第397話 バーリスモンド侯爵
お知らせ
第395話においてのセシリア王女が洗脳状態にないという描写が、過去の洗脳の上書き状態という描写と矛盾していました。
作者的には洗脳はアレックスの洗脳を消すためと、尋問に正直に答えさせるためで、監禁前に解除していたつもりでいました。
しかし、そんな話は一言も書かれていませんでした。
申し訳ありません。
第358話冒頭で洗脳解除済みという描写を加筆させていただきました。
そういうことで宜しくお願いします。
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Side:バーリスモンド侯爵
メルヴィン=バーリスモンド侯爵の元に、馴染みのあるオールドリッチ伯爵の領兵が親書を携えてやって来ていた。
その親書はオールドリッチ伯爵のものと、正統アーケランド王国のものとがあった。
彼は正統アーケランド王国の使者だったのだ。
「正統アーケランド王国だと?」
「はい。今の
親書にもあったが、王家は洗脳され魔王アレックスに国をいいようにされているとか。
たしかに王家からの指示には辻褄が合わないものがあった。
侯爵家を処分し降爵させたり、無かったことにして戻してみたり、戸惑ったのは事実だ。
だが、侯爵家は勇者アレックスと共に皇国と戦った経緯がある。
そして第一王女エレノアが勇者アレックスに嫁いだ。
勇者アレックスこそが、アーケランド王国の次第の王だという認識がバーリスモンド侯爵にはあった。
そのためバーリスモンド侯爵はセシリア王女の証言の方を疑った。
「そのセシリア王女と婚姻したとされるヒロキ・ミウラカシマとは、あの例の他国貴族のことではないか!
セシリア王女が洗脳され、言う事をきかされているだけではないのか?」
バーリスモンド侯爵にとって、例の他国貴族は父親が暴走したとはいえ仇だ。
戦力が整わないうちに皇国と揉めるのはマズいと恥を忍んで退いたあげく、その例の他国貴族が皇国と共に正統アーケランド王国を名乗って攻めて来るなど、受け入れ難い行為だった。
「そこは我が主が【鑑定】スキル持ちを使い確認いたしました。
セシリア王女は真実を語っています」
「【真偽鑑定】も行ったのだな?」
「はい。このような場では当然のことかと」
実はバーリスモンド侯爵もこの場に【真偽鑑定】のスキル持ちを連れて来ている。
【真偽鑑定】のスキルは相手の言葉に嘘偽りが在るか無いかだけを鑑定することが出来る。
交渉事で相手が嘘をついていないことを確認するため、このような場には同行させることが多々あるのだ。
だが、それも洗脳を受けていると無効なのだ。
洗脳を受けていると嘘を真実だと思い込んでいる。
そういった場合は、【真偽鑑定】のスキルは嘘をついていないとの結果を出す。
そこで【鑑定】によりステータスを確認し、洗脳の状態異常が無ければ、より情報に信用が増すのだ。
「魔王か……。
たしかに、同期の召喚勇者を駒として消費する姿はそれを想起させよう。
だが、それも
魔王だなどという話が思い込みではないのか?」
「魔王であることは、アレックス本人の口からセシリア王女が聞いたそうです。
しかも、彼は100年前の古の魔王が転生したものなのだそうです」
「100年前の魔王!
たしかその魔王も名はアレックスだったな……」
バーリスモンド侯爵は、闇落ちして魔王となった勇者の名を思い出した。
そんな不吉な名をなぜ新たな勇者に付けたのだ?
そう思うとセシリア王女の言が信用に足るように感じた。
「魔王アレックスは新たな勇者召喚を行なったフシがあります。
その勇者が育たないうちに魔王アレックスを叩く必要があるのです」
使者がバーリスモンド侯爵説得のためにした話だったが、これが決定的な結果を齎す。
「なに? 新たな勇者召喚だと?」
「はい。おそらくまた30人召喚したと思われます」
「そうか」
その決断は、ヒロキたちの望んだものではなかった。
バーリスモンド侯爵は、侯爵家の処分を取り消したアレックスにかけることにしたのだ。
伯爵への降爵は領地の縮小を意味する。
アレックスの命令が覆れば元の処分に逆戻りだ。
バーリスモンド侯爵は、それだけは許せなかった。
たとえ育成前でも、勇者30人という数は、悪魔の囁きとしてバーリスモンド侯爵の心に刺さった。
正統アーケランド王国に加担しても勝てるとは限らない。
アーケランドには、
彼らの力に新たな勇者30人の力が加わるのであればアレックス側が優位であるはずだ。
だからこそ、正統アーケランド王国側は早期決着を求めて侯爵家に協力を仰いだのだ。
このまま時間を稼げば勇者が育ち、数でも力でもアレックスが勝つ。
自業自得だとはいえ父親の仇も討てるだろう。
アレックスが魔王だというのも冗談による自称だろうと高を括っていた。
「ならば、我が侯爵家はアレックス王に付くとしよう。
勇者あるところ正義あり。
我が侯爵家が耐えれば、直ぐに勇者が巻き返してくれようぞ」
こうしてバーリスモンド侯爵は、正統アーケランド王国と皇国に敵対する道を選んだ。
そこには、親の仇討ちと領地の安堵という思いがあったのだった。
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