第377話 新国境砦建設2
赤Tの幕舎まで案内してくれた騎士が、そのまま案内役となり、俺は工事現場に連れて来てもらった。
そこには実質現場監督をしているダイアーという工兵隊長がいた。
「こちらの勇者様が、工事を支援してくださる。
これは我が王からの命令である」
リュウヤの権威のおかげか、王様からの命令書が後から来るという不確かな話であるにも関わらず、どうやら信じて貰えているようだ。
尤も、新国境砦建設を助けるわけで、敵対する工作員であるわけがないというのもあるのか。
「1人でか? 勇者だからって何ができるって……」
そう訝しんだダイアーだったが、俺の後ろにいる土ゴーレムたちを見て、態度が変わった。
「あんた、ゴーレムマスターか。
当然その土ゴーレムは土魔法が使えるということだよな?」
「ああ、この土ゴーレムで石垣を造成できる。
どうのような設計なのか、教えて欲しい」
俺がたまご召喚士なのは秘密だ。
ここではゴーレムを使役するだけならば、見た目ゴーレムマスターなのだからそれで良いだろう。
「すまない。
俺は学が無いからこんな口のきき方しか出来ない、許してくれ」
「構わないよ」
「助かる。
この新国境砦は、この先の街との分断と南街道からの通行を制限するために建てられる。
そのため、南側を正面とした砦と、東側の川沿いに城壁を構築する予定だ」
ダイアーが言うのはL字状の構造物になるようだ。
そこを迂回するには魔の森に深く侵入する必要があり、魔物が自然と守ってくれるという作りだった。
これは
「南側には門を配置するのか?」
門を作るということは、そこからの出入りを想定するということだった。
完全に守ろうと思えば門が無い方が良いのだが、後々の交易――
「そう聞いている。
戦後のことも見据えているからな」
つまり、
エール王とも話したが、東の跳ね橋の許可が出たのも、そう言った思惑によるものだろう。
「実は設計変更が出ているんだ。
東門には跳ね橋を設置する。
平時は橋を架け、いざという時には橋を上げて守るかたちだ」
「それは良いな。
それもゴーレムが作ってくれるのか?」
「跳ね橋のカラクリ部分は俺が作るつもりだ。
橋の本体の製造は頼めるか?」
橋は木製になるので、そこは【木工】スキルを持っていればどうとでもなる。
工兵隊ならばお手の物だろう。
跳ね橋を上下させる仕組みは、温泉拠点の門の開閉機構が流用できる。
そこは俺が作れば早い。
「木工は任せてくれ。
【ゴーレムマスター】に加えて【錬金術】が使えるのか。
さすが勇者様だな」
ああ、使える特殊スキルを複数持っているのは珍しいんだっけ。
俺たち召喚者は1レベル上がる毎に1スキル手に入れることが出来るが、この世界の人たちは個人差があるが5レベルに1つぐらいが一般的らしい。
それも【身体強化】とか【生活魔法】の入手が先であり、【ゴーレムマスター】や【錬金術】といった強力なスキルは一生に一度手に入るようなものなのだ。
ただ、スキル保有数の上限は召喚者でも一般人でも10個までなので、そこは召喚者でも一般人と変わらない。
ただし、【スキル限界突破】というスキルを手に入れればスキル保有数を10以上に増やすことが出来る。
尤も、一般人ではその上限10個までスキルを手に入れることすら稀だった。
「まあ、そんなところだ」
勇者だからスキルを10個持っているかもしれないとは思っていても、上位スキルばかりだとは思っていないだろう。
実際は【スキル限界突破】Lv.3なので、2つどころか40個まで手に入れることが出来るからなんだけどね。
レベルが上がってスキルを得て、所有上限を迎えていなければ、無駄とも思えるスキルも残しておくことが出来る。
特に戦闘スキルが優遇される勇者では、生産系の錬金術など真っ先に削除対象にされかねない。
そんなスキルが育つことで、案外有意義に使うことが出来るのだ。
いや、俺の場合、錬金術なんて喜んで残している方なんだけどな。
「建設予定地は整地してロープが張ってある。
これから基礎を作るつもりだったが、ゴーレムに任せられるか」
「石垣で良いな?」
「ああ」
「ゴラムたち、ロープに添って石垣建設だ」
俺が命じるとゴラムたちが地面から石垣を建て始める。
その様子は地面から石垣が勝手に生えてくるようだ。
「は? ちょっと待ってくれ……」
「ああ、基礎ならば大丈夫だぞ。
地下から石垣を作ってある」
「いや、建設速度!」
どうやら、ダイアーはゴラムたちの建設速度に驚いていたようだ。
「板張りなんかの内装工事は工兵でやってくれ」
「あ、ああ」
これならば、1週間ぐらいで完成するかな。
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