第640話 相談

SIDE:聖薬の聖女(TSブービー)と3人組


 中央教会から逃亡し、身を隠せる場所まで移動した4人は、今後の身の振り方を相談していた。


「どうしてこうなった!」


 聖薬の聖女は、自らの短慮に苛立っていた。

あの3人組を目にした瞬間、こいつらでは芝居なんで出来ない、アレックスにバレるのも時間の問題だと気付いてしまったのだ。

彼らが支配から逃れていることを、アレックスに気付かれないで済むわけがない。

そう思える体育会系アスリートだった。

思わず【万能解呪薬(特上)】を飲ませてしまったが、その結果は即時の逃亡一択になってしまった。


「なあ、この後、何処に行けばいーんだ?」


 遥斗はるとという、いかにも野球やってましたという青年が、何も考えていないかのように訊ねる。


「アレックスに【支配】から脱したことを気付かれたら困るよね?」


 そんなことも解らないのか、と聖薬の聖女は苛立つ。


「なんで? 俺たち3人に、この銃があれば、アレックスに勝てるっしょ」


 短絡的な回答が返って来る。


「!」


 だが、聖薬の聖女にとって、それは目から鱗だった。


「たしかに、そうかもしれない……」


 思わず真剣に検討してしまった。

だけど、ブービー時代に見知ったアレックスは、そんな生易しい人物ではなかった。

アレックスは、王家の洗脳など手段を選ばない所は魔王に近い悪辣さがあった。

そして、この召喚勇者3人組の実力を聖薬の聖女は知らなかった。

さらに、アレックスは顔こそアレックスだが、体つきが貧相になっている。

そして新たに強力なスキル、【支配】を持っていた。

以前のアレックスとは違う不気味さがあった。


「私は今の・・アレックスと、あなたたちの実力を知らない。

あなたたちは召喚勇者よね?

銃含めて、どれぐらい勝ち目があるの?」


「アレックスは、ヒロキが言うには魔王らしいよ」

「今のアレックスはアーサーという勇者の身体を乗っ取ってる」

「それでアーサーのスキル【支配】がアレックスのものになった」

「でも、銃で撃てば人ならば死ぬっしょ」


 聖薬の聖女は戸惑う。

自分の知らない名前が出てきた。

ヒロキにアーサー、聖薬の聖女がブービーだったころ、まだアーケランドに居た時には名前も聞かなかった者たちだった。


「待って、整理させて。

ヒロキとアーサーって誰のこと?」


「ヒロキは、上手い飯を食わしてくれる魔物の王かな?」

「だな。日本の料理を食わしてくれる」

「なんだよそれ! 俺は知らないぞ」


 その内容は要領を得ない。

聖薬の聖女は、これ以上掘り下げても無駄だと判断した。


「(だめだこいつら。まともな情報が手に入らない)

じゃあ、アーサーって?」


「アーサーは、真の勇者と呼ばれていたのに、暗黒面に落ちて魔王化した奴だ」

「そいつがいつのまにかアーケランドを裏で支配していたんだよ」

「それが【支配】スキルの力だな」

「アーサーが倒されて捕まって、それを騎士が殺しちゃって、その時アレックスに乗り移られた」


 つまり、アレックスは真の勇者と呼ばれた実力者の身体に乗り移っていた、それを知り、聖薬の聖女は愕然とした。


「駄目じゃん! アレックスは真の勇者の身体持ってるんじゃん!」


 この3人組が銃を使っても敵う訳がない。


「いや、俺たちだって、真の勇者に負けないぐらい優秀なんだぞ?」

「「そうだ、そうだ」」


 3人組が心外だとばかり騒ぎ出す。


「ちょっと、騒がないでよ!

私たちは逃亡の身なのよ?」


「そうだった」

「「すまない」」


 そんなところは素直な3人組だった。


「じゃあ、あなたたちの実力を教えて」


 3人組の実力を知れば、真の勇者の身体に対抗できるかもしれない、そう思って聖薬の聖女は訊ねた。


「俺はプロサッカーリーグにスカウトされてる」

「俺もプロ野球からスカウトされてる」

「俺はスカウトはまだだけど、優斗まさとに負けねぇ!」


「いや、そうじゃなくて……」


 聖薬の聖女は一人で逃亡しようかと悩み始めた。

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