第270話 遺体確認
Side:サンボー
「なんて深さだ」
土魔法のエキスパートである工兵隊に掘らせた穴の深さは10mに達していた。
工兵隊は陣地の構築や橋梁の設置など、その土魔法で行軍をサポートする
精鋭部隊だ。
これは過去の勇者の発案により土魔法の使い手を集めて結成されたものだった。
魔法の使い手を工兵にするなど人材の無駄遣いだという意見と、これにより軍の質が変わったと褒める意見に評価が二分している部隊だ。
この世界、魔法は攻撃手段としての使用が主流だった。
その貴重な魔術師を工兵などにするのは勿体ないと言われていたのだ。
ここには、その土魔法の使い手たちでも手に余る深い穴が掘られていた。
工兵たちは、足場となる場所を確保しつつ穴を掘り進むため、それこそ鉱山の露天掘りのような感じで穴を掘っていた。
穴の深さを一段下げる度に、穴の直系を一回り大きくする感じだ。
深くなればなるほど、その拡大する労力が大きくなっていく。
そして、穴の深さが10mに達した時、穴の底から黄金色の鎧の一部が露出した。
「
そこからの作業は年代物の遺跡発掘かのように慎重に土が退けられていく。
しかし、その土は多分に水分を含んだ泥であり、掘っても掘っても崩れて来てしまう。
工兵隊は、土魔法で土壁を固め、土留めを造ってから中心部の泥の掻き出し作業を行なった。
そこには黄金鎧が埋まっていた。
しかし、中身が見あたらなかった。
「どういうことだ?」
嫌な予感がする。
「土魔法で穴を掘り、水魔法でそこへと流され、最後に火魔法で焼かれたようです」
騎士が指摘したのは、鎧に残る焼け爛れた跡だった。
黄金騎士と言っても、その鎧全てが黄金で出来ているわけではない。
所謂金張りである。
それが高熱による膨張率の差で歪んでいるのだ。
とんでもない温度に晒された証拠だ。
「つまり、中身は炭化して泥の中ということか?」
まさか、あの掻き出した泥がそうなのか?
嫌な予感が的中したことに俺は顔を顰める。
いや、それでも鎧の中に何か残っていないのか?
「おい、鎧の中を検分しろ」
「はっ」
騎士がプレートメイルの胴部分を剥がす。
すると中からは……何も出て来なかった。
表面や露出部分が焼け落ちたとしても、それなりに大きな物だ、残る部分があっても不思議ではない。
特に大きめの骨の一部ぐらいは焼け残っているはずだ。
「何もないな?」
「もしかすると、脱いだ鎧だけなのかもしれません」
この状況から、そう考えるのが妥当だが、戦闘中に鎧を脱ぐとも思えない。
となると……。
「雷化で分離した鎧だけが埋まっていた?
それならば、
探せ!」
雷と化すのが雷化ならば、その電気自体が
水魔法で攻撃され、漏電したならば、その漏れた電気の方が
忍術で変わり身の術というものがあるが、まさにその状態で逃げた可能性があったのだ。
穴に落ちた黄金鎧を本人だと思わせて、中身だけが逃げる。
俺はそうであって欲しいと願った。
「発見しました! ローランド卿です!」
それは大量の水が流れた痕跡の突端だった。
半分泥に埋まるようにして
その特徴の赤いロンゲが目立っていた。
「生きているのか!?」
「無事です! しかし、四肢の一部が欠損しています」
嫌な予感がする。
それは四肢の一部だけだろうか?
雷化で分離したのが、鎧だけとは限らないのではないか?
「それに体格が一回り小さい気がします」
やはり鎧に同化して持っていかれたのがその四肢の一部なのだろう。
更に足りない部分を補ったために体格が小さくなったのではないのか?
その足りない部位が表面に見えない所だったら?
生存に関わる重要な臓器だったら?
「直ぐに上級回復薬を投与だ。応急措置で命だけは助けるのだ」
俺は他人事のようにしている
「直ぐに治療する必要がある。
頼む。
「俺に救急車代わりをしろと?」
彼
「
それを助けたならば、
「そっか。そうだよね。
よし、ひとっ走り行って来るか」
そう言うと
しかし、困ったぞ。
ここで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます