第634話 儀式

SIDE:教国


 アレックスの指示により、3人組が聖薬の聖女から祝福の儀式を受けることが決定した。

聖薬の聖女がアレックスの支配下にあったため、アレックスが気を許していたからだ。

まさか、その支配が解けているなどとは夢にも思っていなかった。

そこに神からの手助けがあったとは思いもしない。


 いや、アレックスも神の存在は警戒していた。

大聖堂から発せられる神聖な波動が、魔王である自分に悪影響があったために、大聖堂には近寄り難いとの思いは持っていたのだ。

だから魔の因子を接種させている配下の3人にも、大聖堂への出入りを禁止し行動を制限していた。


 そんな状態ならば、聖薬の聖女の支配も解けてしまう可能性があるのではないかと思う所だが、そこは聖薬の聖女は非力な女性で、しかも引き籠り。

いつでも支配し直せるし、神からそんな介入がある訳が無いと高を括っていた。

実際、聖薬の聖女はずっと嫌がっていたという銃の量産に協力的だった。

それは支配が効いているという証明だった。


 そんなこんなで、神のお告げで外に出ると言い出した聖薬の聖女と、翔太、遥斗はると優斗まさとの3人組が、大聖堂の外で儀式を行うことがセッティングされたのだ。


 ◇


「それでは、儀式の予行練習を始める」


 3人組のたっての希望で予行練習が行われた。

そこには仮の祭壇が設けられていた。

なぜか3人組には大聖堂への出入りが禁止されていたからだ。

まるで神の力を嫌っているかのような所業なのだが、それを聖職者ですら疑問に思わないのが、アレックスの支配の怖いところだ。


 祭壇前で3人組が跪き頭を垂れる。

すると上手から聖薬の聖女が現れた。


「面を御上げなさい」


 聖薬の聖女は祭壇前に辿り着くと、3人組に顔を上げるように指示した。

その指示に従い、顔を上げた3人組の目の前には、聖薬の聖女の代役・・が居た。

どうして面識のない聖薬の聖女が代役だと判ったのかというと、その女性が通常のシスター服を着ていて、胸には「聖女」と書かれた木の板が紐でぶら下がっていたからだ。


「「「おおーーい!!」」」


 3人組が思わず突っ込みを入れる。

予行練習を行う理由は、先に聖薬の聖女に会って、解呪ポーションを要求するためだった。

聖薬の聖女といえども、その場で解呪ポーションを作れるわけがない。

予行練習と本番の間の時間で解呪ポーションを作ってもらう、それが3人組の思惑だった。


 ちなみに、聖薬の聖女も予行練習に参加したかったのだが、そこは大司教に阻止されてしまっていた。

予行練習に聖女様が参加するなど以ての外だという、教会の権威に関わるとの理由からだった。

聖薬の聖女を知るものは少なかったが、そのほとんどが聖薬の聖女から祝福の儀式を受けている。

つまり、聖薬の聖女は儀式を経験済みで、予行練習は要らないという大司祭の判断だった。

この予行練習は3人組のためという認識なのだ。


 聖薬の聖女は、3人組になんとか【万能解呪薬(特上)】を飲ませたかった。

そして、アレックスの支配を逃れられたならば、彼らと共にアレックスの元から逃亡するというシナリオだった。

そのためには、【万能解呪薬(特上)】を予行練習で渡して飲んでもらい、本番で逃走計画を打ち明けて実行するつもりだったのだ。


 世の中、上手く行かないものである。

そして、滞りなく、無駄な・・・予行練習が終了する。


「なんであんなことに……」

「上手く行かないものだな」

「ぶっつけ本番でやるしかない!」


 こうして本番の儀式が始まる。


 ◇


 3人組が予行練習通りの行動をなぞると、聖薬の聖女が祭壇前に現れた。


「面を御上げなさい」


 恐る恐る顔を上げた3人組の目の前には儀式用の聖女服を着た聖薬の聖女が立っていた。


「本物だ」

「良かった」

「なんと美しい!」


 だが、儀式は予行練習と同じようには運ばなかった。

3人組が解呪ポーションを要求しようと声をかけるより前に、聖薬の聖女が動いた。

聖薬の聖女は、1段高い祭壇前から掛け降りると、3人組の目の前に走り寄った。


「「「なっ!」」」


 その行動に戸惑う3人組の口に、ポーションの瓶が突っ込まれた。

聖薬の聖女が予定を端折って実力行使に出たのだ。


「いいから、飲み干しなさい!」


 聖薬の聖女の勢いに、思わず3人組がポーションを飲み干す。

すると3人組の身体が紫色の光に包まれ、解呪の効果が現れたことが見て取れた。


「なんだこれは、頭から靄が消えた」

「まさか!」

「「「解呪ポーション!」」」


 3人組が聖薬の聖女の顔を見つめる。

すると聖薬の聖女はニンマリと笑顔を向けていた。


「アレックスに支配されていたのは判る?」


「ああ」

「やっと支配から逃れられたのか」

「って、俺たちの望み通りだよ」


「やっぱり、そうだったのね。

あの手紙じゃ、わかんないわよ!

さあ、直ぐに逃げるわよ!」


 聖薬の聖女、翔太、遥斗はると優斗まさとの4人は、一瞬でお互いの立場を理解した。


「はい、これ。

アレックスが油断してたら撃っちゃって」


 聖薬の聖女が3人組に渡したのはAK47だった。

アレックスといえども、ふいの銃撃には対応できない可能性がある。

それが銃の怖さだ。


「それと、教国にも銃兵がいるの。

そいつらにはあなたたちも気を付けて。

だけど、この銃ならば、初撃さえ防げれば優位に立てるわ」


「アサルトライフルかよ!」

「やばいやばい」

「そんなことより逃げるぞ!」


 4人組の逃亡が始まる。


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お知らせ

 「予行練習を別々にやってどうする」というご指摘がありましたので、理由を加筆しました。

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