第89話 街を目指す2
旧キャンプ地を避けつつ渓流まで出る。
ここを下ればなんらかの道に出るだろうことは予測していた。
そういえば、ヤンキーたちはここを下って街まで到達したのだろうか?
渓流の脇を下ると、獣道のようなものを見つけた。
人工的な道ではなく、何度も同じ場所を獣が通ったという感じがするだけだが。
そこを通って行くと、人工的なキャンプ跡を見つけた。
どう見てもヤンキーたちのキャンプ地ではない。
大きなテント――幕舎か?――を張ったような跡、炊事のための竈跡、馬を繋いだのか杭に横木が打ち付けてある。
「この距離ならば、ヤンキーたちが接触した可能性があるな。
そのヤンキーたちは、俺たちの存在を教えなかったのか?」
うーん、どっちだ?
悪い相手に捕まったので、親切心で教えなかった。
良い相手に保護されたので、俺たちに教えず独占しようとした。
どっちともとれるな。
最悪の事態である魔物毒で死んだというのは考えないようにしよう。
それも先に進めばわかるだろう。
そのまま獣道を進むと、ついに大きな――といっても馬車がすれ違えるぐらいのだが――街道へと出ることが出来た。
「たしか、ノブちんたちは、ここから西へと向かったはず」
今渓流を下って来た道は太陽の位置によると、ずっと南下していたはずだ。
俺は立ち止まると北を向いて考えを纏めた。
ここから左が西で右が東だろう。
日本人は地図の北を上にする感覚が抜けないのか、一度北を上にして考えた方が判りやすい。
森から出て南を向いている状態の左右では逆なので、勘違いしないように一旦北を向いたのだ。
俺は方角を確認するとチョコ丸を西へと向かわせた。
「拠点からだと、直接南下した方がこの先に着いたのかな?」
地形は複雑なので、その間に崖が立ち塞がったり深い谷があれば、単純に南下することは出来ない。
しかし、平坦であれば、街への道はショートカットできるはずだ。
調べてみる価値はある。
◇
誰とも会うこともなく、目の前に要塞のような関所のようなものが見えて来た。
どうやら、この先は街では無いらしい。
「貴坊、またハズしたのか……」
よく見ると、その先にも関所のようなものがある。
「ああ、これは国境だ」
2つの関所のようなものには違う国旗が掲げられ、そこを警備する衛士の装備も明らかに違う文化によるものだった。
「でも良かった。人間の国だ」
これがエルフとか獣人とか魔族の国である可能性もあったのだ。
ノブちんたちは無防備だったが、勇者召喚した国が人族でない可能性も想定するべきだったのだ。
「引き返そう」
いちいち国境をまたぐのは手続きも面倒そうだ。
買い物をして帰って来るのに国境越えなんて、入国税でもあったら、それだけで破産する。
だいいち、俺は魔物素材を売らない限り金がない。
近付かない方が無難だろう。
「ノブちんたちは、どうしたんだろうか?
行動原理が貴坊の予知だから……まさかね……」
貴坊の予知が召喚した国を目指すものならば、それに従うことになっただろう。
ただし、貴坊の予知はほとんどハズレだ。
どんな不幸が待っているかわからない。
「無事でいてくれよ。
こっちは迎えを待っているんだからな?」
悪意の無い王家が勇者召喚をして、お願い事を聞いて欲しいだけ。
それを断る権利もあって、帰りたいならば日本に返してもらえる。
そんな都合の良い話ならばいいのだが……。
◇
来た道を戻って、街道を東に進む。
国境前でUターンするなど犯罪者かのような行動をしてしまったが、道を間違えるなんてことは良くあるのだろう。
追手が来るわけでもなく、俺は東に向かって街を探していた。
探すというか、街道を進んでいけばその先にはきっと街があるのだが……。
ここまで来ると、国境に向かう馬車などともすれ違うことも出て来た。
馬車はまさに中世ヨーロッパのような箱馬車か荷馬車だった。
その中でもひときわ目立つのが獣車で、ひっぽくんのような竜型騎獣に引かせている荷車だった。
それは巨大で、その力により大量輸送をしているようだ。
「どうやら隣国との間は人の出入りもあり、輸出をするぐらい友好的なようだな」
これは召喚した勇者を人の国との間の戦争で使っているわけではない可能性を示唆していた。
少なくともこの目にした2国間ではそのようだった。
尤も、この反対側の国とは戦争中ということも考えられるが……。
とりあえず、馬車や獣車が多くなってきたということは、街が近いのかもしれない。
朝一で街を出た馬車や獣車が、やっとここまで来たということだろう。
関所には街の機能が無かったので、おそらくこの先にあるのが国境の街なのだろう。
これだけ間を空けるのは、2国間の緩衝地帯ということなのだろう。
国境を越えた直ぐ先が街であったならば、守るのも大変だろうからな。
チョコ丸の走る速さもあるが、直ぐに街が見えて来た。
ラノベによくある城塞都市だ。
周囲を城壁に取り囲まれ、出入り口には厳重な門が備え付けられている。
今もその門は閉ざされており、脇の通用口――といっても獣車が通れるサイズだ――が出口と入口で2つ開いているだけだった。
そこにはお約束で馬車や人が並んでいた。
おそらく昨夜のうちに到着したけれど、中に入れなかった人たちの列だろう。
これは長くなりそうだと俺は思っていた。
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