第249話 水棲魔物の味
「ただいまー」
俺と紗希はカブトンとクワタンに抱えられて空から温泉拠点に帰還した。
そのまま屋敷の前の馬回し用広場に着陸する。
「お帰りー。どうだった?」
俺たちが帰って来たのを待ちわびていたのか、結衣が屋敷から飛び出して来て出迎えてくれた。
ぎゅーーーーっ。
なんとハグ付きだった。
結衣の胸部装甲が嬉しい。
「お土産があるんだけど、食べられるか鑑定してよ」
「ここじゃ困るから、キッチンの裏に廻ってね♡」
これは! YES/NO枕で言うYESか!
今夜の妄想が広がり、思わず前かがみになる。
「じゃあ、僕は皆に候補地の様子を伝えておくよ。
二人っきりで頑張ってね」
何をガンバレって?
今すぐ外でなんてしないよ?
「僕が行っても解体の邪魔になるだけだよね?」
そっちかーい!
どうやら戦闘の高揚感で頭がお色気モードになっていたようだ。
反省しなければならない。
「わかった。報告の方よろしく。
結衣、行こうか」
「うん、こっちに廻って」
紗希と分かれて屋敷の西端を廻り、キッチンの裏手に出る。
そこは大きな獲物を解体出来る解体場で台と水場が造ってある。
水は魔導具から出すのだが、ここだけは特殊で解体用に冷たい水が出るようになっている。
その汚れた排水が浄化槽に流れ、浄化の魔導具で綺麗になってから排水路に流れるようになっている。
錬金術大全を手に入れてから、生活はかなり便利になった。
これが第3職業に錬金術師を入れた理由だ。
魔導具が作れると、生活が豊かになるのだ。
「この台じゃ小さいかな。
ちょっと拡張しとこうか」
今回の獲物は10m級がいる。
それを乗せるには今の台では小さかったのだ。
「待って、大物ならば台に上げなくても良いわ。
下に置けるように床部分を拡張して」
床は掃除が便利なように石張り――いや厚い石そのもので出来ている。
かなりの重量に耐えられるような厚さにしてある。
ここを拡張して直で大物を置けるようにしようというのだ。
「わかった。排水も考えて、北側に拡張しよう」
北側には温泉があるのだが、浄化槽を通せば、温泉の排水に繋げても問題ないだろう。
「掃除は温水の方が良いから、温泉を引いて欲しいな」
「了解」
これらの工事は土魔法でサクッと終わる。
地下を掘って壁を固めて浄化槽を作り、その中に浄化の魔導具を設置する。
その浄化された最終段階の上澄みから排出されるように配管を下水に繋げる。
そして、蓋をしてその上に土を戻すと錬金術の組成変換で硬化させて石にする。
石には僅かな傾斜をつけて排水溝に水が流れて浄化槽へと行くようにする。
掃除用のホースを魔物素材から作って、貯水槽に設置した魔導具のポンプに繋げる。
これはかけ流した温泉水を溜めたもので、常に更新されておりかなり温かい。
これで汚れは温水で洗い流せる。
浄化槽の上部に続くメンテナンス用のマンホールの蓋と梯子をつけて完成だ。
「これで大丈夫かな?」
そこには全長20m、幅10mの巨大解体場が出来上がっていた。
今までの解体場はその端っこにちょこんと付いている。
「そこまで大物ばかりなの?
モチベーション下がるなぁ」
「そこは手伝うから」
「それが夫婦の共同作業? ないわー」
共同作業の方は今夜頑張る所存です。
ああ、だめだ。やっぱりお色気モードだ。
「出すよ?」
「待って、まだだめ。もう少し……」
「奥で良い?」
「だめ、そっちに出して」
よし、これで5種類の魔物を出したぞ。
「ワニ、亀、カエル、ザリガニ、ピラニアだね」
「食べられそう?」
「食物鑑定では全部食用だわ。
かなり美味しい部類みたい」
「水はきれいだったけど、沼の底は泥っぽかったぞ。
泥臭くない?」
「解体前に【クリーン】かけるし、食中毒防止で食材になった後も【クリーン】を使ってから調理してるから、味には影響ないと思うよ?」
そんなに気を使って料理してくれていたのか。
嫁に感謝だな。
「じゃあ、やっちゃおうか」
こうして5体の魔物が食材となっていくのだった。
◇
夕食には、新しい食材が料理となって並んだ。
ワニやカエルの肉は鶏肉のようで、ステーキや唐揚げになっていた。
ザリガニはボイルされて剥き身になっていた。
あれだけ硬そうな甲殻が茹でたらその硬度を失って簡単に割れたのだ。
それを刻んでマヨネーズと和え、サラダ菜の上に盛られてエビマヨサラダになっていた。
サラダ菜はなんとこの温泉拠点の畑産だ。
亀は濃厚なスープになり、ピラニアは塩焼きだった。
「エビうまー!」
だから、紗希よ、それどっちかというとロブスターだってば。
まあエビマヨって言って出て来たんだけどね。
5体の魔物は皆美味しかった。
これは絶滅させて田んぼにするより、田んぼや作業担当を襲わないようにコントロールして、食材として利用するべきだな。
となると、やはり生態系の頂点となる水棲系の眷属を配置して支配するのがベストか。
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