第103話 結婚生活を考える

 危ない危ない。田舎のノリに洗脳されるところだった。

俺だってやりたい盛り。危うく本能の赴くままに行動するところだった。

世間の中学生がどれだけ安易にやっちゃってるかは、俺も知るところだ。

田舎はそれが更に早いというのも知っている。

しかし、元世界でのそれは高度な医療と避妊方法があればこそだろう。

この異世界では、その医療体制が信用できない。

彼女のためにも迂闊な行動は避けるべきだ。


 まあ、ここは魔法がある世界、便利な避妊方法があるのかもしれないけど、俺は全くない可能性も捨てきれていない。

ラノベだと避妊魔法とか、何日も妊娠しない薬とか、逆に一発必中妊娠薬なんて出て来るけど、あれは願望ありきの設定だろう。

そんな便利なものは無い、むしろ産めや増やせやの世界かもしれないのだ。

重婚ハーレムの奨励なんて子孫を確実に増やすための方法だぞ。

それが国力を増大させる手段だったりするのだ。


 よって同衾は危険だ。

少しぐらい接触しても良いかと譲歩すれば、最後まで突っ走る自分が容易に想像できる。

なんで三つ編み女子はああも俺を信頼してくれているんだ?

ああ、俺がプロポーズしたからじゃん!

メガネ女子が引き出した結婚に関する一連の知識に15歳で成人で結婚可というのがあった。

つまり今年誕生日が来ていれば正式に結婚できてしまうのだ。

それも結婚しますと言うだけで、何も役所に婚姻届けを出す必要もない。

あのプロポーズに三つ編み女子が了承したということは、この世界では結婚したに等しい。

三つ編み女子の誕生日を知らないけど、実質結婚状態に突入したということは、そういうことなんだろう。


 母さん、俺、結婚したよ。

クソ親父みたいにならないために彼女……あれ? あだ名しか知らないじゃないか!

拙い、結婚を申し込んだ相手の名前を知らないってあるのか?

いや、俺も自己紹介で名乗ってないから、三つ編み女子も俺の名前を知らないはずだ。

どうする?


「なに深刻な顔してるの? ヒロキくん」


「え? 何で知ってるの?」


「やった! 驚いた?

あのね。ブレザーのジャケットの内側に刺繍してあったよ?」


 ああ、そういや俺の姓が有り触れているから、下の名前で刺繍したんだった。

しかも大樹というのが流行りの字で被りが多くて、ダイキと読み間違えられ易かったからローマ字表記にしたんだった。


「私は結衣ユイだよ。旦那様♡」


 なんだこの可愛い生き物は。

思わずハグしてしまった。

ああ、これは我慢なんて無理だ。

結衣のために、安全な出産環境を手に入れるべきだ。(違う)

俺は一瞬にして結衣との新婚生活にシフトしていた。

こうして俺の異世界ラブラブ生活が始まったのだ。(おい)


「お熱いところ邪魔してごめんねー」


 俺の幸せを邪魔するやつが現れた。


「なんだ裁縫女子、道具なら街には無かったぞ」


「洋服の制作で必要な小物があるのよ。

ほら、これなんか木のバックルが付いているでしょ?

こうやってベルト状の紐を絞めて止めているわけよ」


 なるほど、それは木工製品なので、ここでは誰も作れないわけか。


「それにひっぽくんの引綱の革紐も、素材の革が必要よ」


 つまり早急に街へと仕入れに行く必要があるわけか。

ひっぽくんの革紐はオマケだったからボロい。

いつ切れるか微妙なところだ。


「誰が来る?」


「私とメガネちゃんとサッカーちゃんね」


 女子たちには身長差も胸部装甲の差もある。

サンプルの服をそのまま着れる者とそうでない者がいる。

つまり標準サイズの者たちが行かれるということだ。

迷惑2人組は、体格でアウトだった。

彼女たちも街に行きたかったが、裁縫女子とクモクモが体格に合わせて作らなければ無理なのだ。

いや、むしろ護衛役が残ってくれて助かる。

次はサッカー部女子が残るだろうから上手く回るだろう。


「私も行くよ? 食材は私が見た方が良さそうだし。

殿方は、良いものだと高くても・・・・買ってきちゃうから」


 結衣も来るようだ。

しかも、俺が無駄遣いして来たことに気付いていたようだ。

そこを煩くは言わないところが結衣の良い所だろう。

だが、その胸部装甲に合う服は……。

クモクモがリフォームしてくれたのね。


「なら腐ーちゃんとマドンナさんは留守番で良いか?」


「オッケー」


「むー。しょうがないわね」


 腐ーちゃんはどうでも良いと言うように手をひらひらさせている。

マドンナは、まだ俺の結婚に納得がいっていないようだ。

だが、ここで4:4にチームを分け、自分が居残りになったのは理解できるというところだろうか。


 マドンナはレベルアップでアイテムボックスのスキルを手に入れた。

こんなに簡単にレアスキルであろうアイテムボックスが手に入っても良いのかとも思うが、そこは転移特典ということで納得するしかない。

そのアイテムボックスの所持がチーム分けを決定付けたと言っても良い。


 この世界で食料を保存するならば、アイテムボックス持ちの存在は欠かせないだろう。

アイテムボックスに食料を収納している結衣が街に行ってしまうと、その間残った者たちの食糧はどうするのか?

今回は脚の遅いひっぽくんの獣車が行く。

間違いなく泊まり掛けになるだろう。

その間、保存食で我慢しろというのも留守番組に悪い。

ここでマドンナがアイテムボックスを持っていることが生きる。

結衣とマドンナの2人が食料を分散して所持していれば、どちらかが残ることでその懸念は払拭できるのだ。


「ひっぽくんの獣車はちょっと革紐が危ない。

4人で限界だろう。

俺はチョコ丸で行く」


「革紐が危ないなら、私もチョコ丸に乗るよ?」


「状況を見てそれも考えとこう」


 俺がそう言うとう結衣が頬をぷくーと膨らませた。

何それ可愛い。

どうやら、俺と二人乗りをする理由を無理やり作ったようだ。

だけど、鞍が二人乗り用じゃないんだよね。

長い道のり、可愛い嫁には楽に移動して欲しいじゃん。


「ほらほら、獣車の方が乗り心地が良いから。

いざという時は頼むからさ」


「またまたお熱いところ悪いけど、速く出発しないと変なところで野営になるかもよ?」


 裁縫女子め、直ぐに邪魔をしてくるな。

まあ、言っていることは正しい。

さっさと出発しよう。


 ひっぽくんに引き綱の革紐を取り付けて獣車のくびきに繋げる。

まだ大丈夫そうだ。

4人がその獣車に乗り込む。

俺はチョコ丸に鞍を取り付けて乗り、さあ出発というところで気付いた。

御者を出来る者がいない。


「ひっぽくん、付いて来れる?」


「むぁー!」


 だが、ひっぽくんは俺の眷属だ。

本人いや本竜も自信満々だ。

俺の乗るチョコ丸の後に、ひっぽくんは自分の意志でしっかりついて来ることが可能だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る