第32話 委員長チームを覗く2

『くわぁ!』


 その時三つ編み女子の胸からラキが飛び出し、ゴブリンにその小さな腕の爪を振るった。

体長20cmのラキの爪からは【爪斬波】という斬撃が放たれ、ゴブリンをこん棒ごと切り裂いた。


『うぇ~ん。ラキちゃん、ありがとう。

マドンナちゃん、貴坊が~』


『三つ編みちゃん! 直ぐ行く』


 マドンナが駆け付け、貴坊に【ヒール】をかける。

このチーム、マドンナが居なかったらヤバかったんじゃないか?


 どうやら委員長担当の左翼が破られたらしい。

ヘイトを集めていたノブちんが大きい奴に手を取られ、バスケ部女子とサッカー部女子を火魔法で転げまわるゴブリンの制圧に向かわせたため、一気に左翼の委員長へとゴブリンが群がったのだろう。

男として良いところを見せたかったのだろうが、そこはレベルの高いバスケ部女子に任すべきだっただろう。

彼女なら低レベルの時にその身体能力のみでゴブリン5体を単独で倒した実績がある。

火魔法で傷つき転げまわっているゴブリンの対処こそレベルの低い委員長がするべきだったのだ。


 そして、判断ミスは敵戦力の見誤りにもあった。

大きい奴はただのゴブリンではなかったのだ。

ホブゴブリン、ゴブリンの上位種だ。

その強さはノーマルでゴブリンの低レベルアップ個体であるゴブリン〇〇といった個体を上回る。

本来ならば、撤退をするべき相手だったのだ。


 ホブゴブリンは、ノブちんのギフトスキル【脂肪の盾】の防御力とバスケ部女子のレベルと純粋な戦闘力により倒すことに成功した。

もしもう1体ホブゴブリンがいたら、もし回復魔法の使えるマドンナが同行していなかったら、誰かが犠牲になっていたところだった。


 ラキの活躍? それは織り込み済みだ。

俺との絆が育ちつつある三つ編み女子を、守ってもらうために同行させたのだから。



 ◇



 瀕死のゴブリンが集められ、皆で輪になって会議が始まった。

ラキはまた三つ編み女子の胸に収まり視界も良好だ。

この会議の議題は誰をレベルアップさせるべきかというものだった。


『19、20、21、22! 22体もいた!』


 10体という見積は何だったのだろうか?

倍も過小評価されていたのでは、いつか誰かが死ぬぞ。

そのうちホブゴブリンを含む6体が倒されていた。


『瀕死のゴブリンは16体だ。

レベル2の者は僕を含めて全員が1レベルアップするために2体殺すよ』


『『『『わかった』』』』


 レベル2は委員長含めて5人だった。

ノブちんはホブゴブリンとの戦闘でレベル2からレベル4にレベルアップしていた。

同様にホブゴブリンを倒したバスケ部女子はレベル4からレベル6にレベルアップしている。

レベルが高くなると次のレベルへの必要経験値が高くなるが、とどめを刺した分だけバスケ部女子が得た経験値の方が高かったようだ。


 サッカー部女子は先行チームでレベル3にレベルアップ済みに加え、ここでもゴブリンを2体倒して経験値としている。

レベル4間近だが贅沢は言えなかった。


『残りは6体だが、報告によると次のレベル3に上がるには3体殺す必要がある。

まずはサッカーちゃんに譲ろう。残り3体はぼk『マドンナを強化しないと危ないよ』……』


 委員長が僕と言おうとしたところをバスケ部女子が遮った。


『そうだね、今回も回復魔法が無かったら危なかった。

マドンナにレベル4になってもらおう』


 サッカー部女子が、ゴブリン1体にとどめを刺すと、そこで作業をやめた。


『どうしたんだい?』


『先に2体倒していたから1体でレベルアップした』


『じゃあ、ぼk『ならば、火魔法で援護したせっちんもレベルアップしないかな?』……』


 また委員長が僕と言いかけたが、攻撃魔法の要であるせっちんへということになった。


『おお、2体でレベルアップした』


 どうやら先ほどはサクッと2体やったことで、1体目だけでレベルアップしたことに気付かなかったようだ。


 これでバスケ部女子がレベル6、ノブちん、サッカー部女子、マドンナ、せっちんがレベル4となった。

残りの4人はレベル3だ。

どうやら委員長チームの遠征も成功で終わりそうだった。


『委員長、良いか?』


 バスケ部女子が真剣な顔で委員長に向かっていく。

その剣呑な様子に同級生たちの顔が曇る。


『何かな?』


 委員長もビビっている。


『さっき命令にスキルを使ったか?』


 さっきとはせっちんの火魔法で転げまわっているゴブリンの脚を斬れと委員長が指示した時のことだ。


『あの時、私はそれが悪手だと知りながら命令に抗えなかった。

あれは委員長の【統率】の効果か?』


『たぶんそうだ』


 悪手と言われ、委員長の表情が曇る。


『ならばやめてもらおう。

あの時倒れているゴブリンの対処はレベルの低い者がやるべきことだった。

だから委員長側の左翼が崩壊し、貴坊が負傷した。

当たり所が悪かったら貴坊は死んでいたぞ』


 貴坊が死んでいたかもしれないと言われ委員長はショックを受けていた。

委員長は【統率】のスキルで相手を支配し操れるが、その統率するための知識が伴っていなかったのだ。

先ほどのゴブリンの分配でも、委員長に「残りは僕に」と言わせてしまったら強制力が働き、マドンナとせっちんのレベルアップは無かっただろう。


『そうだな。たしかに悪手だった。

次からはお願いとしてスキルが乗らないように気を付けよう』


 バスケ部女子が言わなかったら、俺が言っているところだったのだが、さすが強気のバスケ部女子だ。


『わお―――――――――――――ん!』


 その時、何処からか犬系の遠吠えが聞こえてきた。

ゴブリンの血の臭いを広げすぎたのだ。


『拙い、ウルフだ! 全員逃げろ!』


 俺の念話はラキ以外には伝わらなかった。 

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