第329話 虚偽報告

Side:国境砦 サンボー


 いや、まずは王国アーケランドに援軍を要請し様子を見るべきか。

そこで責任問題となって召還命令が出てからでも裏切るのは遅くない。

しくじったのは俺ではなく、やつら4人なのだ。

王国アーケランドも偽貴族が魔王軍の幹部だと言いながら、その力を甘く見ていたのだ。

偽貴族の戦力は、たかが戦闘奴隷200に加え、オーガ200を殲滅できる程度のものだということだった。

侯爵軍1千が殲滅されたというのも、ほとんど魔の森の魔物によるものという話だった。

いや、魔の森の魔物こそが魔王軍の戦力そのものではないか。

竜人さえどうにかすれば良いなどと、俺としたことがなぜ信じ切っていたのだ?


「つっ!」


 また、頭痛がする。

まさか俺は、王国アーケランドに何か思考誘導的なことをされたのか?

記憶に曖昧なところがある。

これは気付かないうちに洗脳されたと判断しても良いかもしれない。

いや、洗脳されたからこそ、その事実を忘れているのか。


「やってくれたなアーケランド!」


 ならば魔王軍を利用して、王国アーケランドの戦力を削ってやろう。

第14派遣軍と第15派遣軍の生き残りは、隣国エール王国戦の最前線に投入して潰してしまうか。

そうすれば、魔王軍にやられたなどとの報告も上がらない。

王国アーケランド軍は、隣国エール王国にやられたなどと言われたならばプライドが許さないはずだ。

弱兵と侮り、可能な限り領地を切り取った相手隣国だ。

負けないために無駄に戦力を投入してくれるだろう。

その軍を魔王軍にぶつけて削ってやる。

そして、王国アーケランド中枢の戦力が減ったならば、王城に乗り込んで召喚の間と召喚の秘密を奪ってやるのだ。


「ああ、金属バットを失ったのは大きいな……」


 俺には攻撃力が足りなすぎる。

パツキンと女たちを呼び寄せて手駒に出来ないだろうか?

よし、虚偽報告を入れて援軍を要請しよう。

上手く行けば追加で勇者が派遣されてくることだろう。

ならば勇者は2人しか失っていないと過少申告しておこうか。


 ◇


Side:アーケランド王国王城国王執務室


「援軍要請だと?」


「はい、スティーブン卿の報告によりますと、隣国エール王国が思った以上に強く、第14、第15派遣軍が壊滅したとのことです。

隣国エール王国の勇者は赤の勇者1人にあらずという報告です。

さらにパーシヴァル卿が戦死。クロエ卿も行方不明とのことです」


 国王執務室でトランプ髭ことこの国の王に宰相が対隣国エール王国戦争の戦況報告をしていた。

それはサンボーによる虚偽の報告だった。


「そんなバカな。

相手は赤の勇者を得ただけではなかったのか?

5人も勇者が居て負けたとは……そういうことか」


隣国エール王国が魔王軍と手を組んだという話だったのでは?」


「あんなもの、隣国エール王国を攻める口実の一つだ。

竜人が目撃されたなどという眉唾話を誰が信じるのだ」


 トランプ髭の王は、竜人がいたというローランド卿ロンゲの証言を信用していなかった。

なぜならば魔王軍のことは……。これは今は情報公開できない。


「しかし、実際にローランド卿をあそこまで痛めつけた者が存在しているわけでして」


「ローランド卿は、魔の森に勝手に入り戦闘になったのであろう?

例の偽貴族と勝手にやりあったということだろう。

しかも、それがあった後でも偽貴族は中立を宣言したそうではないか。

手を出さなければ戦わないというのであれば、そんな者は放っておけばよい」


 この時、王は話に夢中になり、勇者2人を倒した存在のことは失念してしまっていた。

勇者2人――実際は4人――を倒す、あるいは懐柔した存在がいることは、この会話からは抜け落ちてしまっていた。


「しかし、使者が道の使用権をめぐって偽貴族に喧嘩を売って来たという話ですが?」


「その道を通らなければ良い。

わざわざ不可侵領域を設定してくれたのであれば、そこにさえ侵入しなければ良いのだ。

敵を増やすことはない。まずは隣国エール王国を叩き、戦後引き上げる兵でついでに偽貴族を滅ぼせば良い」


 トランプ髭の王は、偽貴族が魔王軍ではない・・・・・・・ことを確信していたため、そのように指示を出した。


「それでは、スティーブン卿には援軍を送るということでよろしいですか?」


「まったく、知の勇者というわりには知恵の回らん奴だ。

5千の兵を送ってやれ。

3千は残っているのならば合わせて8千になるだろう」


「承知いたしました。そのように手配いたします」


 宰相が執務室を出ようと立ち上がる。


「待て、勇者が2人減ったのならば、もう2人つけてやれ。

隣国エール王国の戦力を見誤り、兵を小出しにしたところは我らの落ち度なのだからな。

それでも負けるような無能ならばスティーブン卿は処分だ」


「承知いたしました」


 こうしてスティーブン卿サンボーの元へは5千の兵と勇者2人が援軍として送られることとなった。


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お知らせ

 すみません。遅くなりましたが、これが1月30日の分です。

1月31日分は本日中にもう1本上げる予定です。

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