第633話 魔銃を渡す

 疑似転移によってリュウヤの元へ飛ぶ。

連射式魔銃と防御の魔導具を届けるためだ。


 領主館の転移広場から見回すと、リュウヤは城の外で何やら見分していた。

俺はそのままリュウヤの元へと向かう。


「リュウヤ、戦況は?」


 俺は、教国の動きがその後どうなったのかを訊ねた。

一応進軍経路は押さえたのだが、漏れが無かったとも限らない。


「おう、よく来たな。

あれからは領民への対応だけだな」


 リュウヤが暢気に答える。


「そうか、それは良かった。

俺の方は銃で撃たれてさ」


 何も無くて良かったと胸を撫で下ろし、俺は銃の話題を持ち出した。

今後、銃に対する警戒をしてもらう必要があり、そのために連射式魔銃を渡すという、云わば前振りだった。


「ああ、あれは銃だったのか」


「え?」


「何か飛んで来たから金属バット鋼の棍棒で打ち返しておいた」


 しかも、発射点に対してだという。

どうやら討ち漏らした銃兵が、ここまで到達していたらしい。


「どこだよ!」


「あっちだな」


 2人でリュウヤが指し示した地点――城から100mほどの木々に覆われた高台に向かう。

そこには……。


「マジかよ……」


 俺はリュウヤの身体能力の高さに驚きを隠せなかった。

そこには、腹這いでライフル銃を構えながら息絶えた銃兵がいた。


「この額の傷、リュウヤが打ち返した銃弾が当たってるな……」


 銃で狙撃され、その銃弾を打ち返すのも離れ技だが、その銃弾を撃った本人に当てるなんて信じられない。


「褒めても何も出ないぞ」


 どうやら、リュウヤには連射式魔銃など要らないようだ。

俺たちは教国の銃を回収して、その場を立ち去った。

銃の技術を流出させたくないからな。

遺体は埋葬などしなくても、そのうち魔物が処理してくれるだろう。


「でだ」


 俺たちは領主館――ほぼ城だ――の前まで戻ると、俺がここまで戻って来た本題に入る。

さっきはリュウヤの奇跡的反撃の話で、話の腰を折られたからな。


「あんな反撃が出来るのはリュウヤだけだ。

他の者たちは、初撃で弾が当たってしまう可能性が高い」


「まあ、そうだろうな」


 俺の言葉に、リュウヤが得意げになる。

リュウヤ、褒めてるわけじゃないぞ。


「だから、これ、防御の魔導具だ。

1回だけ、不意打ちだろうが、その攻撃を防ぐことが出来る」


 アクセサリーに偽装した防御の魔導具をアイテムボックスからリュウヤの目の前に出して渡す。


「次にこれだ」


 そして連射式魔銃をアイテムボックスから出す。


「初撃を魔導具で防いだら、発射点にこれで撃ち込め」


 そう言うと、連射式魔銃を構えて、土魔法【アイアンバレット】を連射した。

初期設定は土魔法にしておいたのだ。

威力のある魔法をうっかり撃たないようにという配慮だ。

これは一定以上の時間撃たないと、自動的に土魔法に戻るようにしてある。

土魔法は他の魔法と違って、魔力消費も少なく一番無難だったからだ。


パ パ パ パ パ パ パ パ


 連射式魔銃から放たれた鉄の弾が連続であの銃兵のいた丘に突き刺さる。


「火魔法」


 モードを火魔法に切り替えて撃つ。


パン ドーーン


 これは爆裂魔法になる。

その印象はグレネードだろうか。

発射された火の玉が着弾点で爆発する。

これも魔力食いだが連射可能だ。


「おお! まさか、これは誰にでも撃てるのか?」


 リュウヤが俺から連射式魔銃を奪うと、新しい玩具を手に入れた子供のように撃ちだした。

もう土魔法に戻っている。

魔法が使えなくても魔法が撃てる、それが魔銃だ。


「凄いじゃないか!

魔法は音声で切り替えるのか」


 リュウヤが次々と魔法を切り替えて試射する。


「すげー、すげーー!!

次は雷魔法だな」


 残念、それは封印し……。


ダーーーーーーーーン!!! ゴロゴロゴロ


「「ぎゃーーーーーっ!!!」」


 俺たち2人はその大音響に耳をやられてしまった。

そういや、今出したのは試作1号だったわ。

雷魔法は量産品からしかオミットしてなかったよ。


「【ヒール】、【ヒール】」


 まあ、ヒールで治るレベルだから良かったけどね。


「雷魔法は量産品ではオミットしてある」


「それが正解だ」


 リュウヤも同意見だった。



 俺たちは領主館に戻り、リュウヤの執務室に入った。


「この魔銃を人数分と、防御の魔導具は5つずつ、それと魔銃の交換用魔石ね」


 そして、その机の上に連射式魔銃と防御の魔導具、そして魔石を沢山出した。


「人数にはクララも入っているのか」


「そうだ。リュウヤ、さゆゆ、クララ、麗、さちぽよ、陽菜の分がある」


 バン。 執務室のドアが突然勢いよく開く。


「ひろっち、ひどーーい!」


 そして、俺が振り返るよりも早く、首に腕が巻き付いた。

その声は忘れもしない、さちぽよだ。

その俊足、おそるべし。


「ぐげっ」


 さちぽよが執務室のドアを開けるやいなや、俺にバックハグして来たのだ。

首に腕が決まっている。 慌ててタップする。


「来てるなら、こっちが先っしょ?」


 確かにそれもそうだな。

嫁を放置してリュウヤに会っているというのは家庭的に問題があるか。


「ほら、麗ちゃんも、陽菜も来なよ」


 俺の後ろにはタイミングを逃してワタワタしている麗と陽菜がいた。


「おいで」


 麗と陽菜も抱き着いて来る。


「心配してたんだからね」


 そういや、俺1人で教国の深部に突入していたんだった。

心配されて当然か。


「眷属がいるし、大丈夫だよ」


「でも」


 それでも心配するのが家族というものか。

家族に恵まれなかった俺の本当の家族。

結衣たちも心配しているんだろうな。


「これはね、君たちを守るために……」


 俺はさちぽよたちにも魔銃や防御の魔導具の話を伝えた。

これで教国の銃に狙われた時の備えは万全だ。


 一度、結衣たちにも会いに温泉拠点の方にも戻って来るか。


 だが、今日はさちぽよたちが離してくれなかった。

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