第401話 要塞都市バラス攻略3

Side:ロイド将軍(バーリスモンド侯爵領兵軍司令)


 ロイド将軍が侯爵を諫め、降伏を進言したが無駄だった。

メルヴィン侯爵は、翼竜が人を攻撃しないと高を括っていたのだ。

実際、翼竜は人的被害を最小限に抑えようとしていた。

それは正統アーケランド王国を名乗るセシリア第二王女派閥が、侯爵領の領民も保護すべき王国民だと思っているからであった。

だがそれも、降伏勧告を行なっている今だけのことなのだ。

それが理解できるロイド将軍は、早急な停戦が必要だと考えていた。


「閣下、それは今だけのことです。

降伏勧告を跳ね除ければ、次は翼竜と皇国兵による蹂躙が待っているでしょう」


「ええい、貴様、臆病風に吹かれたか!

そんなやつはいらん。今を以って将軍職を解任する!

負け犬として、どこへでも行くが良い!」


 メルヴィン侯爵は、ロイド将軍の進言を跳ね除け、破滅の道を選んだ。


「侯爵閣下は、どうされてしまったのだ?

父親である前侯爵を反面教師のようにして生きて来られたのに……」


 ロイド将軍はそう呟くと職を辞するしかなかった。

ロイド将軍は、勇者の使い捨てを戦場で見て来た立場だった。

それは勇者アレックスが王太后配となってから、特に酷くなった。

セシリア第二王女派閥がアレックスを魔王だと言うのも、ロイド将軍はその残虐性から肌感覚として感じていたのだ。


「ええい、徹底抗戦だ!

民に武器を持たせよ!

女子供も動員して戦わせるのだ!」


「閣下、それだけはなりません!」


「黙れ! まだウロチョロしておったか!

おい、この臆病者を追い出せ!」


 ロイド将軍は、元部下たちに頭を下げられながら、領主館の指揮所を後にするのだった。


 ◇


Side:主人公


「侯爵軍が、領民を動員し始めたようであるな。

女子供までが武器を取って戦っておる」


「そんな!」


 俺はこの世界を甘く見ていたようだ。

領主の命令で女子供までもが武器を取って戦う。

領民は人の盾とされ、戦わなければ自らを守護するはずの騎士に殺される。

それがまかり通る世界だったのだ。


「仕方ないであろう。これが戦争というものぞ。

我が皇国の兵と武器を持って対峙したからには、全力で倒すしかないであろう」


 タカヒサが、これが戦争の定めだとでも言う。


「女子供が、訓練された兵たちに対して何が出来るというのか……」


 俺はそのあまりにも無駄な殺戮に戸惑いを覚え、そう口にするしかなかった。


「もし、彼らが武器を捨てたならば、見逃せないだろうか?」


「その見逃した者たちが後ろから斬りつけて来てもであるか?

それが通れば、敵がその立場を悪用し出すであろう。

そうなれば民も何も見分けが付かなくなるというもの。

事ここに至ったならば、それこそが兵を無駄死にさせることになりもうすぞ」


 元の世界情勢でもよくあるパターンだ。

市民が戦車をスルーしておいて、後ろからロケット弾を撃ち込むのだ。

所謂民兵だ。

民兵は国際法上はテロリストであり、裁判なしでの殺害が認められている。

人権意識の強い国では付帯条項により、テロリストにも裁判を受ける権利があるとされているが、そうではない国や戦闘中の緊急回避では未だこれが有効だったりする。

だからこそ、条文自体には手が入らずに付帯条項で対応している。

有効でないならば、条文自体を改訂するか削除すれば良いのだ。


 そうなると、軍は市民を疑い逮捕して尋問し、民兵ならば排除しながら進軍する。

それが傍から見れば市民の虐殺に見えるのだ。

何が正義なのか、軍隊同士で戦っていれば単純だが、そこに民兵が加わることで複雑になってしまう。

そうなると民兵は見つけ次第殺していくしかなくなるのだ。

そこに冤罪も加わって……。


 そんな市民を害する大義名分を与えてしまうのは迂闊であり、明らかに失策だと言えるだろう。

それが異世界ならば、人の命なんてあまりにも軽いため、自ずと結果は想像できるというものだ。


「そうなってしまうのだな……」


 これだけの軍がぶつかり合えば、大量の死者が出る。

全ての者が自らの命を守るためにと冷静に判断し降伏できるものではないのだ。

そこに領主である侯爵様からの命令という強制力が働けば、成す術もないのが民なのだ。


 さらに継戦の意志を隠されての降伏も有り得てしまう。

後方かく乱されると、また死者が増える。

これが戦争か。アレックスを討つために、関係のない人たちを犠牲にしなければならないとは……。

なんとか出来ないものか。


「ここでは侯爵の命令が戦いを大きくしているのだな。

ならば、その首魁を討てば良いのではないか?」


「まあ、そうなのであるが、そこまで行くのために我が皇国軍がいま血を流しておるところであろう」


 なるほど、そのための地道な戦いだったのか。

だが、それならば……。


「いや、侯爵の居場所さえ判れば、翼竜による空爆で終わらせられる」


「……その手がありもうしたか。

だが、あの威力では侯爵の首級みしるしが手に入らぬであろう。

それではいくさは止まらぬ」


 タカヒサが言うには、戦いを止めるためには侯爵を討ち取った証拠を提示しなければならないということだった。

侯爵を討ち取ったと口で言って、その現場を見ていない侯爵軍の誰が信用するというのだ。

その証拠を翼竜の空爆では木っ端みじんに吹き飛ばしてしまう。

戦争を終わらせるために、そのための証拠を自ら失ってしまう手を使うのはたしかに愚策だ。


「ならば、空から抜刀隊が斬り込み、侯爵を倒すというのは?

飛竜ならば、2人乗りが可能だ。

俺ともう1人で侯爵の元へと乗り込むことが可能だ」


 残念ながら、飛竜は眷属卵召喚の出来ないレア眷属になる。

簡単に増やすことが出来ない。

虫輸送ならば、あと3人いけるが、あれは見た目が悪すぎる。

目標が見えれば眷属召喚を利用した転移も使えるが、それこそ隠さなければならない手段だ。

これ以上の魔王っぽい行動は慎みたい。


「その役目、それがしに任せてくだされ!」


 サダヒサが抜刀隊を買って出た。

たしかに島津の武者ならば、打って付けだろう。

俺も気心が知れているので助かる。

あとはキラトでも召喚すれば、周囲の制圧も簡単だろう。

いざとなれば不二子さんとかオトコスキーとか、あまり表に出したくない眷属も呼べるからな。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

この作品はフィクションであり、内容が実在する国家組織団体等と関連するものではありません。

侯爵とウクライナを同一視する方が出て来たため、誤解されている方もいるかと思い、あえて書かせていただきます。

民兵の描写の参考にしましたが、それに付随する部分は現実と全く関係ありません。

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