第307話 翼竜で釣る
さちぽよの攻撃を受けていた俺は、
それは飛竜に乗るために装備した軽鎧のおかげだった。
軽鎧には革製の前垂れが付いており、それが行為の邪魔になったのだ。
飛竜の上で軽鎧を外すわけにはいかず、総攻撃を回避することが出来たのだ。
さちぽよの右手攻撃を防ぐことは出来なかったが、このまま最後までという危機は脱することが出来た。
「裁縫ちゃんに言ってー、もっと
そう捨て台詞を残してさちぽよの攻撃は止まった。
何の実用性だと突っ込むのはやめた。
ある意味突っ込まないで済んで良かったよ。
◇
翼竜を囮にするために赤Tたちとは離れた場所を飛ばす。
金属バットの長距離攻撃を避けるため、翼竜には之の字回避運動をさせる。
これは之の字の各へんのように急に進路を変える回避方法で、その進路を変える時間を不規則にすることで狙いを定めさせないようにする効果がある。
翼竜の頭では自ら不規則に動くなど出来ないため、これは俺が指示をしていちいち変えさせている。
時計はカドハチから買った懐中時計があるので、それで時間を計るのだが、ランダムな時間をとるのは何気に大変だった。
スマホならばタイマーを使ってどうとでも出来るが、ただの懐中時計では俺の感覚で時計を見ることになるため、結構同じタイミングになりがちで、そこから少し時間を伸ばすなど単調になってしまっていた。
だが、この之の字回避運動というものを金属バットは理解出来ないようで、今のところ散発的な攻撃があるものの、翼竜が落とされるというようなことにはなっていなかった。
そしてその翼竜の重要な任務の1つが接近中のアーケランド王国軍の偵察だった。
翼竜と視覚共有をしても、遠方の対象は良く見えず、1人1人の顔などは判らなかったが、全体の動きなどはさすがに知ることが出来る。
彼らは魔の森の魔物と戦わなければ進軍できないため、その戦いの様子が見て取れるからだ。
圧倒的なパワーで森の木々が倒され、爆裂魔法で吹き飛び燃える。
そんな戦いの様子が魔の森の中を移動して来るのだ。
「たまに翼竜の高度を上げたのが効果あったみたいだな」
金属バットたちは翼竜の下に赤Tたちがいると判断したのか、見事に欺瞞工作に釣られていた。
回避運動が功を奏したと思っていたが、もしかすると移動先の目標にするために、翼竜はわざと泳がされたのかもしれない。
それはそれで思うつぼだったのだが。
「野球ボール大の岩をバットで打ち上げてくるのは金属バットで間違いない。
爆裂魔法を使っているのは爆裂の女勇者との二つ名を持つアマコーか」
どうやら最低でも2人の同級生が赤Tたちの下へ向かっているようだ。
だが、その進軍速度は魔の森の魔物に阻まれ、あまり芳しくないようだ。
これならば、赤Tたちは
「いや、それで安心とは限らないぞ」
既にアーケランド王国とエール王国は戦争状態にある。
越境攻撃など戦争ならば当たり前だろう。
両軍が戦闘に入る前に現場に急行して、金属バットたちをなんとかしなければならない。
話が通じるのならば、
洗脳が解ければ
さちぽよからの情報により、金属バットは恋人のさゆゆを奴隷として売られ、彼女は生死不明の行方不明になっているとのこと。
金属バットが
◇
現場までは飛竜の速度でもなかなかの距離があった。
未だ俺とさちぽよは戦場にたどり着けていない。
そんなおりアーケランド王国軍に、ついに動きがあった。
進軍速度が上がったのだ。
いや、それはもう進軍ではなかった。
どうやら金属バットとアマコーが兵を置き去りにして単独行動を取ったようなのだ。
翼竜の高度を上げて偵察したところ、兵たちは金属バットとアマコーが作った魔の森の道を確保することを優先しているようだ。
道の真ん中に陣を敷き、金属バットたちが打ち漏らした若干弱めの魔物に数で対抗するという作戦なのだろう。
その陣が、少しずつだが金属バットたちを追うように構築されていく。
「この頭を使った行動はサンボーの指示か。
サンボーも現場に居るってことなのか?」
いや、違う。サンボーが居ればもっと早くこのように動いていたはずだ。
なんらかの情報伝達手段があってその遅延で後手に回ったのだろう。
その証拠に翼竜を追っていた金属バットたちが進路を変えた。
つまり翼竜の位置が欺瞞だと気付いたのだ。
サンボーが同行しているならば、今の今まで騙されているわけがない。
つまり赤Tたちの下に向かっている勇者は2人だけだ。
「これは邪魔されずに説得する良い機会かもしれない」
出来るならば同級生とは戦いたくはない。
ロンゲのようにこちらを殺す気で来るならば命のやりとりをするしかない。
だが、金属バットとアマコーは洗脳が強めだそうだ。
自分たちの意思で戦っているのではないのならば、救いたいところだ。
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