第480話 闇の底
纏とは眷属である魔物と融合し、その能力を使用出来るようになるものだ。
最初に纏ったのはカブトンだったが、俺はその姿のまま元に戻れないのではないかとの不安を持ったものだ。
それが今回現実となってしまったのかもしれない。
アレックスに対抗するため、俺は思いつく全ての眷属を召喚し纏ってしまった。
それを解除することが出来ない。
以前は纏を使う度にリバウンドが起きて身動きが出来なくなっていた。
身体が魔王化したことで、多少耐性が出来たのか、飛竜纏い程度では行動制限が起きないぐらいにはなっていた。
だが、今回はさすがにダメだった。無理をし過ぎたのだ。
俺の意識が闇へと沈んで行く。
このまま落ちて行けば楽なのだろう。
何もかも受け入れてしまえば、最強の力を得ることが出来る。
そんな直感が頭を過る。
この眷属を纏った状態の力を当たり前のように使えるようになるのだ。
「魔王様、さあこちらへ」
「
誰の声だ? 纏った眷属の誰かか?
至高なのに、落ちるのか。
俺はアレックスという魔王を倒すために、真の魔王となってしまうのか。
その落ちた先には何がある?
不安なのか、期待なのか、複雑な思いが頭を廻る。
いや、落ちたら俺はどうなってしまうのだ?
そんな不安も、次の瞬間には消えてしまう。
落ちていく、さらに落ちていく。
やっと底の底が近付いてくる。
暗い底に青い点が見えて来る。
そこにはスポットライトを浴びたかのように光る男の姿があった。
青いブレザー姿。それは俺の行っていた前の中学の制服だ。
その男の背中が近付いて来る。
俺か? 俺なのか?
その男がゆっくりと振り向く。
「!!!」
俺かと思っていた男の顔に俺は恐怖を覚える。
「お前も落ちたのか?」
その顔はクソ親父へと変わっていた。
いつの間にか見知った背広姿になっている。
俺が世界で一番嫌悪する存在。
こうはなりたくないという思いが常にあった反面教師。
俺はそのクソ親父と同じなのか?
愛する者のために手段を選ばなかった。
それはクソ親父もそうだったのか?
俺たち母子には愛情を注ぐ気がなかっただけで、外の家族にとっては最愛の父親だったのでは?
その立場の違いで、クソ親父の見方が変わる。
そこに赤子を抱くエレノア王女のイメージが涌いて出て来る。
その赤子はまだ産まれぬアレックスの子だ。
俺は赤子のたった1人の父親を殺したことを自覚する。
「俺も、エレノアのお腹の中の子供からすればクソなんだな」
俺はクソ親父のことを理解した気になって、クソ親父に触れようと手を伸ばす。
俺はクソ親父と同じだったのだ。その思いが強くなっていく。
「だめ! 触れてはだめ!」
「一緒に帰ろう?」
突然、天から光が降りて来た。
その光が結衣と麗の形になり、俺に手を指し伸ばす。
「だめなんだよ、結衣、麗。
俺は子供から父親を奪ったんだよ」
訳の分からない思考になっていることは半分理解している。
だが、その罪悪感がブーストされて、闇へと引き摺り込もうとして来る。
それはクソ親父への反発と同時に父親という存在への渇望でもあったのかもしれない。
「一方を捨てる愛情なんてないの!」
「そうよ、全てを愛しなさいよ!」
「わらわたち眷属にも愛を持って接してくれたであろう?」
俺が纏って融合しているカミラの声がする。
「くわぁ!」
ラキが同意の叫びを上げる。
そして眷属たちを表す光の玉が飛び交い、闇の底を照らす。
すると父親だったものが形を崩し、得体の知れない黒いスライムのようなものに変わる。
「このまま闇に落ちれば良かったものを!」
「アレックス!!!」
その黒いスライムにアレックスの顔が浮かぶ。
まさか、俺はアレックスに侵食されていたのか?
「今こそ魔王アレックスを滅する時よ!」
「ヒロキくん、聖剣を使うのよ!」
光の結衣と麗が俺の両脇に来て抱き着いて来る。
先程までは気付かなかったが、彼女たちは全裸だった。
その押し付けられた生の感触が俺を正気にさせる。
いつの間にか、俺の手に聖剣が握られている。
それは真の勇者の力、【聖剣創造】だった。
「バカな! なぜ新参魔王が聖剣なんぞを!」
聖剣の光が魔王アレックスの残滓を滅する。
俺が聖剣を意識したことで、その力が発動したのだ。
聖剣と言いながら、斬る行為を必要としないのはどうなんだろうか?
そう軽口が叩けるぐらいに俺の心は軽くなっていた。
パーン
何かが弾けるような感覚がした。
それは全ての纏が解除された音だった。
ゆっくり目を開く。
「ヒロキくん!」
リアルに結衣が抱き着いて来る。
結衣も助かったんだ。良かった。
先程、闇の中で抱き着いて来たのも結衣だったはずなのに、なんで俺はそんなことを思っているのだろう?
記憶の混同が起きている気がする。
だが、そこには結衣が生きている、それが無性に嬉しかった。
「もう、無理しすぎだよ」
麗も抱き着いて来る。
あ、なんかあっちが元気になってしまった。
命のやり取りをすると生存本能が働いて昂ぶるって言うよね。
それだけ元気なのだと自覚する。
もう大丈夫なのだろう。
よく見ると、リュウヤもさゆゆとクララの2人と抱き合っている。
向こうも問題なく収まったか。
2人はまるで双子のようだ。
リュウヤも2人を公平に愛するのだろう。
「終わったんだな」
「うん、アレックスはもう復活しないと思うよ」
アレックスとの戦いはここに終結した。
後は、アーケランド軍を降伏させ、王城を開放すれば……あ、委員長忘れてた。
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