第36話 チーム分けを再考する

 グレーウルフに追われる恐怖と戦いながら、委員長チームが拠点に帰還した。

ラキは自分のおかげだと念話で得意になっているが、無事帰還できたことで増長したのは委員長だった。


「ほら、ウルフ系など囲まれても大したことなかったではないか!」


「いや、たまたま大量のゴブリンという餌があったから、ウルフはこちらを見逃しただけだ。

こちらが傷つき御し易いと判断されたら、全滅もあったはずだ」


 委員長の暴論にバスケ部女子が反論する。

どうやら他のメンバーもバスケ部女子に同調しているようだ。

委員長チームは最早バスケ部女子チームと化していた。


「皆も同じ意見なのか……」


 委員長は自分の支持率の低さに項垂れた。

ラキがドラゴンの威圧を放ったから助かったという事実は黙っておこう。

ラキを通して覗き見していたことは秘密だから言えないんだけどな。


「転校生くん、ラキちゃんのおかげで助かったわ」


 ちょ、三つ編み女子、それ言っちゃダメなやつ。

と思ったが、良く良く考えれば、それはラキが爪斬波を使ったことなのか、ウルフを怯えさせたことなのかは判らなかった。


「役に立ったなら良かった」


 俺はそれだけしか言うことが出来なかった。

一部始終――三つ編み女子の胸元含む――を見ていたなんて言えるわけがないからだ。


「レベルは私が6、ノブちん、せっちん、マドンナ、サッカーちゃんが4、委員長、貴坊、三つ編みちゃんが3になった」


「どうだ、僕たちのチームはレベルアップ率が高いだろ」


 委員長がバスケ部女子の報告を遮るように自慢した。

まるで自分の手柄のようだ。

だが、俺は知っている。委員長のミスによりチームに犠牲者が出かねなかったことを。

何言ってんだこいつという認識しかない。

しかし、状況を知らない留守番組は、委員長に尊敬の目を向ける。

いや、それ違うんだけどと俺が言うと覗いていたことがバレる。

おい。バスケ部女子、否定してくれ。


「そうだな。委員長には別のチームも指揮してやってほしいな」


 あ、バスケ部女子のやつ、厄介者をこちらに擦り付けようとしているな。

そうはいくか。


「委員長に来られても、こちらはバランスが悪くなるだけだろう」


「いや、次はレベル3以下のメンバーがレベルアップするべきだから、編成しなおした方が良いよ」


 俺がそう否定的な意見を言うと、直ぐに栄ちゃんが真っ当な意見を出す。

たしかに理屈ではその通りだ。

委員長が厄介者だということは、バスケ部女子と俺しか認識していないのかもしれない。

結果オーライで委員長の遠征は成功してしまっているのだ。

なまじテコ入れなんてするんじゃなかった。

かと言って、誰かが犠牲になるのを黙って見ているわけにはいかない。

むしろ転校生であり一人レベル9と突出している俺の方が、このクラスでは厄介者なのかもしれない。

一瞬俺の脳裏に「出て行く」という選択肢が浮かんだ。


「私は転校生くんと一緒が良い」


「え?」


 メガネ女子の急な発言だった。

もしかして、メガネ女子は俺のことを……。


「私も」「私もかな~」


 三つ編み女子と腐ーちゃんも同調する。

メガネ女子はレベル2、後の二人はレベル3だ。

え? 俺モテモテ?


「じゃあ、私も」


 同様にレベル3の裁縫女子も手を挙げる。

これはなんのハーレムですか?


「パワーレベリングというのはレベルの高い人にくっついてやるものでしょ?」


 ズコーーーーーーーーーーー!!


 ラノベ知識の造詣が深いメガネ女子の発言に俺は大コケした。

俺はただの引率者か!

でも、女子に頼られるなら、まだここに居ても良いのかもしれない。


「ああ、それも一つの手だね。

じゃあ、僕は貴坊、丸くん、栄ちゃん、雅やんを連れて行こう。

あれ? 完全に男女で別れてしまったな。

ならノブちんとせっちんにも来てもらおうかな?」


「私は拠点に残るバレーちゃんを守る」


 バスケ部女子が逃げた。

しかし、拠点を守らなければならないのも事実だ。


「じゃあ僕も」「私も」


 バスケ部女子とサッカー部女子にマドンナは居残りとなった。

レベル6とレベル4に守られればバレー部女子も安全だろう。


「よし、それじゃあ、明日は2チームで別行動にしよう」


「わかった」


 俺は渋々承諾せざるを得なかった。

一緒だと人数的にも邪魔になるのが目に見えていたからだ。

だが、委員長が張り切っているが、大丈夫なんだろうか?

ここはラキを……。


「くわぁ、くわくわ」


 ラキが念話で拒否して来た。

女子と一緒が良いって?

俺は何も言うことが出来なくなってしまった。


 ここは新たな眷属を召喚して……。

ああ、トカゲ卵Lv.2は孵化に2日かかるんだった。


パリパリ パリパリ


「おお、そういえば昨日の卵が孵るぞ」


 それは水トカゲと火トカゲだった。


「うわ、水トカゲがダブった。

まあ、水トカゲはある用途で俺のところに帰って来ないからダブりは歓迎だけどな」


 トカゲ卵Lv.1ではもうこれ以上役立つトカゲは召喚出来ないのかもしれない。


「となるとトカゲ卵Lv.3か、ん? これは!」


 俺はレベルアップによって解放されたある項目に注目した。

それは虫卵Lv.3だった。

レベルが急に複数上がったため、いきなりLv.3になっている。


「虫か! 糸とか役立ちそうな気がする」


 そう思っていた時期が俺にもありました。

俺は調子に乗って虫卵Lv.3を2個――MP9×2を消費して手に入れてしまった。

それはバスケットボール大の真球の卵だった。

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