第317話 アーケランド軍侵攻3

Side:温泉拠点 結衣


 足止めをくらったストーカーパシリは、何かを待つように攻撃を止めた。

だが、こちらからの攻撃に対しては、その脚を使って避け続けるという嫌がらせは忘れなかった。


「攻撃しても無駄だね。

このまま時間稼ぎをして東からの本隊が到着するのを待つ気なのかしら?」


 それはそれで好都合かも。

時間は何もアーケランド軍だけの味方ではないからね。

こちらも大樹ヒロキくんが帰って来る時間が稼げるもん。


「時間が経てば我がゴブリン隊も南の敵の後ろを突くことが可能になります」


 それならば正面に気を引き付けた方が良いかな。


「ヌイヌイたちにもう一度粘着糸攻撃をしかけさせて。

南の外壁の突破口をゴラムたちに修復させます。

妨害しに寄って来た敵を攻撃魔法で排除して」


「ほーい、連絡するね」


 眷属たちにはコンコンが連絡することが出来るけど、戦闘奴隷にはメイドさんが伝令に走らなければならない。

もう1人話せる眷属が前線に欲しいところね。


「そういえば、不二子ちゃんは?」


「走鳥で移動中のため、東の敵との接触と同時ぐらいに帰還するかと」


 しくじったかな?

不二子ちゃんをここまで遊軍としてしまったのはまずかったかもしれない。

魔法特化の不二子ちゃんと高速移動物理攻撃のストーカーパシリでは、相性が悪すぎる。


「不二子ちゃんには、敵の勇者パシリとは戦わずに拠点に戻るように伝えて。

中から広範囲魔法で攻撃してもらいます」


「ほーい。了解だって」


 随分短かったけど、ちゃんと伝わってるのよね?

コンコンのことだからちょっと怪しいけど、大丈夫と信じるしかないか。



「そろそろ東の不可侵領域にアーケランド軍の走鳥走竜隊が到達します。

走竜の獣車も遅れて随伴、700人規模の軍のようです」


 前回の侯爵軍は、そこまで到達するのにGKの配下に数を減らされていた。

しかし、今回は走鳥や走竜での高速移動のためにほとんど減っていないみたい。

侯爵軍のように休憩に入ったところを奇襲というわけにもいかないから困る。


「キラト、迎撃を任せても大丈夫?」


「お任せください」


 キラトが自信満々に答える。

前回はゴブリンとラプトルが個別に攻撃したけど、今回はゴブリンの上位種による統制の取れた軍だからね。

攻撃魔法も回復魔法も使うし、陣地も構築しているから、簡単に突破は出来ないよね?


 アーケランド軍は、道が安全で移動速度も早められることを知っている。

わざわざ魔の森の深部を大軍で迂回するという危険は冒さないはず。

いや、私たちの戦力をたかが戦闘奴隷数百人程度と甘く見ているのかもしれない。


「敵軍、我が方の陣を確認し、降車し軍の展開を開始しました」


 軍を展開するには、整備された道から未整備の魔の森に入るしかない。

そのためアーケランド軍は、走鳥や走竜から降りなければならなかったのだろう。


「大丈夫そうね。

向こうの攻撃が始まったら、ストーカーパシリも動くかな?」


 ゴラムたちによって、破壊された外壁の修復が終わった。

これにより、二重の防壁がまた機能することになった。

ストーカーパシリもこの2枚の壁を突破するのは容易ではないはず。


「誰がストーカーだ!」


「え?」


 ストーカーパシリが、内壁の内部、屋敷の建つ敷地内に侵入していた。

いったいどうやって?


「結衣、敵の転移攻撃に気をつけろ」


 コンコンが大樹ヒロキくんからの警告を発した。

遅い。でも、これは転移攻撃なんだ。

だから敵部隊が突然南の不可侵領域内に現れたんだ。

ストーカーパシリの時間稼ぎは、再転移のクールタイムが終わるのを待っていたのかもしれない。

だから、外壁が修復されてもあの余裕だったのか。


「敵襲!」


 キラトがストーカーパシリと切り結ぶ。

どうやら、キラトの実力ならばストーカーパシリ程度ならば抑えられるようだ。


ドーーーーーン!


 拠点内部に入り込んだ敵部隊が破壊工作を始める。


「ラキちゃん!」


 ああ、しまった。

ラキちゃんを腐ーちゃんに貸していたのを忘れてラキちゃんを呼んでしまった。

私を守る眷属はキラトただ1人だった。


「討ち取ったり!」


 敵兵の剣が私に迫る。

キラトはストーカーパシリと対峙していて手が離せない。

やられる! そう思った時、思わぬ助っ人が現れた。


しゅるん


「ぎゃーーーーー!!!」


「パン屋ちゃん!」


 それは食人植物トレントの触手だった。

屋敷の玄関前に設置された指揮所の脇には、そこに根付いてしまった食人植物トレントがいた。

パンを出したことから、パン屋ちゃんと命名された食人植物トレントが、敵兵を触手で掴んでは口に放り込んでいた。


「あー、これで暫くパンが食べられなくなった……」


 だけど命が助かったんだ。贅沢なんて言ってられない。


「大丈夫?」


 瞳美ちゃんと麗ちゃんも眷属を使って迎撃を開始した。

シルバーウルフのチョコと、アースタイガーのチクチクだ。


「何でこんなに魔物が?」

「やはり魔王軍の拠点?」


 アーケランド軍の兵士の間に変な噂が立っていた。

私たちは魔王軍なんかじゃない。やめてほしい。


「マドンナ、僕の嫁ぇ。

ぐへへ、今行くよーーー!」


「気持ち悪い!」


 ストーカーパシリが麗ちゃんに気付いて気持ち悪い台詞を吐いていた。

その気持ち悪さに皆が凍り付いていた一瞬の隙を突いて接近する影があった。


「あんたたち、魔王軍に魂売ったの?」


 そこには見たこともない女性が立っていた。

でも口調的には知り合いのようだ。

思わず全員で「誰なの?」という目で見てしまった。


「あ、ガングロ!

白くてわからなかった!」


 瞳美ちゃんが、その女性がガングロだと気付いた。

日サロが使えないガングロは白くなっていた。

化粧品もあまり良いものが無いので、見る影もなくなっていたみたい。


「そのあだ名で呼ばないで!

今はクロエって名乗ってるの!」


「え? シロエ?」


 思わず裁縫ちゃんが突っ込む。


「そのクロじゃない!」


 まあ、そこは問題じゃない。

なんでガングロがここに?


「まあ、それは置いといて、あんた何やってるのよ?」


「私も王国アーケランド軍の一員で攻めてるのよ!

まさかあなた達だなんて思ってなかったからさ」


 どうやらガングロは洗脳が弱い方のようだ。

どうにか説得して味方にできないだろうか?

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