第83話 ついに伝える
「ホーホー」
暫く警戒しているとホーちゃんがまた鳴いた。
「何、2号? V〇?」
腐ーちゃん、言い方。あれはバッタ人間なんだからね?
「いや、ホーンラビットだって」
その報告に皆の緊張感が一気に萎える。
「ならもう大丈夫ね」
「僕も緊張して筋肉ガチガチだよ」
警戒心の強いホーンラビットが出て来るということは、周囲の危機が去ったことを意味していた。
バレー部女子、サッカー部女子も、それに気付いて気を抜く。
声こそ出さないが、皆同じように緊張していた。
俺は、緊張を解すため、あえて話題を逸らす。
「こんなのも街で売ったら金になるかもしれないから収納しとくか」
俺はバッタ人間をアイテムボックスに収納した。
ついでに倒した巨大カマキリも入れておく。
「街に行くつもりなの?」
マドンナが不安そうに言う。
街に興味があるから、というより俺が離れてしまうことを危惧したようだ。
マドンナは以前、街へ行くことを強く希望していたが、それは風呂に入りたかったためで、温泉をみつけてからは、むしろそっちに執着している。
「ああ、街で金が手に入れば小麦粉などの今は手に入らない食材が買えるだろ?」
「小麦粉!」「パン!」「パスタ!」「うどん!」
「お好み焼き!」「それは無理!」「ソースがないかー」
「いいえ、塩味ならいける」「「その手があったか!」」
「マヨだっていける」「酢と油ね」「卵あるしね」
女子たちの妄想が止まらない。
「それより、街に行けるならば、ノブちんたちのように保護を求めるのが良いのでは?」
バスケ部女子が冷静な意見を出す。
彼女は巨大カマキリにトラウマを植え付けられていたが、罠で巨大カマキリを討伐出来たことで、それを克服出来たようだ。
巨大カマキリを倒せる敵と認識することで、自信を取り戻しつつある。
それは良かったんだけど、ついにこの話題が来たかー。
俺は勇者召喚した国が信用できるかどうかという点を危惧していることを、女子たちにはまだ伝えていなかった。
どうせならば、ノブちんたちが迎えに来た時の様子を見て判断したかったからだ。
無駄に勇者召喚した国の恐ろしさを喧伝したいわけではないのだ。
だが、こうなったら伝えなくては先に進まない。
ここはオタク知識に造詣が深い腐ーちゃんに協力してもらおう。
「腐ーちゃん、ラノベの話だけど、勇者召喚した当事者が悪者だったという話があるよね?」
「最近はそれがテンプレになってますなぁ」
「俺は、この世界もそうかもしれないと思っている」
「その可能性は大いにあるね。
転校生くんは、悪者だった場合を考えて保護を求めない方が良いと思ってるのかな?」
腐ーちゃんは俺の言いたいことを察してくれたのか相槌を打ってくれる。
そして皆に聞かせるように言葉を選んでくれた。
「うん。だから、俺はまずノブちんたちが迎えに来た時の様子で、それを判断しようと思っている。
街に行って、俺たちを利用しようする連中と、わざわざコンタクトする必要は無い」
「捕まって
「奴隷!?」「戦争!?」
腐ーちゃんが出した衝撃的なワードに女子たちも危機感を持ったようだ。
「勇者召喚したのは、俺たちに何かをやらせたいからだ。
それが魔物から国を守ることでも、魔王を倒す事でも、俺たちには本来関係のない仕事だ。
なんで俺たちが命がけでそんなことをしないといけないんだ。
それを無理やりやらそうとするのか、自由にさせてくれるのか?
はたまた、嫌なら日本に帰してくれるのか?「帰れるの?」」
しまった、このワードはまだ早かったか。
話の途中で、マドンナが食いついてしまった。
「うーん、テンプレだと、帰れると騙して何かをさせるパターンかな?
ほとんど一方通行の話が多いね」
「そんな……」
「彼らに俺たちを誘拐したという贖罪意識があれば良いが、そうでない場合は利用されつくして終わりということも考えられる」
「つまり、保護を求めようとしていた相手は、私たちの誘拐犯だってことね?」
バレー部女子が考え込む。
俺たちに与えた不利益の見返りで優遇してもらえないならば、それは保護とはいえない。
利用しようとして召喚したからには、何らかの仕事を強要される。
そこに俺たちの未来を奪ったことに値する報酬や待遇が無ければ、それは協力するに値しないだろう。
「そう思って慎重に行動するべきだと思う。
だから、先に保護されただろうノブちんたちの待遇を見たいんだ」
「ノブちんたちが自ら拠点に迎えに来なかったら、奴隷化もあるってことね」
「うん。それにノブちんたちが来ても洗脳されているかもしれない。
その様子は見て判断しないとならない」
ノブちんたちに同行していた水トカゲ1が眷属から離れたのが痛い。
水トカゲ1によって彼らから情報収集が出来れば、保護した国のスタンスが判っただろうに。
「そうなると拠点に居たら拙いんじゃない?」
マドンナさん、そこに気付きましたか。
俺もそう思って、温泉の拠点化に前向きになっていたところだ。
「拠点は俺の眷属が見張って、誰かが来たらその様子を見ることにする。
問題なかったら、出て行くが、問題ありならばスルーする。
そうなると、俺たちは俺たちの力で生きて行かないとならない」
「待遇が良さそうならば、皆で合流すれば良いのね?」
いや、バレー部女子、そこは違うんだな。
「そこは個人で判断してもらう」
「えー、そんな判断、僕は出来ないよ」
サッカー部女子が頭を抱える。
そういった判断が苦手なようだ。
「合流が妥当かどうかを他人の判断に委ねて、後にその判断を誤りだったことがわかったらどうするの?
もし合流が正解で、合流しなかったことで贅沢な王宮暮らしが出来なくなったら、恨まれるだろう?」
「あー、そっちの可能性もあるのか……」
腐ーちゃんがあえて強調してくれる。
たぶん、腐ーちゃんは、そう思っていないのだが、皆のために判断材料を与えてくれているのだ。
「まあ、そこは迎えが来てからの話なので、それまでは快適な生活をするために、温泉に住居を作って、街へも買い物に行くということだ」
「買い物! 私も行きたい!」
マドンナが買い物というワードに飛びつく。
「私も!」「僕も!」
確かに、買い物はストレス解消になるんだよな。
希望者全員で行くとトラブルにも会い易くなる。
どうにかしないと後で困るな。
「とりあえず、騎獣たちが使えるようになるまでは、街へは行けない。
ひっぽくんとチョコ丸が育つのを待つしかない。
俺はチョコ丸で先行しようと思っている」
「えー、皆で買い物に行けないの?」
「それには、ひっぽくんが引く獣車を作らないとな。
それが無いと大勢での移動は無理だぞ」
とにかく、俺たちには釘すらないのだ。
獣車を一から作るのも今は無理だし、現物を買う金も無い。
冒険者という職業あって、魔物の素材売買があることを祈るしかない。
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