第631話 実射テスト

 連射式魔銃が完成した、というのは語弊があった。

まだ形が出来ただけであって、これの試射に成功して初めて完成といえる。

使ってみて初めて知る不具合など、新製品には良くあることだ。

今はまだ試作品が完成し、テストに入るという段階でしかなかった。


「これが失敗したとしたら、魔石が大きい分、とんでもない破壊力だろうな……」


 この魔石、教国の地竜が牽引していた魔導砲に使っている魔石ぐらいの大きさがあるはず。

魔導砲は魔石を1回の発射で消費する。

それだけのエネルギーが周辺に巻き散らされるとしたら、失敗は死を意味する。


「危ねー。巻き込まれたら大変だった」


 何しろ俺は、自分で撃ってみるつもりだったのだ。

失敗するつもりがなく。


「遠隔操作するか」


 何らかの台に銃を固定し、その引き金を遠隔操作で引く。

それならば、事故があっても大事に至らない。


 だが、この世界にリモコンなど無い。

ミスリルの有線による遠隔操作がギリだろうか。

それも今は持ち合わせがない。


「音声操作での魔法のモード切替を入れたけど、あれで遠隔操作も出来たな」


 今更思いついても後の祭りだった。

それを入れるぐらいならば、有線のミスリルを用意した方が早い。


「となるとあれしかないか」


 人権が軽いこの世界だと、危ない仕事は犯罪奴隷に任せて、死んでもそれで終わりという行為が普通に行われる。

この場合は奴隷に引き金を引かせるということだな。


 当然、そんなことは俺には無理。

その代案となるものは……。


「ゴーレムにやらせよう」


 ゴーレムならば、吹っ飛んだ部分を同じ素材で補充すれば良い。

指ぐらいで済めば、それこそ簡単に直る。


「よし、実験に行くぞ」


 街の外に出て、広い土地を確保する。

全てが吹っ飛んでも問題の無い広さの土地の草原広場だった。

失敗を想定しているかのようだが、それこそ安全マージンを取ったと思ってもらいたい。


「土魔法、【ウオールクリエイト】」


 草原の真ん中に土魔法で壁を作る。

その壁を魔銃を構えるのに丁度良い高さにして、続きをキャンセルする。

それで台座が出来た。

的は街とは反対の場所となる立ち木にした。


「【眷属召喚、土ゴーレム】」


 そして土ゴーレムを召喚し、魔銃を持たせ……。


「ちょ、おまえ、指太っと!」


 土ゴーレムは指が太かった。

引き金など引けるような指ではない。

銃の引き金には何かに当たって銃が暴発しないようにトリガーガードが付いている。

それこそ人の指が1~2本入る程度の隙間だ。

そこには土ゴーレムの指は入らなかった。


「どうするか」


 選択肢は2つ。

土ゴーレムの指を細くするか、指の細い他の眷属を召喚するかだ。


「うーん」


 よくよく考えた結果、答えは出た。


「指で引く必要はないか」


 魔銃を固定し、トリガーガードに棒を入れ、棒の両端を持って引けば、どんな太い指でも引き金が引ける。


 魔銃のグリップを土魔法で台に固定する。

トリガーガードに棒を……。草原のため、棒が見当たらない。

これも土魔法で作って土ゴーレムに渡す。


「土ゴーレム、合図をしたら、この棒をここに入れて引くんだぞ?」


 土ゴーレムは、俺の命令に頷く――いや、首が無いから頭を下げたように見えるが、これが肯定の合図であることは間違いない。


「ん? それは?」


 土ゴーレムの右手に土の棒が融合していた。

そういや、土ゴーレムには、棒を握るなんて事も出来ないんだった。

結局、土ゴーレムに細い指が生えたようなものだった。


「俺が合図するのを待て」


 そう言うと、俺は爆発範囲となるだろう距離をあけて、草地広場の端に陣取った。


「【ウオールクリエイト】」


 そして防護壁を作ってその後ろに隠れた。


「よし、撃て」


 土ゴーレムが引き金を土の棒で引く。


パ パ パ パ パ パ パ パ


 断続的な発射音がして、土魔法の【アイアンバレット】が連射された。


バキ バキ バキ バキ バキ バキ バキ バキ


 的としていた立ち木に弾が当たって幹が抉れる。

結局、何の心配もなく魔銃の連射が実現した。

鉄の弾だから、教国の銃と威力的にも遜色はない。

それが連射されるのだ。その優位性は間違いない。


 この後、魔法のモードを切り替えて試射を続けた。


「次、火魔法、発射!」


 音声認識でのモード切替も完璧だった。

試験は順調に進む。


「次、雷魔法、発射!」


ドーーーーーーーーン!!!


 雷魔法を発射したとたん、大音響と土煙が発生した。

台も土ゴーレムも土煙に隠れて見えない。


「やっちまった!」


 完全に失敗。

雷魔法が暴発した。

そう思った。


 そして土煙が薄れた時、台の後ろに立つ土ゴーレムの姿が見えた。

原型を留めている。


「無事か!」


 思わずキラトと駆け寄る。

言ってなかったが、護衛でキラトが付いて来ていた。

キラトは言葉数が少ないので、存在感が薄い。

そのキラトも慌てていた。


 土ゴーレムの元に行くと、なんと土ゴーレムも指代わりの土の棒も無傷だった。


「なんだったんだ?」



 よくよく調べたところ、雷魔法が銃口で発生したための爆音と、その威力による土煙だった。

雷が銃口から発生したと思ってもらえば良い。


「雷魔法は封印だな」


 威力はあるが、撃った当人の鼓膜も無事では済まない。

雷魔法は人が離れて撃つ魔導砲だから使えたものだったのだ。

携行武器には過ぎた威力だった。


 こうして連射式魔銃は完成したのだった。

量産して試射したうえでリュウヤのところに届けよう。

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