第168話 上手くいかないこともある

 翌朝、俺は絶望に打ちひしがれていた。

童貞と処女、上手くいくわけがなかったのだ。

俺もネットの18禁映像で予備知識はあったつもりだった。

だが、その映像はAVという演技の世界なのだ。

あんなの嘘ばっかりだ。

処女の女優さんだって台本上の処女役にすぎなかったんだ。

初めてで痛がる結衣にそれ以上強引に迫る勇気を俺は持ち合わせていなかった。


 だが、初めて肌を合わせイチャイチャするだけで結衣は満足したようだ。

一般的なカップルは男がやりたくて仕方なくて、女性が折れる感じで初体験を迎えるのかもしれないが、俺はトラウマのせいか、そこまで性欲が強くない。

我慢しようと思えば我慢出来てしまう。

やりたい盛りのお年頃なのだが、もしかして俺はそこらへん異常なのかもしれない。


 そんな微妙な空気を纏わせて、俺と結衣がリビングに向かう。

そこには先客が待ち構えていた。

裁縫女子とさちぽよだ。


「ご愁傷様」


 俺の顔を見るなり、裁縫女子が声をかけて来た。

どうやら初体験をしくじったことを揶揄って来たようだ。

こいつ、一部始終を聞いてやがったな。

なんとでも言え、今後は裁縫女子の目の前でもイチャイチャしてやるからな。


「とりあえずぅ、さちと練習しとこうかぁ?」


 さちぽよが個人レッスンをしてくれると言い出す。

いや、それ浮気だから。軽い、軽すぎるよ、さちぽよ。

100%避妊が可能ならば、後は楽しむだけという感覚か?


「ガルルル!」


 結衣さん、左腕が痛いです。

さすがにそれは嫁が許さなかった。

威嚇の唸り声をあげて、左腕に思いっきりしがみつかれた。


「さちは気にしないんだけどぉ、三つ編みちゃんがだめかぁ。

取らないしぃ、別に身体だけの関係でも良いんだけどぉ?」


「だーめーー!!」


「この世界に残るならぁ、一夫多妻は常識だぞぉ?」


「え? 残る方向で考えてるの?」


 いや、帰れないと思って諦めてるんだろう。

帰還の手掛かりは全くなく、その手掛かりを持っている召喚した当事者が、俺たちを戦争の道具として使い潰そうとしてる。


「皆、無理かなとは思ってるよね?

それに住むところと安全を確保したら、一気に現実が見えてきちゃった」


 裁縫女子は、どうやら屋敷を建てることで定住を意識しだしたようだ。

今までは、皆、生きることで精いっぱいだったからな。


「俺は出来るだけ帰れるように努力するつもりだけど?」


「でも、それって危険を伴うよね。

ヘタすると国を倒さないと手がかりさえ得られないでしょ」


「確かに。道は厳しいな」


「そんなことしなくても、ここでの生活は今のところ快適じゃない?」


 裁縫女子の指摘は尤もだった。

国と交渉するには、国を倒せるだけの力を必要とする。

交渉決裂が即実力行使に発展しかねない。

このまま温泉拠点に定住でも面白おかしく生活することが可能だと思うと、そこまでしなくてもという気になってしまう。


 お金はあるし、食料その他の買い物も出来る。

魔物を狩れば、肉や素材で収入も得られる。

特にキャピコの糸で織った布は高額商品らしい。

それを売るだけでも10人が何年も生活出来てしまう。


「余程のことが無い限り、ここでの生活は安定しだしてはいるな」


「でしょ?」


「何の話?」


 そのタイミングでベルばらコンビがいつもの如く半裸でやって来た。

朝風呂を浴びてきたところのようだ。

最早、それが当たり前の光景になりつつある。

この温泉拠点は、そこまで安心安全で平和なのだ。


「元の世界に戻れたら戻るかって話、いえ、戻れないかなって話かな?」


「ああ、無理っしょ」


「私も、もう無理だと思ってるよ」


「でも、戻れる方法があるなら戻りたいな」


 そして俺の方をチラチラ見出した。

なんだ? その視線は?


「唯一の問題は男が圧倒的に足りないってことかな?」


「一夫多妻で解決する話なのに、本人が嫌がってるからな」


「この世界の男も、まともなの少ないしね」


「知ってた? モーリス隊長、既婚者だって」


「平民は経済的に嫁を二人も抱えられないらしいよ?」


「その点、うちのは金は稼ぐしチートだし、優良物件なのよね」


 また、俺の方を皆で見る。

俺がハーレム容認すれば、丸く収まるってか?

冗談じゃない。俺はクソ親父のようにはならないのだ。

それは法律が許す許さないという問題ではない。

心に深く刺さったトゲの問題なんだ。


「俺の事なら、重婚は無理だからな」


「ヘタレのくせに」


「1人も満足させられないくせに」


「ぐはぁ!」


 なんで、そこで俺の心を抉りに来る!

俺はダメージを受けて床にへたりこんだ。


「他の男子たちは?」


「ヤンキーたちの救出は難しいよね」


 国の中枢に近くて遠征に出て来ないと無理です。


「隣国組の男子は?」


「勇者排斥論者という組織にぃ、やられてるかもぉ」


 勇者排斥論者か。宗教に近いらしいけど、俺たちにとっての潜在的脅威だな。

ノブちんたち、無事だと良いけど。


「まあ生きてても頼りないか、顔が好みじゃない」


 おいおい、言いたい放題だな。


「ひっどー」


「実際顔ならヤンキーの赤Tとかイケメンだよぉ」


「でも、ヤンキーだからねぇ」


「頭の中がねぇ」


 そして、また俺の方を見る。


「やっぱり優良物件だよねー」


「三つ編みちゃん、うまくやったな」


 どうやら、俺は皆から狙われているようだ。

もしかしてベルばらコンビが半裸でうろついてるのも罠なのかもしれない。

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