第585話 教国の砦を攻撃する
空母部隊がついに教国領に到達した。
ここに至り、いよいよ教国領への直接攻撃が始まろうとしていた。
ここで教国領の説明をしておこう。
これは教国の捕虜から尋問した話であり、教国の機密情報が含まれている。
以下、教国捕虜の証言となる。
だが、大陸の北部には魔の森が広がっており、我が教国領は魔の森を避けるように海岸部周辺を北上している。
しかし、北の地は起伏の激しい岩場が多い海岸のため、海岸伝いに陸上を進出することが不可能だった。
それ以上北海岸を制するには、
そして、
そこへと進出することは、北の海岸の一部を領有している皇国との軋轢を生みかねなかったからだ。
皇国は
そのアーケランドが正統アーケランドに代わってから、皇国がどう動くか判らなかったため、我が国は北の海岸への進出を隠したのだ。
以上、教国捕虜の証言。
つまり、公式に教国領と呼べるのは、東海岸の北端までということになる。
空母部隊が到達したのはその東海岸の北端だった。
俺はトリトンに念話で呼ばれて、早速空母二番艦へとやって来た。
翼竜の帰還を利用した疑似転移で来たということは以後省略する。
「イルカの偵察によると、砦と港があるらしい」
教国も公式に領土としているからには、国境守備としての砦を築いているようだった。
「港に帆船は見られないようだ。
おそらく、まだ先の海戦の情報が到達していないのだ」
まあ、その帆船の速度より早く、俺たちが此処に到着しているのだから、此処の守備隊が知り得るはずもない。
ましてや、俺たちの攻撃に対応できるわけがないのだ。
「翼竜による空爆とマーマンによる上陸制圧で良いな」
「いつも通りか。了解した。
翼竜、全騎発艦準備。
マーマン隊は空爆後に港から上陸、砦を制圧する」
「マーマン隊は爆雷にも気を付けるように」
トリトンの命令で翼竜の発艦とマーマン隊の出撃準備が整う。
これらは、教国の中継地に対して何度も行って来た攻撃パターンだ。
皆、かなり馴れている。
「俺は翼竜と視覚共有して指揮する」
「翼竜はお任せします」
空母一番艦の
空母二番艦は側面エレベーターで翼竜が飛行甲板まで上がって来る。
そしてその翼竜が飛行甲板を滑走して飛んで行く。
続けて反対舷の側面エレベーターから翼竜が上がって来て、同様に発艦する。
それが4匹続き、大空には翼竜6匹の編隊が対空していた。
ちなみに、残り1匹の翼竜は直援騎だ。
空母に敵が接近して来た時に、迎撃を担う。
続けてマーマンが下がった舷側エレベーターから海中に飛び込む。
空母二番艦の飛行甲板が高いため、下げたエレベーターから飛び込むのだ。
『攻撃開始』
俺の命令で、翼竜が一斉に砦へと向かう。
俺は後方の1匹から視覚共有で状況を見守る。
先頭の翼竜が砦へと火炎弾を吐こうとした時、視界が眩く光った。
そして1匹の翼竜が墜落していく。
「何があった!」
『クワクワ……』
その撃墜された翼竜の念話からは「痛い」という意志が感じられた。
「まさか撃たれた?
それにあの光、魔導砲か?」
『全騎、散開!』
俺は慌てて翼竜に散開を命じた。
もし魔導砲が大量配備されていたら危険だからだ。
それも空を狙えるように改良されている!
「だが、おかしいぞ。
俺たちが翼竜を使って攻撃していることを、教国が知っているはずがない」
翼竜にやられた教国の帆船や中継所は誰も教国に連絡を取れていないはずだった。
しかも、まだ戦いがあったことすら伝わっていないはず。
それが、この世界の情報伝達速度なのだ。
「なぜ、翼竜への対応が行われたのだ?」
嫌な予感がする。
教国は宗教国家だ。
その宗教が信じられるほどには神の奇跡が確認されているのだろう。
まさかと思うが、神のお告げでもあるとでもいうのだろうか?
それ以外に、この異常な出来事は説明できそうにない。
『全騎、避けろ!』
その時、俺は見てしまった。
魔導砲が据え付けられている台座を。
それは旋回銃座と呼ばれる、対空射撃用の仕組みだった。
「くそ、なんだあれは!」
『全騎、魔導砲を狙って火炎弾発射!
その後、撤収だ!』
ドーーーーン!
その時、港で爆発音と水柱が上がった。
マーマンの攻撃を予測して、爆雷が放り込まれたのだ。
水中は音波が伝わり易い。
マーマンはまだ接近していないだろうが、その音の衝撃は受けてしまっているはずだ。
『トリトン、マーマンに撤収命令!』
『だめだ! マーマンは耳をやられて命令が届かない!』
まずいぞ。教国は空と海からの攻撃を待ち構えていたんだ。
だが、誰がそれを教えた?
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