第609話 魚雷の行方
SIDE:教国の聖女(ブービー)
ピコーン
【錬成番号A000131魚雷が破壊された】
「つっ! また破壊された?」
私の脳裏に神の啓示としては事務的すぎる音声が頭痛を伴って流れた。
「いいえ、早すぎるわね」
魚雷が破壊されたにしては経過日数的におかしかった。
この世界の運搬能力では、まだ海にも届いていないはず。
つまり、この破壊は敵に使用する遥か前の出来事なのだ。
「どうして魚雷が破壊されたの?
しかも完全な教国の勢力圏内で」
私は怒りの持って行き先が無くて地団駄を踏んだ。
「ああもう!
あんなにMPをごっそり持って行ったくせに!」
何の役にも立たずに魚雷が終了した。
その事実にむしゃくしゃした気持ちが収まらなかった。
普段ならば使い捨ての武器の去就なんかは捨て置いたかもしれないけれど、どうしてもその顛末が気になってしまった。
新兵器だったし、MPもガッツリ持って行ったし。
「【錬成物ログ】! 錬成番号A000131」
私はスキルの1つである【錬成物ログ】を試みた。
これは私が錬成した物体の活動ログを読み取ることが出来るスキルだった。
特に強い思念が残る――物にも思念があるという考えは日本では付喪神などで良くある概念だよね?――のか、壊れた瞬間の記録映像的なものが見える。
その映像が脳裏に浮かんで来る。
「はぁ? 運搬中に落された?」
運搬に携わった彼らには爆発物という認識が無かったのだろうか、雑に扱って魚雷が荷馬車から落下した映像が見えた。
そして魚雷は坂を転がり、勢いの付いたまま路傍の岩に激突し、大爆発した。
「ああ、そういうことか」
私は後悔した。
彼らに信管の取り付けなど出来ないと、安全装置により一定以上の衝撃が加わらなければ爆発しないと、高を括っていた。
それが見事に裏切られた瞬間が目の前にあった。
「近代兵器すぎるのも問題だわね」
扱う人間が駄目ならば、どうにもならないことがある。
最新の兵器であれば良いというものではないのだ。
いや、むしろ超最新兵器ならばボタン1つで自動的にやてくれるか。
ただし、今回の魚雷はやたら人の手を煩わせる兵器だった。
初期の魚雷は海面に落ちた衝撃で爆発してしまったという。
そうならないために、ある程度の衝撃――艦船の装甲に当たったとか――でないと爆発しないようになっている。
最新ならば起動キーを入力しないと爆発しないような魚雷もあるかもしれないけど、そのような電子機器はMPを使いすぎるので私には錬成出来ない。
実際、錬成出来た魚雷は第二次世界大戦レベルの安全装置しかなかった。
ちなみに、普段は信管を抜くことで事故にならないようにしている。
その信管をセットする技能が、この世界の人にはないため、安全装置に頼ったというわけだ。
信管の安全ピン? 抜かずに魚雷を撃たれたらどうする?
魚雷と一緒に啓示を受けた潜水艦も、第一次大戦で登場したばかりのレベルでしかない。
それすら、私にはオーバースペックで錬成出来なかった。
錬成出来たのは設計図のみ。
しかし、それを建造する技術がこの世界にはない。
「ああもう。
人を育てないと魚雷なんて使えないわね」
それよりも元寇の「てつはう」みたいな炸裂火器を用意しようかしら。
爆雷があるんだから、この世界の人でも気付けば作れてしまうかな。
いや、これも火薬が不足したら無理か。
それよりも個人が持てる火器は制限しておきたい。
拳銃を量産してこの世界の人に渡すのはやめている。
いつ私に向けられるかわからないからだ。
特に連射出来るのがまずい。
魔法や魔導具で防ぐのも1回や2回程度までだからね。
余談だけど、宇宙人が地球に来ても友好的なはずという話がある。
その理由は地球に来る科学力があれば、地球を侵略して得るメリットなどないかららしい。
地球の物資が欲しいのだ→物資は他の生命体の居ない星からいくらでも得られる
凶悪な性格で戦いを欲するだろう→それを克服したから本星で滅びなかった
本星が滅んで移住したいんだ→星間航行出来るのならば他に良い星はいくらでもある
そういった理由でわざわざ地球に来る宇宙人は友好的なはずなのだ。
だが、そこにたった1つ例外がある。
文明的な宇宙人に保護された低俗な宇宙人が、その文明を乗っ取って宇宙進出した場合だ。
彼らは新たな文明を築く能力を持たずに他人から奪うだけの凶悪性を残している。
それが偶然地球にやって来た場合、そこには略奪だけが待っている。
なんでこんな話になったのかというと、私が齎した文明を得た教国の人々が、その乗っ取り宇宙人に成り得るからだ。
だから、渡す武器には気を付けないとならない。
使い切りだったり、再現出来ても影響が少ないものを選んでいるのはそのせいだ。
ましてや私を害することがないように選ばないとならない。
神様もそこはなんとなく配慮してくれているように思える。
「困ったな。
人を育てると、その技術が私を害するかもしれないのよね」
とりあえず、魚雷は早すぎた。
アーケランドに与する謎の敵に対抗する手段は他に考えないとならないわね。
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