第646話 逃亡資金

SIDE:聖薬の聖女(TSブービー)と3人組


 とりあえず変装をした4人は、中央教区から出るべきだという結論に達した。

いや、聖薬の聖女が、根拠のない自信に満ち溢れている3人組を説得したと言っても良い。

いくらAK47があったとしても、自称召喚勇者上から3人だとしても、真の勇者だった身体のチートさなど想像もつかない性能な訳で、返り討ちどころか再支配されるのが濃厚だった。

そして、軍により多人数で押さえられたら、多勢に無勢、一溜りも無いだろう。


「数で来られたら、さすがにまずいってことは俺も理解した」


 翔太がこう納得するまでに、どれだけ聖薬の聖女が苦労したことか。


「だが、逃げるにしても、俺たち金持ってないぞ?」


 ここで急な逃走の弊害が出た。

逃走するならば、逃走資金なり、逃走の準備なりを前もってしておくべきなのだが、彼らはそれを一切していない。

いや、急な逃走だったために準備する機会すら無かったのだ。


「私も通販頼んだ物が生活目の前に届くだったから、お金持ってないのよね」


「「「どうすんだよ!」」」


 聖薬の聖女も長いニート生活で、何か欲しい物があればシスター・アントニーナに言いつけるだけで直ぐに届けられる、至れり尽くせり生活を満喫していた。

そんな生活をしていて、お金を持っているわけが無かった。

3人組も行動制限がかかっていて外出も出来なかったので、当然お金を持っていない。


「慌てないで。

私がアイテムボックス持ちだという事を忘れてるわよ」


「「「おお!」」」


 とは言ったものの、聖薬の聖女もあてがあるわけではない。

アイテムボックスの中を探るが、これといった金目のものも出て来なかった。

後で食べようと思っていたお菓子や夜食程度しかない。


「あ、これがあったか」


 聖薬の聖女が持ち出したのは、3人組の聖騎士の装備だった。

鎧一式に大剣、売ればお金になるのは間違いない。


「それを売る気か!」


 遥斗はるとが大声を出す。

どうやら、装備に愛着があるようだ。

遥斗はるとはマントにも執着していたぐらいだ。

案外、聖騎士の格好が気にいっていたらしい。


「待て遥斗はると、俺に任せろ」


 そう言うと優斗まさとが聖薬の聖女に頭を下げた。


「頼む、売るのは俺の装備だけにしてくれ」


 優斗まさとが、遥斗はるとの装備を売らないようにと懇願した。

友達思いの良い奴である。


「別に良いわよ? 全部売るつもりも無かったし、大剣は反撃するのに要るかもだし」


 その言葉に、遥斗はるとは安堵し、優斗まさとに抱き着いて感謝した。


優斗まさと、心の友よ!」


 まるでどこかのガキ大将の台詞だが、これが控え投手遥斗正投手優斗の器の違いだった。


「なあ、それだと足が付くだろ」


 翔太が指摘したのは、聖騎士の装備を売ったら、それを元に捜索される危険があるということだった。


「このままだったらね。

だから、こうするの」


「そうだった、その手があったか」


 それは聖薬の聖女が使う【錬成】の力だった。

材量をもとにして、別の物に作り変える。

聖薬の聖女の足元にガチャカプセルが1つ落ちる。

それを開けると、装飾華美な鎧が出てきた。


「材量が良いから高く売れるわよ」


 聖薬の聖女が、自画自賛するだけのことがある、それは美しい鎧だった。


「それ、欲しい!」


 遥斗はるとが我が儘を言い出す。

どうやら、その鎧が欲しくなったらしい。

駄々っ子である。


「はいはい、後で返す時に錬成してあげるから」


「約束だからな!」


 聖薬の聖女も遥斗はるとの扱い方が上手くなっていた。


「じゃあ、売りに行くわよ。

くれぐれも目立たないようにね」


 4人組は、鎧を売りに防具屋へ行き、換金に成功した。

さすがに3人組も、人目のあるところで騒ぐようなことはなかった。


「なかなか高く売れたな」

「次はどうする?」


「旅の間に食べる保存食に水樽、そして野営道具の購入かしらね」


 聖薬の聖女は、長旅で使っていた自前の野営道具をアイテムボックスに入れていた。

だが、3人組の野営道具までは無い。

それを買わなければならなかった。


「(こいつらを見捨てれば楽だけど……。 見つかった時に戦力になるのはこいつらだけだしね)仕方ないわね」


 こうして、ついに4人組は教国中央都市からの脱出準備が整ったのだった。

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