第327話 アーケランド軍殲滅2

 最後に残ったのは★付きの悪魔の卵だ。

「かなり危ないかもしれない」の注釈がついていたやつだ。

卵の外観もショッキングピンクの地に蛍光緑の★が散りばめられたトゲ卵というえぐいものだ。

危ない・・・の方向性に嫌なものを感じる。


ピシッパキパキ


 そのトゲ卵に罅が入る。


「いよいよか」


 トゲ卵が割れて白い煙が噴き出した。


「オホホホホホホホホ。ついに蘇ったわよ!」


 その煙が晴れたところに笑い声と共に人影が立っていた。

それは黒いマントに身体を覆われた身長2mを越える大男だった。

身体の厚みと横幅が成人男性の3倍以上ある。

この大男が50cmの卵から出て来る不思議は省略する。


「蘇ったって何だよ!」


 まさか古の大悪魔とかいう方向の危ない・・・だったのか?

いや、そのマントの下に隠しきれていない筋肉、そして口調。

ゲイマッチョ系の危ない・・・なのか?

まずい、このまま放置して暴れられたら危険だ。

思わず俺はお尻に手を当ててしまう。

いや、速やかに眷属化して支配しないと何をするかわからない。


「採用したくないと魂が訴えるけど採用!」


 俺はこのまま大男を開放した場合の恐怖を想像し、眷属として縛る以外の対抗策を見いだせなかった。


「あらん、いい男ね♡。

あなたがご主人様かしら?」


 眷属化してなんらかのラインが繋がったことを感じると、マッチョも俺を主人マスターと認識したようだ。

マッチョの舐めるような視線に背筋にゾゾゾという怖気が走る。

やばい、こいつ本物だ。

悪魔としての実力もゲイとしての実力もだ。


「ああ、俺がおまえの主人だ。

よろしく頼む」


 だが、貴重な人語を話せる眷属だ。

さすがに国との外交の使節には不適格だが、降伏や撤退勧告には使える。


「わたくし、旧魔王軍幹部、ミハエル・オトコスキーと申しますわ。

魔王様とは気付かず、ご無礼申し訳ございません」


 そう言うと、大男はマントを翻して俺の前に跪いた。


「旧魔王軍幹部だったのかよ!」


 蘇ったというのはそういうことか。

しかも魔王軍幹部を配下に加えたら、まるで俺が本物の魔王ではないか!

それにオトコスキーって名前!

根っからの男好きかよ。

しかもそのマントの下、ブーメランパンツ一丁じゃないか!


 こいつ危なすぎる。

旧魔王軍の幹部、おねぇゲイマッチョ、露出狂、三重に危険とは、たまご召喚め、やってくれたな。

かなり危ないじゃない。滅茶苦茶危ないだろ!


「これも何かのご縁でしょう。

誠心誠意、身も心も尽くてさしあげますわ♡」


 身は勘弁してください。

尻の穴がゾワゾワしたぞ。

これは早く遠ざけた方が良いな。


「早速だが頼みがある」


「喜んで♡」


「我が領地が敵の攻撃を受けている」


「早速殲滅に向かわせていただきますわ」


 オトコスキーは素早く立ち上がると、キラトの方を向く。

どうやら念話で情報収集をしたようだ。

キラトも思わず尻を両手で隠している。


「待て。殲滅ではなく、降伏、いや撤退勧告をして来てくれ」


「まあ、お優しいこと。

わたくしが行けば一捻りですのよ?」


「今いる軍を殲滅しても、また次が来るだけだ。

それならば、充分に恐怖を植え付けて、二度と攻撃して来ないようにしたい」


「お任せくださいますわ。

それこそわたくしの得意とするところですわよ♡」


 良かった。説得が得意とは助かる。


「それでは、行ってまいりますわ」


「待て、現地までは送ろう」


「あら、うれしい♡

魔王様の御心のままに」


 俺は厄介払いも兼ねて、オトコスキーを遠隔召喚で砦前まで送ることにした。


「遠隔召喚、オトコスキー、砦前!」


 オトコスキーの姿が消え、ゴブリン隊が守る砦の前に召喚陣が展開され、そこに現れた。


「あらまあ、便利なこと」


「うわー何だお前は!」


 裸にブーメランパンツ一丁、その上に黒マントのみという出で立ちのマッチョが目の前に現れ、王国アーケランド軍の兵が怯えて一斉に尻を隠す。

オトコスキーが纏うオーラに恐怖したということもあるが、あっち方面の危険を感じて恐れをなしたということの方が大きかったかもしれない。


「魔王様の命によりわたくしが来ましたわ。

撤退するか降伏なさい。

今なら優しくしてあげるわよん♡」


 ああ、何言ってんだよ。

これじゃ俺たちが魔王軍だって話になってしまうだろうが!

まずい。早くなんとかしないと。

俺は観察要員として派遣していたホーホーを通じて、その様子を見ていた。

そこで耳にしたオトコスキーの失言に、慌てて念話を飛ばした。


『オトコスキー、俺が魔王だというのは秘密だ!』


 俺はオトコスキーに口止めするのを忘れていたため焦ってそう命令した。


「あらあら、わたくしとしたことが。

秘密だとは存じませんでしたわ」


 そう言うとオトコスキーは、今の話が聞こえていただろう範囲を魔法攻撃で焦土に代えた。

それは混戦状態だった味方のゴブリンまで巻き込む残忍な所業だった。

一瞬の出来事だった。とんでもない戦闘力だ。


「改めて。

あなたたち、撤退するか降伏なさいな」


 オトコスキーがそう大声で伝えるよりも先に、王国アーケランド軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ出していた。

オトコスキーの魔法攻撃の威力に恐怖したからだ。

その攻撃は1発で王国アーケランド軍の数百の兵を焼き殺していたからだ。

このマッチョ、攻撃力もかなり危なかった。

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