第647話 4人組捜索
SIDE:教国 アレックス(身体は委員長)
「状況は?」
苛立ち交じりでアレックスが訊ねたのはアダーモヴィチ大司教だった。
アレックスが支配しているのは、教国上層部の教皇、枢機卿、大司教、軍を指揮する聖騎士団の団長、副団長に上級聖騎士と上級聖女までだった。
教国内に命令を下す場合、アレックスは彼らの誰かを通じてしか行えなかった。
今回の聖薬の聖女と聖騎士の3人の捜索も、アダーモヴィチ大司教を通じて指揮していた。
あの3人組の正体も下っ端の兵士などには知られていない。
アダーモヴィチ大司教の元へと報告された内容は、又聞きというかたちでアレックスに伝わっていた。
「初動が遅れたために捜索は難儀しております」
申し訳なさそうに、アダーモヴィチ大司教が報告する。
これは、アレックスが行った命令に起因していた。
”アレックス自身と3人の
なので、3人組の逃走という行動に、アダーモヴィチ大司教は疑問を持てなかった。
それが逃走発覚が遅れた原因だった。
「くそ、(俺たちの神に背く行動に、いちいち疑問を持たれないようにと命じたことが)仇となったか」
その呟きの一部は、アダーモヴィチ大司教には伝わらなかった。
◇
暫くして動きがあった。
「怪しい4人組が潜伏していた建物を特定いたしました。
通常より煌びやかな装備の聖騎士3人と聖女だったそうです」
そんな4人組はあの4人しかいなかった。
そのような装備のままならば目立ってしまい、その後の追跡も容易だろう。
「その後の足取りは?」
「忽然と消えてしまったようです」
それは、装備を変えたことを意味していた。
「装備を脱いだか」
「しかし、その建物からは見つかっておりません」
脱いだ装備がみつからないのは想定外だった。
あの3人組はアイテムボックスのスキルを持っていないのだ。
「聖女か。
聖女はアイテムボックス持ちか?」
「わかりません。
しかし、聖薬の聖女様の持つカプセルにはアイテムボックス機能があります」
アダーモヴィチ大司教が、聖薬の聖女が使うカプセルの機能をアレックスに伝える。
「空のカプセルも出せるのか?」
「いいえ、任意でカプセルを消さない事が出来るのです。
そのカプセルに、出したその物か別の物を仕舞うことが可能なのです」
何かを錬成しカプセルを出し、それを開けた時に空のカプセルを確保すれば、アイテムボックスと同様に使えるという事だった。
これは誰も聖薬の聖女がアイテムボックスを持っているなどと知らないからこその誤った方向の想像だった。
「待て、奴らは金を持っているのか?」
アレックスは、3人組が金を持っていないことに気付いた。
おそらく聖薬の聖女もそうだろうという予測もあった。
「着の身着のまま逃走しましたので、逃走資金は無いか微量かと」
アダーモヴィチ大司教は、聖薬の聖女の懐具合は知っていたが、3人組がどうだったかは知らなかった。
アレックスとアダーモヴィチ大司教で、情報をすり合わせる。
「決まりだな。
奴らは金が無いし、売れる私物も持っていない。
となれば、装備を売って逃走資金にしたに違いない。
武器屋と防具屋を探れ!
奴らが売った装備を見つければ、今の姿が判る!」
アレックスの命令でアダーモヴィチ大司教が指示を出す。
そしてしばらく後、あの鎧が発見される。
「怪しい鎧を発見いたしました!
持ち込んだのは薄汚れたローブを纏った女性です。
他にも店の外に長身の男が複数いたそうです」
4人組に間違いない、アダーモヴィチ大司教もアレックスもそう思った。
現物の鎧が確保されると共に、その薄汚れたローブの集団が捜索目標として登録された。
「これで4人組が見つかりますな」
アダーモヴィチ大司教が楽観的な台詞を吐く。
だが、届けられた鎧は……。
「何だこの鎧は?
聖騎士の鎧ではないではないか!」
それは聖薬の聖女の手により姿を変えられた華美な鎧だった。
その事実を誰も知らないための戸惑いだった。
「誤報か!」
せっかくの手掛かりが潰えたと誰もが思った。
「いや、待て。
このような高価な素材の鎧を、薄汚いローブの男女が持ち込むわけがない」
確かに、持ち込まれた鎧と持ち込んだ人物の姿が乖離しすぎている。
盗んだにしても、そのような高価なものの持ち主に接触できる恰好ではない。
「間違いない、これは聖女が錬金術を使って姿を変えた聖騎士の鎧だ。
薄汚いローブの男女こそが聖女と3人組だ!」
ついにアレックスが4人の尻尾を捕えた。
「徒歩ならばそう遠くへは行っていないだろう。
軍を投入し、数で押さえるぞ!」
アレックスの命令はアダーモヴィチ大司教を経て聖騎士団長へと伝わる。
そして、中央教会最強の大鷲聖騎士団が出撃するのだった。
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