリング予定となっていたある平日の放課後のこと。

 バイトを敢えて入れていないこの日、僕は電車で帰宅しながらいつもと変わらず数人の女子高生とメールで連絡を取り合っていた。

 その内の1人に、数日前にバイト先の駅前で声を掛けて連絡先を交換した観月が調度駅前をブラついていると言う。

 車を駅前の駐車場に停めていたので、駅からそちらへ向かう道中少し時間を作って落ち合うことにした。


 遠目からでも分かる巨乳の観月が僕に気付き、横に友達を連れ添ってこちらへ向かって来た。

 2人で会う気満々だった僕は平静を装おうと努める。

「ねぇ、私お母さんが直ぐ迎えに来ちゃうんだけど、今日車?このコ乗っけて帰ってあげてよ」

 余りにもブッ込んだ急な切り出しに更にたじろぎそうになる。

「唐突だな…」

「ってか誰?知り合い?(笑)」

「この間急に携帯の番号聞かれた(笑)」

「確かにそうだけど、もう少し説明の仕方あるだろうが。 何処まで?(笑)」

「I公園の近くです♡」

「帰り道だから良いけど、お前本当に直ぐ帰んの?」

「もう直ぐお母さん来ると思う。あ、あの車!」


 そう言うとこちらを一瞥しながら友達にだけ手を振り、観月は巨乳を上下左右に揺らしながら車の方へ駆けて行った。

「マジでビックリするな…」

「何かすみません(笑)」

「何も聞かされて無かったの?」

「もう迎えに来るとだけ(笑)」

「ひでーな。名前は?」

「ユウコです」

「取り敢えずあっちの駐車場に車停めているので行こっか。ってかどうやって帰ろうとしてたの?」

「お母さん呼ぼっかなーみたいな(笑)」

「オレが送れば呼ばなくて済むと(笑)」

「はい(笑)」

「しっかりしてんなぁ、まぁオッケー。行こう(笑)」

「はい(笑)」


 車までの少しの間で、初対面のユウコと僕は取り留めの無い会話で既に和み始めていた。

 若い者同士の距離の詰め方はある意味ハッタリみたいなところもある。僕より2つ歳下のユウコは不慣れな感を隠そうと若干虚勢を張っているようにも見て取れたが、このダサくて有名な進学校の制服を上手く着こなしている様から見るに、美意識の高さは窺えた。

 チャラついた素ぶりでも喋り方から育ちも良さそうだ。


 車を出しながらどのルートで自宅へ向かおうかとユウコに声をかける。

「帰り急ぐの?門限何時とかどのルート通れとかある?ってオレはタクシーか!」

「マジウケる。門限も無いし今日は急いでも無いので送ってもらえれば大丈夫!(笑)」

「ちょっとグルっとその辺周りつつ喋りながら送ろうか、せっかくだし」

「やったー、ドライブー!」

「ちょっと夜景見えそうなところにでも行く?調度暗くなって来てるし」

「行く行くー(笑)」


 そう言いながら車を走らせお目当の場所へ行き着いたが、山の少し上で高い場所ではあるが見当外れに何の景色も無いだだっ広い公園の駐車場に辿り着いた。

 下心がそうあったわけでは無いが、夜景の代わりに星空が綺麗に見えかけていたため、なんとかその場は取り繕えた。

「彼氏いる?」

「いるよー。お兄さんは?」

「いないいない。暫くはフリーで良いや」

「そうなんだ。遊ぶんでしょ?知らないヒトに声かけて(笑)」

「まさか(笑)」

「まさかって、じゃー観月は何だったの(笑)」

「あぁそこから言ってるのか。それを言われたら確かに(笑)」

 そう言われて気付いた。声をかけて出会っているという自覚は実際皆無だった。

 どちらかと言えばキッカケだけ作り、あとは自然な成り行きで仲良くなっているだけに過ぎない、そんな感覚だった。


「彼いるのにこうやってオトコと2人でいて良いの?」

「わざわざ言ったりしないでしょ?見られていたりでもするなら『お友達!』って説明するー」

「お友達!(笑)」

「それ以外になんて言うの?(笑)」

「さっき知り合ったばかりの知らないヒト」

「ダレと何やってんだ!ってなるー!(笑)」

「付き合って長いの?」

「3ヶ月くらいかな」

「エッチした?」

「バージン捧げちゃった!でもセカンドバージンはまだだよ」

「何だセカンドって。初っ端だけで良いだろうが(笑)」


 話題に感化されてか、ユウコがオンナの表情に変わったのを僕は見逃さなかった。

 靴を脱がせてさりげなくシートをフラットにしながらカラダを寄せて、2人で後部座席へ縋って足を伸ばして寛げるように体勢を変えた。

 密着することに何ら違和感を覚えないのか、顔を近付けると目を閉じたのでそのまま唇を舌でこじ開けた。

 ユウコはまるで自分もオトナのオンナであり「これくらいはもう経験済みよ」と言わんばかりに、そして「何も言わなくても言わせないで」と付け加えるようにこちらに無言で身を委ねて返した。


 背中に手をまわしラルフローレンのベストの上からブラを外す。

 ベストとブラウスとをそのまましたから捲し上げるとまだまだ成長過程真っ只中の張りのある程よい形の乳房が姿を現した。

「めっちゃ綺麗じゃん、Cカップくらい?」

「恥ずかしいからそんなに見ないで...」

 大き過ぎず小さ過ぎずの程よいサイズと最高のフォルムに、早く帰宅して夕食を済ませてからレポートの続きに手を付けようとしていた僕は、そんなことしている場合じゃないと奮起して両方の膨らみの先っちょを寄せて口を付けた。

 ユウコも「こちらも何でも経験済み」と言いたいのか、僕を求めるように応じてくれるので、それならば男らしく期待に応えようと、ユウコに覆い被さる様に合体して一つになった。


「ちょっとマジで何コレ!めっちゃ服についちゃってるしー!お母さんに買ってもらったばかりなのに!」

「汚しちゃったからよく洗っといてねって言いなよ」

「マジ最低。何零したの?って絶対言われるじゃん」

「給食か何か零れたって言えば良いじゃん」

「お弁当だし!」

 ユウコが母親に買ってもらったばかりだというベストを汚してしまい、咎められて謝りながらも、乱れた制服姿に乳房を晒した姿のままマジギレ気味なユウコを目の前にして平静を装うのが大変だ。気を抜くとクチ元がにやけそうになる。

「しかもこれめっちゃ目立つよね。どうしよう、クリーニング代頂戴!」

「そんなことしたら不自然でしょ、お母さんに何かと一緒に出してもらいなよ(笑)」

「ってか何ニヤケてんの、マジムカつくんだけど!」

 勢いに任せて引っ込みがつかずに食い下がって来ているのが見て取れた僕も、次は気を付けると取り繕い、後ろから抱く様にしながら仲直りをした。

 乱れた制服姿のユウコの綺麗な乳房を指先で弄びながら、少しの間喋った後に連絡先を交換して自宅へ送り届けた。


「恥ずかしいからそんなに見ないで」と言っておきながら、一度見られたあとは隠しもせず山奥に潜む少数民族のように、堂々と乳房を晒して真顔で彼女達なりの日々の問答を悟るように語りかけてくる姿は可笑しかったが、一線を越えてしまえば知り合ったばかりであろうとオトコとオンナなんてこんなものなのかも知れない。

 思いもよらぬ出会いにも可能性を感じずにはいられなかった。


 どんな出会いが何をもたらすかは未知数で、こうして僕らの間で暫くキーワードとなった言葉は「枝張り」で、とにかく色んなところで出会っては、枝を張って方々に交友関係を拡げようという格言の下、日々の出会いを求めては街へ繰り出した。


 ユウコの自宅のあるI公園とは、半年前の深夜文香と時間を共にした場所であった。

 もはやこの期に及んではどうだって良かったし、寧ろ無情な時の流れが僕自身を未来へ向かって前進させてくれているのをひしひしと感じた。

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(脱)非モテコミット 城西腐 @josephhvision

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