第399話 要塞都市バラス攻略1

 一度拗れてしまうと、その挽回には時間がかかる。

その時間をアレックス側に与えてしまうと、後輩勇者が育ってしまう。

その前に決着をつけるための正統アーケランド王国という方便なのだ。

バーリスモンド侯爵は残念だった。

そう割り切って攻撃するしかなかった。


 バーリスモンド侯爵が陣取るのは国境にある要塞都市バラスだった。

この要塞都市はアトランディア皇国との国境に対する王国アーケランド守護の要として機能していた。

皇国軍が正面から攻めるのには厳しく、かといってスルーした場合は補給線を絶たれ背後から襲われる。

かなりやっかいな位置付けにあった。


 今はオールドリッチ伯爵領から皇国軍が進軍するというルートもあるが、それをすればバーリスモンド侯爵軍とその領地に進駐する王国アーケランド正規軍が皇国へと雪崩れ込む。

俺たちが皇国軍を援軍として必要とするならば、避けては通れない相手だった。


「バーリスモンド侯爵領に進駐している王国アーケランド正規軍の司令は誰だ?

正規軍ならば指揮権は王家にあるのだろう?

正統アーケランド王国こちらに靡く可能性があるのでは?」


 要塞都市バラス攻略のための軍議で、俺はそのことを指摘した。

何も離反工作は侯爵自身でなくても良いのだ。


「それは無理です。

なぜならば、その司令は侯爵の娘婿なのです。

侯爵の言いなりですよ」


 オールドリッチ伯爵により派遣されたモーリス隊長が王国アーケランド軍の内情を話してくれる。

そこは俺たちが疎い部分なので助かる。

なので、モーリス隊長の身分的には不相応な、このような軍議にもアドバイザーとして自由に発言してもらっているのだ。


「となると、正面から要塞都市を攻略しないとならないのか」


 この要塞都市バラスこそが、侯爵が時間稼ぎが出来ると考えたもう1つの理由だった。


「正攻法では短期での攻略は厳しい。

まさかアーケランド正規軍が、このように早く展開しているとはのう……。

攻城戦となると3倍の兵が必要だというが、この要塞都市の兵器群を勘案すれば、5倍の兵でも足りないであろう」


 この要塞都市の存在が、皇国がここ何年もアーケランドを攻めあぐねていた理由だった。

そのため皇国は勇者たちの攻撃を防戦するに留まっていたという。


 ならば、なぜ今回、皇国が動いたのか?

それは前侯爵ゴドウィンが、自らの兵を私怨に使い失うどころか、自らも亡くなったとの情報を得たためだった。

つまり、俺のせいだったということだ。

そこに王国アーケランド正規軍の駐留という誤算が加わった。

それだけアレックスは、この皇国との戦いに重きを置いていたということだろう。


「要塞に配備されている兵器とは?」


「大型のバリスタや兵が持つ弩弓、投石機なども備え付けられている。

そして爆裂玉という勇者由来兵器がある」


 爆裂玉とは火薬による爆弾のことか。

蒙古襲来で使われて日本の武士が大被害を受けたってやつに近いのかもしれない。

他も勇者知識から実現可能だった兵器群ということだろうな。

だが、その爆裂玉も使いどころが難しいのだろう。

要塞という厳重な壁で守られた場所からの投擲だから、自らが巻き添えにならないが、俺たちと対した時のように平地で使うと自らも被害を受けてしまうのだろう。

それが、先の侯爵軍との戦いで爆裂玉が持ち出されなかった理由か。


「防衛戦では有効な兵器ばかりだな。

侯爵が時間稼ぎが出来ると考えるわけだ」


 ここは俺たちはこの要塞をスルーするべきかもしれないな。

戦力的には厳しいが、皇国軍をここに置いて、オールドリッチ伯爵軍と共に進撃し、離反者を糾合すれば……。

皇国軍には、ここを攻略せずに包囲してもらって、俺たちを追撃しようと出撃して来た侯爵軍を叩いてもらう。


 いや、駄目だ。

貴族家の離反者をあてにしすぎる訳には行かない。

離反者が予想を下回ったら、数で押し切られることになる。

その数を担ってくれるのが皇国軍なのだ。

居もしない援軍をあてにするのはリスクが高すぎる。


「仕方がない。

俺の秘策を披露するしかないか」


 俺は皇国には隠していた【たまご召喚】のスキルを披露することにした。

あまりやりすぎると魔王認定されかねないので隠していたのだが、ここに至ってそんな悠長な事を言っている場合ではなくなってしまった。

魔物を使役して召喚するのは、上級テイマーでも行なえることだ。

ヤバイ個体さえ召喚しなければ、誤魔化すことも出来るはずだ。


「何か打開策があると申されるか」


 鷹久殿が俺の一言を聞き逃さなかった。

ここは腹を括って話してしまおう。

何しろ鷹久殿は義父となったのだ。

多少行き過ぎた魔物の使役があっても、娘婿を悪いようにはしないだろう。


「翼竜という魔物がいる。

俺はそれを使役し召喚できる。

その翼竜が空から火炎弾を吐き空爆する。

それで要塞の兵器群を破壊する」


「おお、空飛ぶ魔物を使うともうすか。

大型兵器さえ破壊出来れば、後の攻城戦は我が皇国武士だけでも行なえもうそう」


 城壁だけの攻略ならば、3倍の戦力で行ける計算だ。

あとはこっそり魔法で支援すれば、城壁ぐらい突破可能だろう。


「それで行くということで良いか?」


「お任せいたそう」


 ◇


 場所を変えて要塞都市バラスが見渡せる丘の上。

俺は久しぶりに【たまご召喚】のサブスキルを使う。


「それじゃあ、やるぞ。

眷属卵召喚 翼竜 5個 時間経過庫へ」


 俺の目の前に竜卵が5つ現れることは無かった。

竜卵は孵るのに3日もかかる。いまはそんなには待っていられないのだ。

なのでアイテムボックスの時間経過庫と連動させて孵化させることにした。

竜卵が一瞬でも外に出るとその経過時間で孵化時間が正確でなくなる。

それを避けるために、直接時間経過庫へ入れることが出来るようになったのだ。

これも魔王の力の1つだ。


「時間経過庫、2880倍!

自動タイマー、孵化1秒前停止!」


 俺が魔王の力を得たことで、時間経過庫にタイマー機能が設定できるようになった。

これでたまご召喚の孵化待ち時間を短縮できるようになった。

どのような強力な魔物でも、短時間で孵化させられるようになったのだ。

つまり、傍から見ると魔物を直接召喚しているかのように見えることだろう。


 時間経過庫の設定により、3分で竜卵が孵る寸前になった。

その卵を時間経過庫から取り出す。


「孵化せよ。翼竜!」


 時間経過庫から出した卵が1秒後に孵化し、翼竜が孵った。

全部で5匹。俺はその翼竜全てを眷属に加えた。


「おお、壮観であるな!」


「翼竜、航空攻撃だ。

あの要塞都市の兵器群を破壊しろ!」


「「「「「クワー!!!」」」」」


 翼竜が了解の声を上げ、要塞都市へと飛び立つ。

5匹の翼竜は時間短縮のおかげで、特殊個体となっているようだ。


 空からの攻撃など想定していない要塞都市に5匹の翼竜が群がり、上空から魔法弾を吐きまくる。

翼竜は火炎弾だけではなく、風刃弾や氷弾など違う属性の弾も吐いていた。

それが特殊個体の性質なのだろう。

バリスタが空に打ち上げられるが、高速飛行する翼竜には当たるわけがない。

翼竜の攻撃により、次から次へと兵器群が破壊されていく。


「(よし、ここでこっそり魔法を使っておくか。 メテオストライク極小! 3発)」


 俺は翼竜の攻撃に合わせてちっちゃなちっちゃな砂粒大のメテオストライクを城壁に撃ち込んだ。


「おお、城壁が崩れるぞ!」


 威力充分。いや、以前より増している気がする。

高加速された砂粒は、とんでもない破壊エネルギーを城壁にもたらした。

これってレールガンみたいなものかもしれないな。

腐ーちゃんがチラリと俺を見ていたが、他は俺の行動には誰も気付いていないようだ。


 そして、翼竜により兵器群が破壊し尽くされた。


「皇国軍突撃せよ!

既に要塞の機能は失われた。

これで負けたら、皇国武士の恥ぞ!」


 どうやら対人戦は鷹久殿に任せておけば良いようだ。

戦闘民族と呼ばれた皇国武士島津の強さがいま発揮されようとしていた。

だが、なるべく無関係の民や命令に従っているだけの兵は助けたい。


「ああ、降伏勧告させてください!」


 だが、この期に及んでもバーリスモンド侯爵が降伏することは無かった。

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