第252話 新しい道

 田んぼを作る場所は沼の北東とすることにした。

そちら側に湧水があり、温泉拠点からの距離も近いからだ。

俺はそこまでアクセスする道路のルートで頭を悩ませていた。


 ルートは2つ。

北上してから西進するルートと西進してから北上するルートだ。

いや、北西に斜めに向かう直線ルートも加えると3つあるか。


 まず北上してから西進するルートだが、主に通るのは魔の森の中となる。

魔の森の魔物は、俺が防衛のために放出した者たちも居て、結構危険度が上がっている。

トカゲもかなりの数を放出してしまった。

それが何処へと行って、どんな脅威となるかを考えれば、放出するべきではなかったかもしれない。

しかし、魚のように食用へとはいかなかったし、無駄に殺すのも躊躇われたのだ。


 その魔の森を北に抜けると高い崖がそそり立っていて、そこに入った割れ目が峡谷となってその先へと続いている。

ロックトカゲがいる、あの峡谷だ。

その手前で西に向かい荒れ地を通ればその先が湿地帯となる。

荒れ地と湿地帯の間には草原があるのだが、そのルートの生態はまだ調べられていないため危険度が不明だ。

とにかく、魔の森の中と未踏ルートばかりで、調査が必要だった。


 西進してから北上するルートは、俺たちが罠と呼んでいるワナワナが管理している草原地帯までは、細い道が通っていてその安全もGKの配下が確保してくれていて問題ない。

罠から齎されるバッタや巨大カマキリという得物と、馬に与える飼葉はそこから手に入れていて、女子たちが定期的に行き来している。


 そこでの最大の脅威はバッタ人間インセクターなのだが、クモクモやワナワナを脅威と判定したのか、最近は罠には近付かなくなったようだ。

バッタ人間インセクターの勢力圏はもっと西か北になったと思われる。


 巨大カマキリも自由に動ければ素早く脅威なのだが、ワナワナの蜘蛛糸で囲われている場所では、ただの得物と化している。

そこから東側限定だが、眷属という護衛を手に入れた女子たちの敵ではなかった。


 湿地帯へと向かうには、そこから北上しなければならない。

草原を北に抜けた先こそが湿地帯となる。

そこまでのルートはまだ未開の地だった。

どのような魔物がいるのかも判っていない。

もしかするとバッタ人間インセクターもいるかもしれない。


 検討中に思いついた北西に斜めに向かう直線ルートだが、これは魔の森を通る距離が一番長くなり、その脅威度によって判断が分かれる。

新たな道も開拓しなければならず、これは北上西進ルートと同様の調査が必要だった。


 となると行程の半分が既知の道となる西進北上ルートが現実的だと思われる。

その調査に向かうことにしたいが、さて、誰を連れて行こうか?

草原となると、アースタイガーがいると便利かな。


 アースタイガーは地蜘蛛といった意味らしい。

タランチュラのような蜘蛛がそう呼ばれるのだそうだ。

これはクモクモたちの種族名となる。


 クモクモとワナワナは俺の眷属のままだが、他のアースタイガーたちは女子の護衛眷属として配ってしまった。

裁縫女子にヌイヌイ、麗にチクチク、腐ーちゃんにオリオリ、さちぽよにゾクゾクが付いている。

裁縫女子と麗は、普段の業務が服飾関係になるため、ヌイヌイ、チクチクもそちらを手伝っていて戦闘系とは言い難い。

腐ーちゃんのオリオリも普段は布を織る仕事を手伝っているが、腐ーちゃんについて狩りに行くこともあり、そこそこ戦えるようだ。

さちぽよのゾクゾクは魔物を縛りまくっていて、ワナワナの手伝いをすることが多いようだ。


 となると、腐ーちゃんとオリオリか、さちぽよとゾクゾクという、どちらかの組み合わせで行くべきだろうか。

俺はクモクモに来てもらえば良いだろう。

ワナワナは一番戦闘に馴れていそうなのだが、罠の管理という大事な任務があるので除外した。


「腐ーちゃんか、さちぽよのどちらかに手伝ってもらいたいことがあるんだが?」


「田んぼ絡みでござるか?」


 朝食後だったため、リビングで寛いでいた腐ーちゃんが反応した。


「そうだ。田んぼまでの道を確保したいんだよ。

そのために、草原に強いアースタイガーの手を借りたくてね」


「それで拙者とさちぽよ殿ということでござるか」


 そういうと腐ーちゃんはさちぽよに視線を送った。

どっちが行くかという確認の目配せだろう。


「行きた~い。

人に会う場所だと連れて行ってもらえないし~」


 そういえば、さちぽよは王国の勇者として顔が知られている可能性があるので、人目がある時には隠れてもらっていた。

人と会えるのはカドハチ便の口の堅い限られた者たちだけだった。

外出などでは、かなり不自由な生活をさせていた。


「そうか、それならば頼もうかな」


 こうして俺とさちぽよで草原の北側を探索することになった。

今回は陸路をチョコ丸と馬に乗って行く。

さちぽよは、王国の特務騎士だったので、乗馬の訓練を受けていた。

実は、馬の世話なんかも紗希とともにしてくれていて生き物係となっているのだ。

それにより瞳美ちゃんが生き物係を解放されて、調理係になっている。


「それじゃあ、行って来る」


「気を付けて」


 結衣の声を背に受けて、俺はチョコ丸に乗って一路草原を目指した。

さちぽよの馬捌きはとても上手で、足の速いチョコ丸にも難なく付いて来ていた。

そして草原へと出た頃、馬を休ませないといけないというので休憩をとった。


 俺のアイテムボックスから、バケツ2つと飼葉、バッタの脚を出した。

バケツには水魔法で水を入れ、飼葉は当然馬に、バッタの脚はチョコ丸にあげる。

馬もチョコ丸も喜んで貪り着いた。


 そして俺は、倒れた草の束の上に腰を下ろした。

すると、俺の直ぐ隣にさちぽよが座って来た。

今日は顔を隠さなくても良いのでフルプレートは身に纏っていない。

軽鎧姿の薄着で俺に寄りかかってくる。

なんのつもりだ?


「やっと2人っきりになれたね♡」


 さちぽよが豹変し、俺は押し倒されていた。

しまった! 完全にマウントをとられた。

いや、それは格闘技のマウントではない!

あっちのマウントだ!!

まずい、さちぽよはイケイケで俺の妻の座を狙っていたんだった!

俺がマドンナも妻にすると宣言したことで、ハーレムは無理だという一つの言い訳が無くなってしまったのだ。

つまり、さちぽよは既成事実を作りに来たのだった!

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