第451話 アレックスの齟齬
Side:アレックス
翼竜が敵の砦に食料を運んでいた。
せっかくやつらを食料不足で飢えさせて、無謀な突撃を誘発してやろうと思っていたのだが、そんな抜け道があったとはな。
そのため飛行能力のある勇者
翼竜の貧弱な輸送力ならば、アイテムボックスを持った人物を乗せているはず。
星流には翼竜を落せと言ってあるが、目標はあくまでもその搭乗者だ。
希少なアイテムボックス持ちさえ殺してしまえば、やつらは次の補給に難儀するはずだ。
あとは星流の帰還と、その首尾を待つこととしよう。
「報告します」
そう私が思案している間に、伝令の騎士が城壁へと上がって来たようだ。
反乱軍の援軍に関するものか、タイミング的に
「なんだ?」
そう思いながら振り向くと、騎士は2人いた。
どうやら報告は2種類あるらしい。
私は騎士の様子を伺うと、焦りの色の濃い騎士ではなく、落ち着きのある騎士にまず報告をさせる。
「敵の援軍と思われる軍が、進軍を停止しました」
「旗印は?」
「タルコット侯爵家の紋章です」
やはり反乱軍にはタルコット侯爵家が与していたか。
しかし、なぜ進軍を停止した?
たしかに皇国軍が撤退した後、合流しても数的に勝ち目は無い。
それをどのようにして知ったというのだ?
「連絡の騎馬や騎獣は迎撃していたのだろうな?」
「間違いなく対処しています。
それどころか、砦からは1騎も脱出させていません」
砦の包囲を任せている将軍が、自らの仕事は完璧だと主張する。
たしかにそうなのだろう。
実際、やつらの砦の門が開いたところを見たことがない。
その正門前には竜種が数体陣取っており、固く守られたままなのだ。
さらに裏門にはゴッドクジラがいる。
あれには馬も騎獣も寄り着かない。そちらから出ることもまず無いだろう。
「空です。
空から翼竜が伝令を運んでいるのです。
我らの騎馬の上空を敵軍に向けて飛んで行く翼竜が目撃されております」
「また空か!」
それで皇国撤退の情報が反乱軍の援軍に伝わったか。
だが、好都合だ。
タルコット侯爵がバカでなければ、無謀にもこの戦場に突入して来ることはないだろう。
このまま情勢を見て、我が方の援軍に来たと言い出すのが貴族というものだ。
「進軍が停止したのであれば、それで良い。
引き続き監視し報告を上げよ」
「はっ!」
1人目の騎士は頷くと、この場を辞して行った。
さて、次だ。多少は落ち着いただろうか?
「次の報告を」
「ははっ!
特別作戦に就いておられた勇者様方に関する報告です」
「おお、待っていたぞ。
で、その首尾は?」
やっと来たか。
やつらの拠点がどのように蹂躙されたのか早速報告してもらおうか。
「勇者様方、後方の連絡地点に、未だ戻られません。
作戦継続中である連絡も来ておりません」
「はぁ?」
戻らない? 連絡もないだと?
魔族化した勇者が10人だぞ?
ほとんど生産職ばかりの拠点制圧のために、精鋭の魔族化勇者が10人だ。
相手が召喚勇者だとはいえ、ほとんど育成もまともにされていない野良の勇者だろうが。
しかも、
「偵察隊は?」
「作戦開始前に引き上げております」
「どうしてそんなことになっている!」
「巻き込まれる可能性があると上から命令が来ておりました」
ああ、そんな命令をしたな。
偵察隊に目撃されて、魔族だと敵側に寝返られるとまずい。
そうならないようにと、偵察隊に引き上げ命令を出したのだった。
「すぐに偵察させろ!」
これは現地を確認しなければならないぞ。
何が起きたのだ?
「はっ!」
2人目の騎士が慌てて下がる。
この様子ならば直ぐにでも命令を実行することだろう。
「あの完璧な不意打ち、助けに戻れないほどの戦力の分散、精鋭の投入。
いったい、何があったら負けるというのだ?」
魔族化勇者が10人もいて、全員が殺られたというのか。
それとも、まだ作戦実行中だとか?
いや、あれからもう10日以上経っているのだ。
制圧したならば、誰か1人でも帰って来ているはずだろう。
まさか、
いや、あり得ん。転移では助けは間に合わなかったはず。
「戻って来たっす」
「ああ、星流か。
貴様は無事に戻って来たか。
戦果はどうだ?」
「(翼竜が足で掴んでいた獲物を)落してきたっす」
「そうか、よくやったな」
魔族化していなくても、使えるやつは使えるではないか。
これで翼竜とアイテムボックス持ちが減れば、
「何かこの作戦で気付いたことはあるか?」
「そうっすね。(マグロ丼が)美味かったっす」
「そうか、巧い作戦だったか」
そうだろう。私の作戦の妙は
やつらの拠点攻撃もきっと上手く行っているのだ。
「よくやった。今日は特別料理を出してやろう」
「うれしいっす」
これぐらいの飴を与えてやれば、こいつならば喜んで働いてくれるだろう。
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