第427話 魔族勇者戦5

 南門方向の水堀は不死者アンデッドで溢れていた。

その沈んだ仲間の上を踏みつけ、次から次へと不死者アンデッドが内塀の中へと雪崩込んで来ている。

どうやらGSもGKと配下も不死者アンデッドに対する有効打を持っていなかったようだ。

彼らの攻撃と不死者アンデッドの数の暴力は相性が悪いようだ。

不二子さんの攻撃魔法も効きが悪い。

倒してもその部品を再構築して復活してしまうのだ。


「これか! これのために麗を狙っていたのか!」


 不死者アンデッドの天敵こそが聖女の麗だ。

その麗が狙われていると認識させることで、防衛網の最奥に匿う形になった。

そこで前線に不死者アンデッドが投入されれば、こちらは成す術がない。

麗がターゲットだというのは半分はブラフ。

だから麗を目の前にしておいて、魔族勇者2は各個撃破を命じて屋敷から離れたのだ。

俺はそこに引っ掛かりを覚えていたのに、よく考えずにスルーしてしまった。

その結果が、この不死者アンデッド数万体の跳梁跋扈なのだ。


 だが、そこには誤算があった。

俺が温泉拠点に戻って来ていたからだ。


 おそらくアレックスは、俺の転移をクロエと同等のものだと思っている。

つまり、俺たちを要塞都市グラジエフまで引き込めば、慌てて温泉拠点に戻ろうとしても距離制限とクールタイムで、俺はまだここ温泉拠点に戻れていない計算なのだ。

狙いは元々ここ温泉拠点と留守番の麗たちだったのだ。


 ただの召喚勇者ならば、温泉拠点に残した戦力でも防衛は可能だった。

そのつもりで居残り組を決定したのだから。

だが、そこに投入されたのは、魔族化して促成強化された魔族勇者だった。

そして、その召喚勇者自体も、フィジカルエリートのU18一流選手揃いで基礎能力が異常に高かった。


 そして、この不死者アンデッドの大軍と召喚コボルトの自爆攻撃だ。

アレックスのこの作戦が嵌っていたならば、おそらく俺は結衣たちと再び会うことが出来なかった。

もしも俺が戻っていなかったならば、眷属を援軍として投入しなかったならば、どうなっていたのだろうか。

アレックス、恐ろしいやつ。


「だが残念だったな、アレックス。

俺がここにいる!

そして俺は真の勇者なんだぞ」


 俺の転移は眷属召喚を利用したもので、行ったことのある場所ならば距離制限がない。

そして俺ジョブは真の勇者だ、聖魔法が使えてそれに対してブースト効果がある。

麗には劣るかもしれないが、この天敵ともいえる魔法が使えるのだ。


「眷属召喚不二子さん、俺の後ろへ」


 不二子さんはサキュバスなので、巻き込まれる可能性があった。

それを眷属召喚で回避する。

そして、この魔法を使う。


「【ターンアンデッド】!」


 俺を起点として、俺の前方に聖なる波動が扇状に広がっていく。

その波動に触れた不死者アンデッドは塵となって消える。

魔の森より溢れ出た数万の不死者アンデッドは、この魔法一発で葬り去られた。


「そんなバカな……」


 魔族勇者7が発した怨嗟の声も、自らの身体と共に塵となって消えた。

やはり悪魔系にも聖魔法は有効なようだ。

サキュバスの不二子さんを下がらせて正解だった。

巻き込んでいたかもしれないからな。


 今後もアレックスが魔族勇者を使い続けようと思えば、聖女である麗の存在は邪魔だろう。

ブラフも入っていたが、麗が狙われたのも当然か。

そして、俺が真の勇者であることも、アレックスにとっては誤算だっただろうな。


 これも真の勇者だった委員長が余計な事をして、そのジョブをはく奪されたからだ。

委員長も下手に闇落ちしていれば、魔王化しているかもしれないな。


 さて、残りは魔族勇者2と3の2人。

魔族勇者3は、自爆コボルトを召喚し、近接特化のパツキンやアンドレには不利だ。

ここは不二子さんに魔族勇者3を遠隔攻撃してもらうか。


「不二子さん、コボルトを召喚しているやつがいる。

コボルトは自爆攻撃を仕掛けてくる。

召喚主を魔法で葬ってくれ」


「わかったわ。後でご褒美頂戴ね♡」


 何がご褒美かは敢えて言わないでおこう。

キララとカブトンがコボルトを抑えているうちになんとかしてもらわなければならないからな。


 こうなると、魔族勇者2の方も気になるな。

どんな特殊能力を発動しているかわからない。

青Tとオスカルが心配だ。

ここは不二子さんを投入したからもう大丈夫だろう。

魔族勇者2と対峙している青Tチームの様子を伺いに行くとするか。


 聖魔法を使った右腕が痛い・・・・・けど、致命的ではない。

直ぐに回復するだろう。


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青Tチームと不二子さんのいる位置が逆だったので修正しました。(2022.6.1)

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