第171話 シャインシルク
Side:カドハチ
「会頭、よろしいですか?」
「どうした?」
この店を仕切ってもらっている番頭が、息せき切ってやって来た。
自らには手に余る、私の判断を仰ぎたい案件が発生したのだろう。
「勇者様の絵巻物が売れました」
「ほう」
それは没落した貴族家から買い取った古本だった。
本というものは、ほとんどの新刊を貴族などの富裕層が購入し、それが古本となって一般市民の元にやって来る流れだ。
なので、私の店で扱う本は全て古本となるのだ。
そんな中には一風変わった本も含まれている。
それが、一般市民には手が出ない代物として有名な、勇者が執筆した本だった。
発行部数が少なく希少性があるうえ、一部領地では禁書となっていたりで、新刊以上に高値となっている代物だ。
過去に貴族女子の間で大流行し、貴族家の財政を傾けるほどにのめり込んだ者が出てしまい、その領地では禁書となったといういわくつきの本だった。
この件によって勇者排斥の動きが活発化したとも言われている。
そのいわくつきの本が売れたというのは事件だった。
「知っている客か?」
「はい。キラーマンティスを大量納入されるお客様のお連れの方です」
「あの不思議な男の連れか」
たしか、あの絵巻物は金板1枚という高値だ。
うちがインセクターを買い取った時の代金で払えなくはないが、財布を奪われたとかで入街税が無くて困っていたような人物だ。
だが、その当人がアイテムボックス持ちだったので、財布を奪われるというのもおかしな話だった。
服としては簡単すぎる構造だが、布自体は高級そうなものを纏っていて、それも泥や草の汁で汚されていた。
その高級な布を粗末に着るというところにチグハグさを感じたものだ。
「そのお連れの方が、売りたいものがあるというので、お預かりした物がこれなんですが……」
どうやら、そのお連れの方は、思った以上に高い買い物をしてしまったため、私物を売って補填したいということらしい。
「どれ、見せてみろ」
私は【商品鑑定】のスキルを持っているので、その品物が何であるか、価値がどのぐらいのものかなど、簡単に判別可能なのだ。
見たところ、この下着は画期的なデザインだと言えるだろう。
デザインだけで材質などは関係なく値段がつくはずだった。
だからこそ、番頭は判断に困って私の元に持ち込んだのだろう。
「!」
その鑑定結果に俺は驚きを隠せなかった。
「シャインシルクワームの布だと!」
「え!?」
番頭が驚きというよりも意外だという顔をする。
番頭が私に見せたかったのは、その素材などではなく、その布で作られた物自体だったからだろう。
私もそう思っていたが、彼も布の価値には気付かず、その布製品の価値で私の所に持ち込んだのだ。
それがまさか国宝級素材だったとなると、そんな顔になっても当然だろう。
「国王様がお持ちのハンカチの倍は布面積がある。
たしかあのハンカチは国宝扱いだったな?
私の鑑定ではこの下着の価値は金板40枚と出ている。
これにはデザインを模倣し継続使用する価値は含まれていない」
「どうすればよろしいでしょうか?」
ここで、私の頭の中でこの状況とある話題がガッチリと繋がった。
「西の森に他国のお貴族様の保養地が発見され、そのお貴族様や関係者がこの街に御訪問なさるという話を、代官様から内々に伺っている」
「まさか!」
「そのまさかだろう。
インセクターを倒せる異常な強さ、世間知らずなところ、この国の貨幣を持っていなかったこと、全てが他国のお貴族様だとすれば辻褄が合う。
そして、高価なシャインシルクの布製品をお連れの方が持ち、それも簡単に手放し売ろうとする……。
上客だ。このままお貴族様には懇意にしていただこう」
「すると私めはどうすれば?」
「ご購入してさしあげろ。
値段は金板36枚……いや、金板40枚でかまわん」
「それですと、儲けが……」
「いや、
この件に関して緘口令を
なんなら最高級宿をとって宿泊していただき、
宿泊代をケチるな。くれぐれも御満足していただくのだぞ」
明日も
これで
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