第331話 不可解な突撃

Side:隣国エール王国


『ムシマモノガムカエニイク』

『ヨロシクタノム』


 腐ーちゃんの帰還にヘラさんヘラクレスオオカブトを送る。

まだ俺が隣国エール王国の王城までは行ったことがないため、遠隔召喚で送り込むことが出来ず、空路で向かうことになったのだ。

そのため、虫魔物の領空通過申請が初めて行われることとなった。

ところが、そこで少し問題が発生した。

王城へはキバシさん経由の即時通信で申請出来るのだが、それにより虫魔物が領空を通過するというお達しが国内に広まるまでには時間がかかるのだ。


『西の魔の森の最前線まで情報が伝わるまでには5日はかかりますな』


 そこから全部隊に通達が広まるまでにはプラス1日だろうか。


『尤も、高空を通過する虫魔物の迎撃など、勇者様しか出来ませんがね』


 なるほど。つまり、隣国エール王国の勇者ではせっちんしか迎撃出来ないということか。

いや赤Tに金属バットも出来るな。

金属バットの所属がどこになるかわからないけど、おそらく隣国エール王国にやっかいになることになるだろう。

彼は赤Tと共に未だ最前線にいて、そこらへんの手続きがなされていなかったが、うち温泉拠点は受け入れ不能だからな。


 話を戻すと、隣国エール王国の兵には虫魔物と飛竜が飛んでいても気にするなと1度通知すれば良いだけだった。

せっちん、赤T、金属バットも、虫魔物と飛竜が俺たちの移動手段だと認識してくれている。

既に何の問題も無かった。

確かに情報伝達の遅れで通達が広がるには時間を要するが、伝わっていないくても大丈夫だったのだ。


 今回のヘラさんが腐ーちゃんを迎えに来るという話も、王城の兵が降下してくる虫魔物を安全だと認識してさえいれば良いだけだった。

つまり、キバシさんで申告するだけで問題ないとなったのだ。

完全に取り越し苦労だった。


 これによりヘラさんと腐ーちゃんの空の旅は安全が確保された。


 ☆


 ヘラさんが腐ーちゃんを迎えに行くまでに2日程度かかる。

その間に王国アーケランド軍が動いたという報告が隣国エール王国上層部へと上がって来ていた。


『アーケランド軍が、国境砦に突撃して来ました。

炎の勇者と赤の勇者が我が軍と共に迎撃し、敵1300を撃滅したとのことです。

アーケランドの勇者は現れず。勇者は現れずです』


我が方エール王国に勇者がいるというのに、アーケランドは勇者も出さずに無策で突撃?

敵の指揮官は無能か?』


 そこから王国アーケランド軍の異常な突撃が繰り返されることとなった。

知の勇者と言われるサンボーの所業とは思えない杜撰さだった。


 ☆


Side:温泉拠点 道の砦


 その異常な突撃は道の砦に対しても行なわれていた。


『味方はお逃げなさーい♡』


ドーーーーーーン!


 オトコスキーの魔法1発で数百人の王国アーケランド兵が消し飛ぶ。

だが、その後から、散発的に次々と王国アーケランド兵が突撃して来る。

どうやら、先に突撃した兵がどうなったのか理解出来ないまま、順繰りで突撃させられているようだ。

無能な指揮官による無策な突撃であっという間に3千の兵が消えた。


 いや、まるで兵を消費するための突撃だったような感じだ。

先に突撃した兵がどうなったのか見たならば、次の兵たちは突撃なんて出来るものではない。

つまり、前の兵がどうなったのか理解出来ない距離を置かれていたということだ。

しかも兵を小出しにしての各個撃破を招いている。

その意図は兵の浪費。

わざわざ王国アーケランド兵を殺しにかかっているのだ。


「サンボーの仕業か!」


 兵を殺したのはオトコスキーだが、それを命じた俺も気分が悪い。

王国アーケランド人でも良い人たちがいることは俺も理解している。

オールドリッチ伯爵なんかは良識人であり、友好関係でもあった。

オトコスキーが消し飛ばした兵にも家族がいるだろう。

こんな惨たらしく消費するような死に方をさせて良い人たちではない。

まるで人の命を数字でしか把握していないかのような所業。


「どうやらサンボーの奴と俺は相容れないようだな」


 甘いと思われるかもしれない。

嫁や仲間たちの命に関わるから戦っているが、避けられる戦いならば避けたい。

この殲滅は必要な戦いだったのだろうか?

共存共栄は無理なのか?

力を見せつければ、戦う意欲を失って、戦わなくてよくなるのではないのか?

それらを全て無視して殺されるために兵を突撃させている。


「バーリスモンド侯爵の時のように、元凶を駆逐しないとダメなのか……」


 この突撃を命じているサンボー、そして大量の兵を投入してくる王国アーケランド上層部、被害を減らすにはそれらの斬首作戦をするしかないのかもしれない。


 ☆


Side:国境砦 サンボー


 順調に王国アーケランド兵を消費している。

あと何回援軍を要求できるだろうか?

王国アーケランドにはまだ10万近い兵が残っているはずだ。

国境守備の軍や対皇国を想定しての軍までは動かせないだろう。

それ以外の予備戦力はいかほどだろうか?


「援軍要請を。

隣国エール王国が強すぎる。

国には兵を小出しにするなと伝えろ」


「残念。もう終わりだってさ」


 俺の胸から刃が突き出していた。

その柄を背後のゆきりんが握っていた。


「ゆ、ユーリア卿ゆきりん!」


王国アーケランドもバカじゃないから。

この兵の数で攻略できなければ、もういらないってよ♪

それにあんたはダーリンの仇の1人なんだからね?」


 ゆきりんはロンゲの彼女だったな。

ロンゲが再起不能になったことを恨まれていたか……。

そこを王国アーケランドに付け込まれて刺客となっていたのか。

迂闊だった。王国アーケランドにとっては俺も捨て駒の一つに過ぎなかったか。

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