第67話 男子チーム捜索2

 翌日、俺はクモクモが作ったハンモックで目覚めた。

拠点内は暗黙の了解で女子エリアと男子エリアに分けられている。

しかし、寝床となるグレーウルフ毛皮は数は限られているため、必然的に身を寄せ合って就寝していた。


 だが、昨夜は男子チームが帰って来ていないため、男子側の毛皮が余りまくっている。

今夜はラキとクモクモを見張りに置いたため、全員で就寝することになったのがいけなかったのかもしれない。


 いつもならば男子の盾となっていたバスケ部女子が、今日に限って隅で縮こまっている。

男子側も寝ると朝まで身動きしないため無害と言われていた丸くんが不在だった。

つまり、男女の垣根が崩壊していたのだ。


 俺は定位置である女子からは一番遠い男子側の一番端っこに寝ていた。

女子との間にはかなりの隙間があるはずだった。

だが、気付くといつのまにか女子が隣に転がって来ていた。

寝相が悪いサッカー部女子だ。

彼女はいつもならば端で寝るのだが、今日一番の大けがだったため、余裕のある真ん中に寝かされていたのだ。


「おい、普通その怪我の後は動けないだろ」


 どうやったのかはわからないが、サッカー部女子は俺の隣まで転がって来ると俺を抱き枕のようにガッシリと抱きかかえていた。

俺は両腕ごとホールドされており、サッカー部女子を剥がせずにいた。

まあ、不可抗力だから仕方がない。

そう自分に言い聞かせていると、眠りの浅かった腐ーちゃんとメガネ女子がその状況に気付いた。


「ちょっと何やってるんですか!」


 メガネ女子が誤解して慌てる。

いや、見ての通りがっちりホールドされているだけだ。


「ぐふふ、メガネちゃん、邪魔しちゃだめです」


 腐ーちゃんが、わかっているくせに期待を込めた目をして煽る。


「ち、違う! 俺は抱き着かれて困ってる被害者だ!」


 なんとか誤解を解いて剥がしてもらったが、さすがにこのままでは居づらかった。

そこで、拠点の天井にクモクモにハンモックを作ってもらって一人で寝たというわけだ。

さすがに外で寝ろとは言われなかったぞ。


 ◇


「えー、俺は今日も男子チームの捜索に行ってくる。

ついでに獲物がいれば狩って来るから。

女子たちは昨日があれで怪我人も出たので、拠点で大人しくしていてくれ。

今日の朝食はとりあえずゆで卵を1人2個渡しておく」


 俺はリーダー(仮)として指示を出すと、ゆで卵と護衛にラキを残して拠点を出発した。

クモクモは俺が迷子にならないための道案内で連れていく。

そして、今日の切り札、ナイトバードのヒヨコは……。

まだヒヨコだった。しかも寝ている。

ナイトバードのナイトは騎士ではなく夜の方だったか。

どうやら夜行性で昼は寝ているらしい。

鳥のくせに夜行性って、フクロウか!


「さて困った。ナイトバードの探知で男子チームを探そうと思ったのだが……。

仕方ない。最後の手段を使おう」


 昨日のうちに、女子に水トカゲの所在を確認していた。

やはり、水トカゲは男子と女子で1匹ずつ持っていたらしい。

借りパク状態を謝られたが、水魔法が使えない者たちには必須の存在らしく、仕方ないのでそのまま預けることにした。

この時、確認できたのが、女子の水トカゲは水トカゲ2だったということだ。

これは大事な情報だった。

これで水トカゲ1と念話をつなげば、男子の居場所のヒントがわかるのだ。

さすがに音だけならば、最中でも我慢できるだろう。

だからこそ最後の手段だったのだ。


「水トカゲ1!」


 俺は水トカゲ1に念話を繋げた。

残念ながら、水トカゲ1はクモクモやラキとは違って下位の精霊らしく、その意志は伝わって来ない。

しかし、水トカゲ1が聞いた音は、そのまま伝えてくれていた。


『このまま進めば必ず街があるはずだよ』


『しかし、こっちで本当に良いのか?』


『僕の【予知】はレベルが上がったんだよ?

間違いなく、こっちだ』


 幸いなことに最中に遭遇することはなかった。

しかし、その会話内容を聞くに、男子チームは街道に出て街へと向かっているらしい。


「これなら大丈夫だな」


 俺は最中ではないことを確認したので、水トカゲ1に視覚共有を繋げた。

だが、水トカゲ1は誰かのポケットに入っているらしく、その視界は塞がれたままだった。

仕方ないので視覚共有を切り、全員が無事か声を聴いて判断することにした。


「全く声が聞こえて来ないのは、せっちんか……」


 彼は無口な方なので、会話に参加していないだけかもしれない。

声だけではせっちんが無事かどうかは不明だったが、男子チームの会話内容からして、誰かが欠けたという悲壮感は無かった。

おそらく全員が無事と見て良いだろう。


『早く街を見つけて助けを求めよう。

そうすれば、拠点の女子たちを助けに行ける』


『そうだね。俺たちが勇者召喚された勇者だと知れば、きっと保護してくれる』


『下手に女子たちを探すより、それが安全だよね』


 どうやら、男子たちは先に保護を求めて、それから女子たちを助けに来るつもりらしい。

ならば、このまま男子チームは放置で大丈夫だろう。

早く助けを呼んで来て欲しいものだ。

そうなれば俺たちのサバイバルも終わりを迎えることが出来るだろう。


「さすが最後の手段。これなら安心だな。

探知で探すまでも無かったな」


 俺は男子チームの無事を確認し、その報告を女子たちに持って帰ることにした。

いや、ダメだ。こんなに早く帰る前に獲物を狩って来ないと甲斐性が無いと思われる。

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