第600話 教国の聖女になるまで6

 爆発物を警戒した武装集団は、一定の距離から近付かなくなった。

私の最大投擲距離+爆発の影響範囲、それを見極められてしまったのだ。

戦闘は膠着状態に陥り、聖騎士の到着も時間の問題という時に敵が動いた。


「キャー!」


 教会の裏手、厨房の方向から下女の悲鳴が上がった。

しまった、教会の建物にも裏口があるのだ。

そして、逃げまどいこちらへと走り寄る修道女他。


 それは私の死角からの突入部隊だった。

私が正面を警戒しているうちに、教会建物の裏手から侵入されたのだ。


「さすがにワンマンアーミーは無理があったようね」


 1人で戦うには武装集団の数が多すぎた。

侵入を警戒してトラップを仕掛ける時間も無かった。

籠城している建物の手薄なところから侵入するのは常套手段セオリーだろう。

そして、後ろに集中すれば、前も動く。


「仕方ないわね。

みんな、集まって!

一緒に戦ってちょうだい!」


 こうなってしまえば1人で戦うのは止めだ。

他人に私を殺せる武器を渡すのには躊躇いがあった。

しかし、今はそれ以上に敵が脅威だった。

彼女たちには後ろぐらいは守ってもらいたい。


「はい、これを構えて皆を守って」


 私は武装集団が持っていた魔法盾を、MPを使って錬成した。

敵も魔銃や弩弓を持っている可能性があるからだ。

そこで発見があった。

この世界にも存在する物の錬成は消費MPが少ない。


「あなたはこれで攻撃を。

いい? この先を相手に向けてこれを引く。

あ、撃つときだけ指をかけて!」


 他の者には拳銃を与えた。

オートマチックではなくリボルバーだ。

部品点数が少なく単純なものの方がMPを消費しない。

そして、弾が無くなれば、私の管理の行き届かないところに流出しても、二度と撃つことは出来ないはず。

そのためには弾数の少ない方が良い。


 即席の防衛線が完成すると、あまり後ろを気にする必要が無くなった。

突入部隊は白兵戦の剣装備であり、銃による修道女たちの抵抗は想定外だったらしい。


 この世界には魔銃という魔法を撃ち出す銃がある。

しかし、それを使用出来る者は少なく、私以外が銃を使うとは想定していなかったのだろう。

突入部隊が後方を抑え、正面戦力で押せば、私の対応能力を超える。

そう考えた見事な作戦だった。


 しかし、敵にとって残念なことに、私の錬成した現代兵器は、引き金さえ引けば誰でも撃つことが出来るという、一般人が騎士を越え得る危険な武器だった。

私が流出を危惧した理由が理解してもらえるかと思う。

もしかすると、私自身がそれに危害を加えられかねないのだ。


 そして、ついに聖騎士隊が援護にかけつけた。

籠城は援軍が来なければ悪手だからね。

これにより形勢は完全に逆転した。

武装集団は撤退するしかなくなった。


「聖薬の聖女様、こちらを中央に献上なさいまし」


 銃を与えた修道女が、銃を両掌に乗せて恭しく掲げると、私に差し出して来た。

彼女には、それが神具に見えたのだろう。

私がその場で錬成して出した(カプセルだけど)ところも見ていたはず。

いや、小さなカプセルからその容量以上の物体が出て来るなんて、それこそ異常な風景で、神の奇跡そのものに見えただろう。


「あー、やっちゃったか」


 教国に囲われ銃を量産させられるなんて勘弁して欲しい。

それこそ、私に銃が向けられない確信、安全保障が無ければ無理だ。


「これはだめ。

他のものならば、例えば回復薬ならば献上するわ」


 銃は回収してアイテムボックス行きだ。

さすがに修道女、盗む者はいなかった。

神の使いと思しき私から盗もうなんて思いもしなかったのかも。


 こうして襲撃事件は幕を閉じた。

装備品その他からアーケランド貴族の関与が疑われたが、その対応は教国中央に委ねられることになった。

そして、私はその報告に向かう聖騎士に同行して中央へと向かうことになったのだった。


 教国中央への伝手をゲットした。

たぶん、いろいろ尾ひれがついた報告になっているはず。

アーケランドみたいに飼殺されないように気を付けないと。

女神教信者は神の奇跡に弱い。

神のお告げを捏造――いや、実際に啓示があるんだった――拡大解釈して悠々自適の人生を送ろう。


「女神教の繁栄、それが神の思し召しです」


 私の加護が鍛冶神(男)だということは内緒にしよう。

そうだ、鍛冶神もTSポーションで性転換したのよ。

都合が良いことに、レベルアップでステータス偽装スキルを手に入れていた。

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