第608話 アレックスの脱出経路
「その情報を掴んだのは、教国内でした」
やっぱりか!
情報局はいわばスパイ組織なので、当然他国にも情報網を張り巡らせている。
彼らにはアレックス(身体は委員長)と接触して【支配】されないように、1回だけ回避出来る魔導具が支給されている。
その魔導具の発動を以ってアレックスを見つけることが可能だった。
「すると、教国との国境を、とっくに突破されていたということか?」
「おそらく。
しかし、突破の痕跡は全く掴めていませんでした」
つまり、【支配】を使わず、トラブルを起こして目立つことも無く逃げられたか。
何らかのセーフハウス的な隠れ家が用意されていたに違いない。
最初から協力者が……いや、委員長の身体で顔だけアレックスでは、さすがに信用されないか。
となると、警備の隙を突かれた?
「ああ、リュウヤの領地から出たのか」
リュウヤに渡した領地は、アレックス派の腐敗領主の領地だった。
アレックスが昏睡状態の間にやりたい放題していたような奴で、アレックスからも嫌われていたが、それでも生き残っていたのには理由があったようだ。
アレックス戦の後に粛清され、リュウヤが新たな領主になるまでの間、僅かな空白期間があったのは否めない。
そして教国による教化浸透――あのクララが騙されてしまった事件のことだ――があった。
教国が女神信仰を土台にフラメシア教の復活を目論んでいた。
そこでアレックスと
「ジャスティン卿が叙爵される前ならば致し方ないかと」
国内のどこかの領地が丸っと支配されているよりは、国外に出てもらった方がマシか。
腐敗領主が協力しなくても、いざという時にどうにかできる備えがあった。
それが逃亡を助けたということか。
アレックスは依り代となる者を用意していたぐらい用心深い奴だ、有り得る。
「しかし、フラメシア教とアレックスは敵対関係だったはず。
勇者排斥論者のメインターゲットこそがアレックスだったのでは?」
「国外に出られてしまえば、そこでのスキル使用は痕跡を追えませんから、きっとテロ組織はアレックスの支配下なのでしょう」
敵対関係にある教国に逃げるということが、まさに盲点だったと言えるか。
「今後は教国の裏にアレックスがいると想定して対処する。
もう奴の依り代となれる者は3人しかいない。
これを機会に奴を滅ぼすぞ」
教国の拡大路線もアレックスの仕業か。
だからアーケランドもターゲットとなったのだろう。
それがリュウヤの領地での不穏な動きか。
「こうしてはいられないな。
直ぐにリュウヤのところに行かなければ」
俺は逸る気持ちで、疑似転移をしようと準備した。
疑似転移は眷属召喚を利用して疑似的に転移する仕組みだ。
その眷属召喚には制限があり、元の場所に戻す以外はクールタイムが2時間ある。
つまり、この王城までやってきた火竜では、まだクールタイムが消化されておらず、このままではリュウヤのところまでは行けないのだ。
その対処法は簡単で、別の眷属で疑似転移することだった。
この王城に召喚されてから2時間以上経っている眷属が居れば良い。
ここで改めて眷属を召喚しても、その眷属もクールタイムが発生して使えないからね。
そのための眷属がいたはずなのだが……。
「申し訳ありません、ただいま連絡用の翼竜が出払っております」
そうだった、無駄に眷属を配置しておくのは勿体ないからと、早期通信手段として連絡用と兼務にしていたんだった。
「それは仕方がないな」
元々、クールタイムなど簡単に消化してしまうつもりで王城に来たのだ。
それが主目的だったと言っても過言ではない。
「ちょっとセシリアのところに寄ってくる」
タルコット侯爵に捕まったのが予定外だったのだ。
元々、麗たちがリュウヤのところに到着するまで時間的余裕があったわけだしな。
◇
「あら、陛下、ずいぶんお久しぶりですこと」
セシリアの言葉に棘がある。
まずい。相当機嫌が悪いぞ。
「ははは、タルコット侯爵に捕まってしまってな。
教国にも動きがあって大変だったんだ」
「その割には結衣様瞳美様愛様とのお時間は取れたようですわね?」
なぜそれを知っている?
しかも、さちぽよ陽菜のギャルコンビの不在まで把握しているのか?
俺が冷や汗を流していると、セシリアがいたずらっぽく笑った。
「お忙しいのはわかっておりますわ。
けれども、私のところに寄るのは時間つぶしではありませんわよ?」
さっきの会話が筒抜けだ!!
仕方ないとか、ちょっと寄ってくるとか、地雷踏みすぎ!
俺が焦っているとセシリアが抱き着いてきた。
「この落とし前は、つけてもらいますわよ♡」
何もセシリアも俺を追及したいわけではないようだ。
ちょっと拗ねただけ。
それはそれで可愛いかった。
この後出発が8時間遅れた。
跡継ぎが出来ちゃいそうだ。
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