第240話 お米輸送を考える

 王国と温泉拠点、そして隣国との間には魔物が跳梁跋扈する魔の森が広がっている。

というか、温泉拠点がまさに魔の森の真ん中にあるのだ。

王国と隣国は、その魔の森の領有を避けることで、そこを不干渉地帯とし国境としている。


 両国間の交通は、魔の森を迂回するように繋ぐ街道が整備されていて、その隣国寄り付近に王国と隣国の国境砦が設置されている。

両国への出入りは、危険な魔の森を避けて、街道を使うのが当たり前だ。


 実はこの街道、その東側の先に隣国の領地があったために、そこまで整備された過去がある。

それを魔の森があることを良いことに王国が攻めて占領したのだ。

あのディンチェスターの街も昔は隣国領だったのだ。

その戦いには過去に召喚された勇者が投入され、隣国が煮え湯を飲まされたのだそうだ。

以来、忸怩たる想いがありながらも、それ以上領土を奪われないようにと、王国とは仮初の平和を維持しているらしい。


「それが赤T亡命で緊張状態に陥ったんだな」


 今までの隣国であれば、勇者を投入すると脅されたならば、赤Tの返還に応じているところだったそうだ。

王国の勇者十数人に対して赤T1人では太刀打ちできないからだ。

しかし、今はノブちんたち6人の勇者が隣国に所属している。

王国がその事実に気付かずに勇者を小出しにしてくれば勝てるという算段だったのだそうだ。


 しかも戦いの正面は街道に設置された砦となるのは必定。

そこが閉鎖状態ならば、お米の輸送など不可能と言ってよい。


 例えば隣国はノブちんたちに頼んで出国出来るだろう。

しかし、その先で王国の入国審査が入ればお米など勇者案件として没収されてしまうのだ。

この輸送を王国商人のカドハチに任せたとしても同じだ。

いやむしろ農業国に怒られて隣国がお米を輸入出来なくなってしまう。

つまり、街道ルートでのお米輸送は断念せざるを得ないのだ。


 となると、魔の森を通過する輸送ルートの開拓となるのだが、俺たちはなんとかなるかもしれないが、隣国側の輸送隊が生き残ることはまず無理だろう。

隣国側にもカドハチ便が通る道と同等の安全を確保できる道を通さなければならないのだが、それも簡単にはいかない。

西側はあのインセクターが出没する草原を通過しなければならない。

あそこだってクモクモとワナワナが罠を仕掛けて管理してくれているからなんとかなっているだけで、そもそもが危険地帯なのだ。


 更に先はまだ調査もしていない未開の地だ。

インセクターよりも恐ろしい魔物が居たとしても不思議ではない。

そこを俺たちは空からスルーしたから隣国に侵入出来たのだ。

輸送隊も空からというわけにはいかないから、未開地の調査と道の確保が必要となるわけだ。

それは一筋縄ではいかないだろう。


 よって、隣国まで荷が届いたら、俺が空から取りに行くという手段を取らざるを得ないのだ。

アイテムボックスを持っている誰かに代わってもらえば任務は分散できるが、そのアイテムボックス所持者が俺と結衣と麗しかいない。

麗は高所恐怖症で無理。また飛ばせたらどんだけ怒られるか……。

結衣は拠点の食事生産の要であり、そうそう外出させられない。

うちも奴隷を含めると大所帯になってしまったからな。

つまり、誰かがアイテムボックススキルを手に入れるまで、俺がお米輸送を担当しなければならない。


「隣国の王国側国境までの輸送ならば問題ないんだな。

でも、そこからどうやって転校生くんに荷が届いたことを知らせるんだな?」


 この世界、情報伝達は騎獣による速駆けか、伝書鳩のような鳥便しかない。

当然魔の森を突っ切っての速駆けは出来ないし、鳥便も空飛ぶ魔物に襲われかねない。


「盲点だった! この世界情報伝達がシビアすぎる」


 かと言ってお米の配達を諦めるわけにはいかない。

お米は日本人にとって絶対に必要な戦略物資なのだ。

即時通信を実現させるにはどうする……。


「そうだ、ノブちんに俺の眷属を預けておこう。

眷属から念話で知らせてもらえれば、直ぐに取りに行ける」


「念話? 転校生くんは眷属と念話出来るんだな?

そういえば水トカゲが逃げてしまったんだな。

転校生くんから借りていたのに申し訳ないんだな」


 ああ、水トカゲ1は、契約眷属数が上限を越えて解放されてしまったんだよな。

ノブちんは、そんな事情を知らないから、気にしていたんだろう。


「水トカゲは気にしなくて良いよ。

あれはこっちの都合だったんだよ。

契約数オーバーってやつでね」


「そうだったんだな」


 ノブちんもホッと安心したようだ。


「今、渡せる眷属が居ないから、たまご召喚してしまおう。

ノブちん、どんな魔物が良いかな?」


「なるべく目立たない、農業国で問題にならないやつが良いんだな」


 ああ、農業国はバッタとかNGだもんね。

目立たないというと、ああそうだ、カメレオンがいたわ。


「カメレオンはどう?」


「虫を食べるから歓迎されるんだな」


「ノブちんもここで任務があるだろうし、カメレオンならば身を隠せるから、そのまま輸送隊について行かせれば良いよ」


 カメレオンは眷属卵で召喚すれば、半日で孵る。

これをノブちんに預けて、輸送隊に同行させよう。

いや、待て。眷属卵で孵せるってことは眷属にいたじゃないか。


「あ、1匹動かせそうなのがいるから、そっちを先に渡せば良いか」


 カメレオン2が現在魔の森の入口なんかで偵察中だ。

そこはホーホーも見張っているから、不在になっても大丈夫だろう。


「眷属召喚! カメレオン2」


 俺の右腕の上にカメレオン2が召喚されて来た。

体長は40cmほどだろうか。

なんだかんだでステータスが鍛えられた俺だから良いが、しがみ付かれた腕がけっこう重いぞ。


「こいつを預けておく。

カメレオン2、ノブちんの言う事を良く聞くんだぞ」


 こうしてカメレオン2がお米輸送の連絡要員となった。

ノブちんにお米代も渡したし、持ち帰るお米も手に入れた。

お土産はアレだけど、これで訪問目的は達成だ。

そろそろ俺たちは温泉拠点に帰るとするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る