第318話 急行

 飛竜に乗って飛び立った俺は温泉拠点への帰路を急いだ。

そうだ、転移攻撃があるかもしれないと、コンコンとの念話を通して結衣たちに伝えた方が良いか。

結衣から攻撃されたと連絡があってから、どれぐらい時間が経った?

いや、あれは俺から様子を伺って結衣に訊ねたのか。

つまり、あそこを起点に考えたらまずいってことか。


「結衣、敵の転移攻撃に気をつけろ」


 既に転移のクールタイムが終わっている可能性がある。

何かあれば連絡するように言ってあったが、連絡する暇もないことも、心配をかけさせまいと、連絡しないこともありそうだ。

結衣の事だ、後者の可能性が高い。


「返事がない。まさかもう転移攻撃を受けている?」


 すかさずコンコンと視覚共有する。

するとアワアワと狼狽える様子の定まらない視界が飛び込んで来た。


『狼狽えるな! 周囲の様子を見せろ!』


『ご主人様? 大変なのー』


 コンコンの視界にはパシリと切り結ぶキラトと、色白の女騎士と対峙する結衣、パン屋さんに引き摺られ宙を舞う敵兵士が見てとれた。


「転移で内部に侵入された真っ最中か!」


 俺は自らの行動を後悔した。

転移が使用されたことに気付かなかったせいで、対応が遅れてしまった。

あそこで悠長に金属バットたちと話している余裕などなかったのだ。

いや、結衣が心配かけさせまいと連絡を遠慮してしまったことに、気付かなかった俺が悪い。

結衣の性格を考えれば、そうなって当然だったのだ。


 どうする。ここで命に関わる博打をする訳にも行かないぞ。

俺にもしものことがあったら、敵と戦っている眷属が解放されてしまう。

そうなったら、王国アーケランド軍に加えて、強力な魔物までが、結衣たちに牙を剥くことになる。

皆、助からないだろう。


 生き物を乗せた眷属を、遠隔召喚を利用して温泉拠点に送る。

これにより簡易的に転移を実現する。

俺が博打と称した温泉拠点に急行する手段はこれだ。

同行させた生き物が無事かどうか、いや、どうなってしまうかなど、一切判っていない。


 安全策として、実験が出来れば良いのだが……。

その時飛竜に乗って飛ぶ俺の目に眼下をうろつくゴブリンが目に入った。

そうだ、これしかない。


「翼竜、ゴブリンを捕まえろ。

生きたままだ」


 俺の命令に飛竜に随伴していた翼竜が、その後ろ足のカギ爪でゴブリンを捉えた。

よし、これで遠隔召喚をしたら、ゴブリンがどうなるかを実験してみよう。


「遠隔召喚、翼竜。温泉拠点へ」


 俺は翼竜を温泉拠点へと遠隔召喚した。

すると目の前に居た翼竜が召喚により魔法陣に包まれかき消えた。

すかさず翼竜と視覚共有すると、温泉拠点への遠隔召喚が成功していることを把握した。

そして足元のゴブリンの様子を見る。


『グギャ、グギギ!』


 ゴブリンは生きていた。

そして翼竜のカギ爪から逃れようと必死に暴れていた。

ゴブリンが完全に無事なのかどうかは判らないが、生きているということが結果として得られた。


「これは賭けになるが、結衣たちが危ないんだ。

ゴブリンは生きていた。生きているのなら麗の祈りでどうとでもなる」


 俺は自分自身をベットした賭けに出ることにした。


「眷属纏、飛竜! 遠隔召喚、飛竜。温泉拠点へ」


 これで飛竜を纏った俺が温泉拠点へと遠隔召喚されれば、簡易的な転移が成立するはずだ。

その賭けは成功し、俺は一瞬のうちに温泉拠点に到着していた。


 身体に異常は? ない。

精神も? 大丈夫だ。


 やったぞ。ついに俺は遠隔召喚の応用で転移を手に入れた。

リスクなしならば、これは使える。


大樹ヒロキくん?」


 結衣が飛竜を纏った俺に気付き声をかけて来た。

カブトンを纏った俺を知っているし、俺がロンゲたちに竜人と間違えられたエピソードも知っていたからこそ、この竜人形態を俺だと受け入れられたのだろう。


「そうだ。状況は?」


「丁度良かった。

ガングロちゃんの洗脳を解いてあげて!」


 ガングロと呼ばれた女騎士は白かった。

彼女は同級生女子と戦っていたことに戸惑うほど洗脳が浅いようだ。

この状況下で一切攻撃を仕掛けて来ていなかった。


「任せろ!」


 俺はガングロに触れると闇魔法の洗脳を使い、王国アーケランドに施された洗脳を上書きすることにした。

王国アーケランドへの服従を消し、見た目と同じ清楚な感じで良いかな?

そういや、さちぽよは洗脳を解いたせいで、面倒臭くなったなぁ。

話が通じずに困ったっけ。

俺はさちぽよでしくじった経験があったため、余計なことを考えてしまった。


「ああ、なんて清々しい気分なんでしょう!

わたくし王国アーケランドから解放されましたわ!」


 何のキャラだ?

多分にアニメのキャラが入ってしまった気がする。

もうちょっとアイドル的な清楚キャラが脳裏に浮かべば良かったのに……。

後悔しても遅かった。

再洗脳は暗黒面的に危険だ。


「結衣、抱きしめてくれ」


「こう?」


 ああ、癒される。

と、戦闘中にこんなことをしている場合ではなかった。

まだ兵士たちとパシリが残っているのだ。


 麗の祈りでも洗脳は解けるだが、麗は恐怖で震えていた。

それはキラトと切り結んでいるパシリの存在のせいだった。

パシリにレイプされそうになったPTSDの症状が出たのだ。


 兵士たちはパン屋さんやチョコたちがなんとかしてくれそうだ。

問題はパシリか。さて、どうしてくれようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る