第454話 弁当を配達する

 翌日。

やっと翼からの手紙が星流ひかるによって齎された。


『星流、翼、翔太、マイケル、嵐太の5人は、そちらに行く用意がある。

どのように脱走するべきか、その支援はどうされるのかご教示いただきたい。

野球部3人とレスリング部、水泳部の合計5人はアレックスに近い。

彼らに伝えると危険だと思われる』


 翼くんからの情報で、柔道体形の名前が嵐太だと判明した。

そして、野球部たちの部屋にいるだろう5人は、やはりアレックスに近く危険なようだ。

そうなると、星流たちの部屋にいる5人を脱出させることだけに絞った方が良いかもしれないな。


 本来ならば脱出計画を手紙にするのはバレた時の危険を考えて憚られるのだが、星流に口頭で伝えてもらうのは……きちんと伝わる気がしないので却下だ。

脱出計画は、こちらの攻勢に便乗して彼らに出撃してもらい、そこで死んだことにして助けるというさちぽよの時のような作戦をとることにした。

この作戦を手紙に書いて渡そう。


 俺が作戦を記した手紙を書いている間、星流は今日のご褒美であるオムライスを食べていた。

オムライスの卵は養鶏場から、鳥肉は四脚鶏から、ケチャップは戦闘奴隷たちが耕している農場のトマトから、ご飯はもちろん農業国の米から作られている。

それを結衣がギフトスキルを駆使して調理したものだ。

不味いわけがない。


「(皆に持って帰って)食べさせたいっす」


 星流がオムライスを頬張りながら呟く。

それは仲間の皆に食べさせたいってことだろうな。

カメレオン5を潜入させて見ていたから、その気持ちが理解出来た。


 俺にも持って帰らせたいという気持ちはあるが、そのためには越えなけれならないハードルが2つあった。

それは星流が4人前の弁当をどうやってバレずに携帯するのかと、弁当をどのように密閉するのかだった。


 前回は、紙とペンとインク壺だったので、インク壺の蓋が開かないように布で縛る程度で済んだ。

もし今回、オムライスを持って行かせるとして、どうやって携帯させる?

この世界には弁当箱のような食品容器など存在していない。

料理や水は皿やお椀にコップなどの食器にそのまま置いたり注ぐものなのだ。

これは、アイテムボックスが便利すぎて、ラップもかけていない食器をそのまま天地を気にせずに収納できるからだ。


 では冒険者のような者の携帯食料はというと、収納袋にそのまま入れられる堅パンや干肉、水筒や水袋に水を入れる程度なのだ。

街の食べ歩きでも、パンに具材を挟んだ物が葉っぱに包まれている程度が食品持ち歩きの方法だろうか。


 そうだ。コンビニで売っているオムむすびのようにすれば、葉っぱで梱包も可能か。

そらならば、星流も軽鎧の内側に収納して持って帰れるだろう。


 だが、そこにはもう1つの問題があった。

密閉問題だ。

星流にとって重要な任務は、アレックスにバレずに物品を持ち込むことだ。

そこでオムライスの匂いが出てしまってはまずいのだ。

ケチャップの匂いなど、この世界では独特すぎて目立ってしまうだろう。

日本人が海外から帰って来て空港に降り立つと、醤油の匂いに気付くと言う。

ケチャップや醤油の匂いなど、アーケランドでは目立ってしまって危険極まりない。

恋焦がれ欲していた調味料の匂い、召喚者ならば誰もが敏感になっているはずだ。


 そういや星流、お前の口からそんな匂いが漏れてなくて良かったよ。

マグロ丼の醤油の匂い、カツ丼の出汁と醤油とみりんの甘辛い匂い。

危ないところだった。

もしかして、星流の遊覧飛行は、匂いを飛ばす目的だったり……いや、偶然だろう。


「星流、ちょっと良いか?」


「なんすか?」


「その軽鎧の内側はどうなっている?」


「内側っすか?」


 星流がずらして見せてくれた軽鎧の内側は、外側に湾曲した曲線を描いており、案外隙間があった。


「この革紐を弛めれば、もう少し隙間が開くか」


 容量は問題なさそうだ。

あとは密閉か。

そうだ!


「ゴラム、中が空洞の石は作れるか?」


 土魔法が使えるゴラムに訊ねると目の前で石を作ってくれた。

石といっても白い釉薬のかかった陶器に近い。

それを剣の柄尻つかじりでコツンと割る。

すると石は2つに割れ、中に空洞があることが見てとれた。


「よし、この中にオムむすびを入れれば匂いも漏れないぞ」


 俺は女子たちを呼んでオムむすみを握らせた。

え、なぜ女子かって?

男の握ったおむすびなんて食べたいか?

そういうことだ。


「ああ、コンビニで売ってるやつっしょ」


 陽菜が皿の上のオムライスを解体してオムむすびを作る。

意外に器用だ。


「初めて作りました」


 セシリアが見よう見まねでオムむすびを作る。

まあ、及第点だろう。


「無理っす」


 キャルのは……スタッフが美味しくいただきました。

そして腐ーちゃんのオムむすびは芸術的だった。

どうやってケチャップでハートを描いた?

そのケチャップはオムライスの上にかかっていたものだろう。

それがオムむすびに巻いた卵の上でハートになっている。

謎だ。


 結局、ほとんど腐ーちゃんが完成させることになった。


「よし、ゴラム。これを中に入れた石を作れ!」


 こうしてオムむすび入りの石が10個出来た。

石が割れない限り、匂いなんて外に出るわけがない。


「向こうで割って食べろ。

1人2個だからな」


「ありがとうっす!」


 後で気付いたが、石が動けば、中のハートは……。

まあ、食べられれば良いか。

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