第35話 全滅?

Side:ヤンキー6=サンボー


 城からの使者の案内により、俺たちは彼ら捜索隊の本部といった陣地に連れて来られた。


「よくぞご無事であった、勇者様方!」


 そう声をかけて来た大男は捜索隊の指揮を任された第6騎士団の団長さんだという。

磨き上げられた立派な鎧を軽々と着こなすその筋肉ダルマは、暑苦しく俺たちを歓迎してくれた。


「さあさあ、こちらの幕舎でお休みくだされ」


 俺たちはそのまま幕舎へと連れていかれ、軽い身体検査――怪我の有無の確認だな――と食事を振舞われた。

今までまともな料理を食べて来なかったことと、味のある食べ物に皆は安堵の表情を浮かべていた。

一部空気の読めないやつがテーブルマナーも何もなく下品に食っていて恥ずかしかったが……。

温かい食事と、屋根がありベッドと温かい毛布のある生活は、疲れ果てた俺たちから一瞬のうちに意識を刈り取っていた。



 ◇



 俺たちが救出されて2日、俺たちは依然捜索隊本部に留め置かれていた。

城に戻るにしろ、他のメンバーと合流してからということらしい。


「ちょっと良いだろうか?」


 俺たちの幕舎に筋肉ダルマがやって来て、俺を見つけると話しかけてきた。

他の奴に話しかけても無駄だと学習したようだ。


「君たちを見つけた騎士の報告によると、まだ15名の勇者様が森に残っているということでよろしいか?」


 騎士とは俺たちをここまで連れてきた城の使者と称した伝令兵のことだろう。


「その別れてしまったという場所は、この渓流の脇なのだな?」


 筋肉ダルマは簡易的な地図を示して俺に訊ねる。

俺たちは、その渓流沿いに下って来たので間違いないはずだ。

その間、筋肉ダルマは厳しい表情を浮かべている。


「何かあったのか?」


「いや、この先まで騎馬にて確かめに行ったのだが……」


 筋肉ダルマが口籠る。

嫌な予感がする。


「まだ確定ではないのだが……」


「じれってーな! いいから話せよ!」


 赤Tヤンキー2がキレて暴言を吐く。

やめてくれ、この人はこの国のエリートだぞ?

今後世話になる国の偉い人だっていうのに、ここで印象を悪くしたら俺たちの扱いに響くだろうが。


「そうだな。まず状況を知ってもらうべきであろうな」


 筋肉ダルマが重い口を開く。

赤Tヤンキー2の暴言に気を悪くしないでくれたようでよかったわ。


「キャンプ地を発見したのだが、そこは灰色狼に荒らされた痕跡があった。

君たちはレベル3もしくは5ぐらいまでだろう?

ゴブリンならば討伐可能だろうが、灰色狼は無理だ。

灰色狼の群れの討伐推奨レベルは10以上なのだよ。

つまり……」


「おい、嘘だろう?」


 俺たちは委員長たちのグループが全滅したらしいことを知らされた。

いくら頭が悪くても、筋肉ダルマが言いたいことは理解できるだろう。


「つまり委員長たちはレベル10を超えているのか!」


 青Tヤンキー4が的外れなことを叫ぶ。

バカはスルーしておこう。

筋肉ダルマもここ2日でスルーするべき対象は理解したようだ。

話しかけるのは俺だけになっているからな。


「まだ確定したわけではない。

これからも捜索は続けるつもりだ。

だが、君たちにはこのまま王都へと向かってもらうことになった。

なに、心配することはない。我々も隊を分けて同行する」


 つまり委員長グループの捜索は縮小されるということだった。

どうやら奇跡でも起きない限り、灰色狼から生き残ることは絶望的らしい。


 こうして後ろ髪を引かれつつ俺たちは王都へと向かうことになったのだ。

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