第110話 皆で買い物3
やはり新品の衣服や下着に手を出すと金貨が飛んで行くのだ。
結衣の見立てで、俺の服や下着などが見繕われていくと、俺でさえ金貨を消費することになった。
「服は工程が多くて人が沢山関わっているから、しょうがないんだろうね」
素材を生産し、糸を紡いで、布に織って、染色して、服に加工する、服1つにとんでもない手間暇がかかっている。
地球では繊維も化学合成されて機械で大量生産が可能だから、あれだけ安く手に入るのだろう。
小麦を買った時の袋だって次の購入時には店まで持っていかないとならないのだ。
あれは買ったのではなく、借りたというのが実情だった。
騙すつもりで袋を詐取して売り捌く、或いは布として利用しようなんてことをすれば、生きるために必要な食料を売ってもらえなくなる。
もし袋を紛失したり盗まれたりした場合は、店に頭を下げたうえで別途袋代が要求されることだろう。
あの市場の入り口付近にいたぼったくりオヤジも、袋代を乗せていたとしたら、まだ良心的な価格だったのかもしれない。
「あー、もう。急にお金が使えなくなったよ。
でも、これは共同資産から出るよね?」
文句を言いながら裁縫女子が俺を引っ張って行った先にあったものは……機織り機だった。
「却下。クモクモに織って貰え」
さすがに金板1枚半――15万Gはねぇ。
馬車より高いって、この機織り機は布という金の素を生む機械なわけで、その特許料ががっつり乗っているということだろうか?
いや、形さえ整っていればなんとなく動く馬車と違って、機織り機は糸1本のズレも許さない精密機械なわけだ。
製造するにも高度な技術が必要なのだろう。
「なんでよ。私にとってはこれが武器でしょうよ!!」
言いたいことはわかるけど、クモクモが布を織ってくれるのに、わざわざこれがいるか?
戦闘職の黒鋼の剣は皆の安全と獲物を得ることが出来る。
一方、裁縫女子の機織り機は、時間がかかるだけでクモクモの生産力に劣る存在だろう。
俺が難色を示していると、裁縫女子は切羽詰まった様子で詰め寄って来た。
「お願いよ! 私の存在意義を見出して!」
裁縫女子のやれることはクモクモがもっと器用に熟してしまう。
ある意味クモクモの下位互換という立場になってしまい、悩んでいたようだ。
だが、そのためにクモクモより効率の悪い機織り機の購入は無いだろう。
彼女にしか出来ないこと、それを見つけてあげなければならないか。
「服のデザインとかは、クモクモは苦手だぞ。
そこは裁縫女子しか出来ないだろう。
それと革製品、それこそ鞄なんか作れないか?
クモクモは糸関係以外は全く出来ないだろ?」
「それよ! 革ならば共同資産から仕入れて良いのよね?
待ってなさい、仕入れて来るから!」
どうやら、裁縫女子が復活したようだ。
たしか、ひっぽくんの革紐を作って欲しいと依頼していたのに、買った方が早いとか言ってなかったか?
まあ、実際に復路で切れたら目も当てられないから買ったのは良いんだけど、予備を作ろうって気は無かったよね?
まあ、良いんだけどね。
そして裁縫女子はいくつかの鞣し終えた革と店員を伴って戻って来た。
見繕って来た革の代金を支払えということらしい。
「却下」
「なんでよ!」
「ワイバーンの革とか今いらないでしょうが!」
裁縫女子が購入しようと持ってきた革は、高級な魔物素材だった。
たしかに良い物なのだろう。
素晴らしい素材であり、裁縫神の加護が疼くのもわかる。
だが、それ今いらないし、失敗する可能性もあるよね?
「なんでよ! ドラゴンの革は諦めてあげたんだからね?」
これは財布のひもをがっちり握っていないと散財されるパターンだ。
俺たちはいま、洞窟に住んでの狩猟生活だぞ?
客観視したら原始人生活なんだぞ。
そこには高級ブランドバッグは必要ない。
「まだ革製品作りに慣れてないんだから、とりあえず実用的な革から始めてよ。
高い革で失敗したら、その代金は個人資産から引くよ?
これ以降お小遣い無しになっても知らないからね?
なんならオークの革を鞣して使ってもらっても良いんだからね」
「ぐぬぬ」
買い物モンスター1を撃破した。
今回は2と3が来てなくて良かった。
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