第66話 男子チーム捜索1

 男子グループを捜索中の俺は、その手掛かりの無さに途方に暮れていた。


「行先の当てがないというのは困りものだな」


 やはり貴坊の【予知】スキルで当てもなく彷徨ったのだろう。

以前に貴坊の【予知】を頼りにした時は、全員移動で行先は渓流沿いの下流と決めていたから、どうにかなった。

だが、例えば獲物を求めて【予知】で移動をし続けたとすると、そのうち拠点の位置すらわからなくなっていることだろう。


「心当たりを探そうにも、【予知】で知らない場所に突き進まれたんじゃ無理だな」


 男子チームが女子チームと競ったために、勝つ事に拘って引くという考えが抜け落ちていたのだろう。

獲物を得られなければ更なる獲物を得ようと躍起になっていたはずだ。

その結果訪れるのは……。


「おそらく迷子になったな」


 彼らは貴坊の【予知】で拠点を目指せば戻れると思っているかもしれないが、おそらく貴坊の【予知】は全てが正解ではない。

むしろハズレの方が多いと思われる。


 俺の場合はクモクモという案内役がいるし、単独での移動では慎重に木に目印をつけたりもしている。

そんなことすら男子チームはした形跡がないのだ。


 ここは慣れ親しんだ田舎の山じゃないんだぞ。

あまりにも自然と触れ合っていたからか、自然を嘗めているところがある。

実際、拠点に近い場所であれば、地図や人為的に付けた目印が無くても、彼らは拠点まで帰って来る能力を備えていた。

だが、それすら通用しない場所に迷い込んでしまえば、そんな勘に頼るような能力では、もう拠点に戻ることは不可能だろう。


「クモクモ、今日は諦めて拠点に戻ろう」


 そろそろ俺が二次遭難しかねなかった。戻るしかないだろう。


 ◇


 拠点に戻ると俺の胸に何かが飛び込んで来た。


「ぐはっ!」


 俺は胸部にダメージを受けて息が詰まってしまった。


「うぇーん。帰って来て良かったーーーーー!!」


 それは三つ編み女子だった。

三つ編み女子は俺に正面から抱き着いて離れようとしない。

巨大カマキリに背中を切られて出血した影響はもう無いみたいだ。


 俺はそっと彼女の背に手をまわしてトントンと叩き、落ち着かせようとして、あることに気付いた。

背中の傷部分の制服には巨大カマキリに切られた穴がある。

そこから触れてしまった背中にはあるものの感触がない。

そういや三つ編み女子はブラを切られてしまっていたはず。

つまり、抱き着く彼女はその胸部装甲に装甲が1枚足りていなかった!


「な、なぜ(ノーブラ)!」


 声に出さなかった俺を褒めて欲しい。

よく見れば拠点の中は女子8人に男1人のハーレム状態。

セクハラととられたら、死んでしまう!


 確かに装備品が壊れれば外すという選択肢はあるだろう。

だが、その状態で抱き着かれたら、男がどうなるかぐらいは想像できるはずだ。

やばい、意識してしまう!

もしテントを張ってしまったら危険だ!

俺は断腸の思いで三つ編み女子を引き剥がした。


「俺は無事だ。泣かないで」


 腐ーちゃん、なにニヤニヤしてるの!

俺はこの状況を誤魔化すために質問を投げかけた。


「バスケ部女子の件は解決したの?」


 腐ーちゃんがバスケ部女子を連れ帰ってからそこそこ時間が経っている。

既にバスケ部女子の拘束は解かれていた。

もう騒動が解決していれば良いなと俺は思っていた。

 

「うん、そうだね。

私も言い過ぎたし、バスケちゃんも危険なミスをしたことを認めて、お互い謝って終わりにした」


 バレー部女子が答える。

よし誤魔化せたぞ。


「怪我した皆もバスケちゃんがリーダーを降りることで納得することになったよ」


 腐ーちゃんがバスケ部女子のリーダー降板を告げる。


「そうか。なら次のリーダーは誰に?」


 俺は腐ーちゃんがリーダーになっていると思っていたんだ。

彼女がバスケ部女子に次いでレベルが高く、戦闘力もあるからだ。

だが、俺の予想に反して、別の人物がリーダーに就任していた。


 女子たち全員が一斉に指さしたその指先は、俺に集中していた。


「は? 俺?」


 俺は欠席裁判の多数決でリーダーにされてしまっていた。


「女子の危機に颯爽と現れた白馬の王子様は大人気なのさw」


 腐ーちゃん、何を言っているのかな?

なんか続けて放送禁止用語が濡れるとか言っていたが聞かなかったことにしよう。

薄い本じゃないんだからやめてよね!


 なんだか女子たちの欲望を纏わせたような視線が怖い。

これが吊り橋効果ってやつか!

なんとか誤魔化さないと。


「リーダーは落ち着いてから再考しよう。

それより男子チームなんだが、移動の痕跡がどこにもない。

おそらく貴坊の【予知】スキルで移動したんだと思う。

その結果迷子になったらしい」


「そうなんだ……」


「いまは捜索するスキルを誰も持ち合わせていない。

レベルアップに期待するか、彼らが自力で戻って来るのを待つしかない。

俺は明日も捜索してみるつもりだけどね」


「転校生くん、俺になってる♡」


 三つ編み女子、そこで♡飛ばさないで!

僕と言って取り繕っていた仮面を俺はうっかり外してしまっていたようだ。


「「素敵♡」」


 どうやら俺は、助けた女子たちに惚れられてしまったようだ。

俺を巡って女子同士でトラブルになっていないのは奇跡だろう。

でもそれ吊り橋効果だから!

明日にはその気持ちは消えてるから!

まさかと思うが、今夜は身の危険があるかもしれない。


「ん?」


 アイテムボックスに仕舞っていた卵に反応があった。

俺のアイテムボックスは、中に時間停止庫と時間経過庫があって、物を分けて入れられるのだ。

もちろん、生き物である受精卵は時間経過庫に入れてある。

その中で卵が孵りそうになると判るようになっているのだ。


「色卵が孵化しそうだ」


 俺はアイテムボックスから色卵を出した。

この時俺は、いろいろ面倒事から目を逸らせそうだと、うっかりアイテムボックスを使ってしまっていた。

これは三つ編み女子と俺との二人だけの秘密だったのだ。


「それ、私たちの秘密!」


 三つ編み女子がぷーっと膨れてまた抱き着いてきた。

その布1枚薄くなった胸部装甲は危険なんで勘弁してください。


「あ、ごめん。でも孵化しそうなんだ」


「もう、しょうがないわね」


 そうこうしているうちに色卵の殻が内側から割れて行く。

何が出て来るのだろうか?


パキパキパキパキン


 色卵から生まれたのは、茶色いヒヨコだった。

綺麗な卵の色からは想像も出来ないほど地味なヒヨコだ。

あれか、みにくいアヒルの子のように成長すると綺麗になるパターンか。

とりあえず実験その1である、種類を指定しない卵は鳥という推測は当たっていたということか。

残りは明日に虫卵Lv.3が3つと謎のトゲ卵Lv.2が孵る予定で、明後日が鳥卵Lv.3とトカゲ卵Lv.3だな。


「なにこれ、ヒヨコ?」


 三つ編み女子がその可愛さにくいつく。

なぜか彼女の距離が近い。


「たぶん鶏のように明日になれば成鳥になると思う」


「この子も眷属なの?」


 そうか、眷属ならばステータスで調べれば正体がわかるか。


ナイトバード雛(?) ▲ レベル1

             スキル 探知


「うん、ナイトバードという鳥で、眷属になってるね。

しかも【探知】スキルを持っている!

これで男子チームを探せるかもしれない」


 そういえば、眷属は何匹まで持てるのだろうか?

たまご召喚の時に渡したMPだけで無限に増やせるのだろうか?

これも実験しないとだな。

もし上限をオーバーしてしまったら、誰かをリストラすることになるのかな?

そういえば、借りパクされている水トカゲは今どこにいるんだ?

2匹とも居ないとなると、男子と女子で持っているのか?


「あ、視覚共有すれば……」


 いや、やめておこう。

水トカゲの主要な役目はお尻洗浄だからな……。

最中に当たってしまったら最悪だ。

男子のトイレ姿など見たくもないからな。

もちろん女子のなんて見てしまったら変態さんになってしまって命に係わる。

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