第205話 侯爵軍迎撃5

 青Tこと青の勇者を無力化した。

あとは侯爵軍をどうにかすれば、とりあえず平和が戻ることだろう。


「青の勇者は討ち取ったぞ!」


 俺の声が【音声拡大】の魔法で響き渡る。

侯爵軍との距離が離れているので、これぐらいやらないと声は届かない。

先程の青Tとの会話も、青Tが接近中だったから伝わったのであり、他には漏れていないはずだ。


「降伏せよ。5分待とう」


 この世界、魔道具の懐中時計が存在していた。

平民でも裕福な商人などは時計を持っているので、貴族ならば間違いなく持っていることだろう。

本人が携帯していなくても、お付きの者が持っているはずだ。


 実は俺も時計をカドハチ商会で買って持っている。

その懐中時計で5分を計る。


 この世界の時計も時針分針秒針が1周して時間を表す仕組みは同じ。

その動力と時を刻む仕組みが魔法由来なだけなのだ。

そして、この異世界の年月週日時分秒が、全て地球と同じなのは、召喚に際して何らかの意図が働いた結果なのだろう。

そんな異世界なので時計の使い勝手も地球と同じだった。


 沈黙のままそろそろ5分というところで声が響いた。


「降伏……なんてするわけないだろ! 全軍突撃!」


 侯爵軍の若い指揮官が全軍突撃を命じた。

俺たちが青Tに手間取っている間に、軍を分散し、あらゆる方向から軍を進軍させる作戦だった。

俺たちが10人という情報でも手に入れていたのだろう。

10ヵ所以上から攻撃をかければ、何処かが手薄になるという考えだ。

正面の指揮官は囮、T-REXを引き付ける餌に自らなっていたようだ。


 だが、俺たちは戦闘奴隷を150人雇っている。

侯爵軍が3千人来ることを聞いていたため、3交代で見張れるようにと増やしていたのだ。

いま、50人が壁沿いに配置され、どこが攻撃を受けるのかを見張っていた。

訓練通りに敵を発見すると人を呼ぶ。

この時、50人は夜間の見張りのために休んでおり、50人が予備兵力として動けるように待機している。

その予備兵力が敵発見の合図で動く。

そして、俺たち同級生が眷属と共に迎撃に向かうのだ。


 侯爵軍200は、20の部隊に分かれていた。

1部隊10人ということだが、10人でも突破されれば、迎撃中の後ろを突かれる心配がある。

前後で挟まれると危機的状況となるのは、オーガ戦で経験済みだ。


 だが、この侯爵軍の作戦には穴があった。

指揮官の護衛も10人になっていたのだ。

この戦い、指揮官を倒せば終わる可能性がある。

わさわざその他190人を殺す必要は無い。

ただ、壁を突破されないように守れば良いだけなのだ。

守りに入った砦を攻略するには3倍の兵力が必要だと言う。

戦闘奴隷を雇ったおかげで我が方は人数が増えており、既に攻略できる兵数は侯爵軍にはなかった。


「T-REX、攻撃開始! 指揮官を仕留めろ」


 俺は青Tのせいで良い所なしのT-REXに最終命令を与えた。

T-REXの力はすさまじく、青Tに翻弄され弱いと思っていたのか、侯爵軍指揮官は逃げる間もなくその牙の餌食となった。

あまりの呆気なさに、逆に驚いたぐらいだ。

勇者までは行かなくても、たった1人で戦況を覆せるほどの強者なのだろうと思っていたよ。

それで囮役とか、まさか接待訓練で自分は強いつもりだった貴族のボンボンだったのだろうか?


「勝鬨を上げろ! 指揮官を討ち取ったぞ!

俺たちは、青の勇者と指揮官を討ったぞ!」


 俺の声が【音声拡大】の魔法で響き渡る。

それに合わせて戦闘奴隷たちも声を上げる。

誰も犠牲になっていない、しかも勝った。

その結果に奴隷たちの声は爆発した。


「降伏する! 各員戦闘停止!」


 魔物に襲われ続け、既に厭戦気分だった侯爵軍は、副官の声(音声拡大済)により戦闘を停止した。

ここに侯爵軍の第一波は退けられた。


 ◇


 やりすぎた。

王国への無条件の従属意識などが消せたのは良かったが、俺たちに無害で献身的な――執事のような紳士になって欲しいと願っただけなのに、その結果は劇的なものだった。

マドンナに脚を治療してもらって青Tを起こしたところ、彼は文字通り執事となっていた。


「お嬢様、先程は失礼いたしました」


「青Tが気持ち悪いでござる!」


「青Tではなく、セバスチャンとお呼びください」


 腐ーちゃんが、青Tの変わり様に引く。

青Tは下ネタ全開のお下劣キャラだったそうで、言葉のセクハラで女子を困らせていたらしい。

それがなければイケメンなのにと言われる残念キャラだったそうだ。

それが紳士で従順なしもべとなってしまったのだ。


「腐ーちゃん、イケメン執事なんて、むしろご褒美だよ」


 瞳美ちゃんがなぜか目をキラキラさせて腐ーちゃんに何かを耳打ちしている。


「はっ! ご主人様と執事の倒錯の世界、ご飯何杯でも行ける!」


 腐ーちゃんも何かに気付いて納得の顔になっている。

何かを妄想しているようだが、腐ーちゃんの中で納得できたならそれで良いか。


 メイドのふりをしていた腐ーちゃん、瞳美ちゃん、裁縫女子は、下働き用の奴隷が本物のメイドになったため、その任を解かれて魔法戦闘職となっている。

今や世話をされる立場なので、青Tことセバスチャンは、彼女たちをお嬢様と呼ぶのだ。

どうやら、俺が執事のような紳士にと思ったせいで、彼は執事キャラとなってしまったようだ。

その執事イメージも漫画やアニメ、ラノベのイメージなので、妙に偏っている気がするが、そこはスルーしておこう。

奴隷の中に執事になれるような者がいなかったので、むしろ今後の事を考えれば都合が良かったかもしれない。

ヤンキーの青Tとして留まられるよりも、どれだけマシだろうか。

これで女子たちの秘密も外に漏れることは無い。

人権無視の異世界万歳。

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